遊撃自警団ギルドにて、勇者トリスタンさまのパーティーと、遊撃自警団ギルド長のセシルさんを交えた作戦会議の終了間際に、俺は一つの提案をしてみた。
「セシルさん。国王に頼んで、草原の南に流れている川沿いにローラン城からメリッサまで堀を作れませんかね?。深さはカーズの街の半分程度で構いません。堀の土は川に堤防を築くように盛り上げて下さい。」
それを聞いたセシルさんは相当に怪訝そうな顔をした。
「ローラン城までは歩いて2~3日程度だから、軍や周辺の街の自警団の手も使えば、メリッサの襲撃まで間に合うと思うけど、まだメリッサが襲撃されると確実な情報を得たわけでもない。ところでキョウスケは何を企んでいる?」
「草原の街道ルートが魔王軍に封じられた場合、川を使ってメリッサに王国軍を投入するしか道はありません。そのための防御線ですよ。盛った土の上に軍を並べて、船を襲撃する魔王軍に備えます。雨期の洪水も防げるから、国王には一石二鳥をアピールして下さい。」
それを聞いたシエラさまが、クスクスと笑い始める。
「キョウスケ殿はマジに凄いわよ。あなたのような宮廷魔術師や参謀がいたら、絶対に国として敵わないわ。ローラン国にキョウスケとヒマリありと覚えておくわよ。ここが、周辺国と友好的なローラン国で良かったわ。」
そしてトリスタンさまが、席を立つと、今までの作戦会議の結論を出した。
「シエラよ、それはともかく、その役目はセシルではなく私がやろう。どのみちローラン城からメドゥーサがいる沼は近い。私から王に頼めば、セシルより説得がスムーズだろう。今までの情報から考えると、メリッサは、最初に襲撃されることが間違いないと考えている。」
俺は、トリスタンさまに、厄介ごとに巻き込まれないように、頼みごとを申し出てみる。
「トリスタンさま恐れ入ります。その案に関しては、私の発案ではなく、セシルさんとトリスタンさまで決めたと仰って下さい。私のような遊撃自警団ギルドの一員が決めたとなると貴族達は面白くないですが、トリスタンさまなら貴族は嫌顔でも従うでしょうから。」
俺の発案なんて言ってしまうと、誰も取り扱ってくれないだろうし、セシルさんが国王や貴族を説得しに回るのが明らかに分かったので、手間がかからない手段を考えたのだ。
その発案に、イジスさまがニヤリと笑って口を開く。
「キョウスケ殿の案に私も賛成ですぞ。いやはや、これだけ優れている参謀がいると心強い。」
ハッと思って俺は手を打って一つの案を示した。
「トリスタンさま、それに皆様は船酔いは大丈夫ですか?」
一様に3人は大丈夫だと答えた。
「セシルさん、メリッサからローランに流れる川を使って、一気に川下りをしましょう。国王の依頼で川の魔物を一掃するために、一度だけ川を下って城に行ったことがありましたよね?。少しばかり癖のある魔物もいますが、お三方なら絶対に無事でしょう。今から船を手配すれば、川を下るから1日でローラン城に着けますよ?」
セシルさんはそれを聞いて、お腹を抱えて笑っている。
「はははっ!!!。キョウスケは考えていることがマジに恐いよ。いいよ、すぐに手配するからね。魔道通話を使って、国王にトリスタンがローラン城に行くことを伝えるよ。川の魔物も一掃できるから、軍も川を使いやすからね。まったく、お前って奴は…。」
そして、俺はシエラさまを見て、ニッコリと笑って勇者パーティーに追加情報を入れた。
「セシルさん、少し大きな船を手配して下さいよ。道中に大きな魚の魔物がいますが、シエラさまは最初に火系の魔法でソイツを焼いて昼食にして、あとは氷漬けにして城の市場に売り渡して下さい。美味なので高く売れますし、よく焼いたり氷漬けにすることで、寄生虫も防げます。」
俺の言葉に、全員が声を出して笑っていた。
◇
作戦会議が終わった後、俺と陽葵はメリッサの北東にある隣街のオーフェンに向かった。
東には大きな山脈があるから、その山脈の麓に大きな洞窟があるのだ。
オーフェンの街までは歩いて1~2時間程度で、オーガキングが大量にいる洞窟は街からさほど離れていない。
「陽葵さぁ、あの洞窟にオーガキングが20体だけど、その親分って厄介そうだよな?。」
俺はオーフェンの街まで陽葵と雑談をしながら、街道をのんびりと歩いている。
「あなた、そう思うわよ。カーズの街で依頼を受けたときに厄介な魔王軍の手下がいたわよね?」
「あれは厄介だったなぁ。久しぶりに剣を振るったけど、アフロディーテさまの援護がなかったら、マズかったよ。」
あの時の親玉は魔族であると同時に、魔神の力も帯びていたので、普通の剣では太刀打ちができなかった。
陽葵は、俺が戦ってる姿を見て、自然と俺にベタ惚れになったお陰で、アフロディーテさまの一部を陽葵に召喚させて、俺の剣に、女神アフロディーテの神気を宿して倒したのだ。
「ふふっ♡。今回も同じような感じになるわよね。勇者さまが持っているような聖なる力を帯びた剣がないから、私たちの愛の力で聖剣を作るのよ♡。」
そうやって陽葵がのろけると、時折、アフロディーテさまの力が少しだけ発動してしまう時がある。
今も、目の前にいたスライムが跡形もなく消え去って、魔石が地面にポトリと落ちた。
陽葵や俺が通った道は、しばらく魔物が寄りつかなくなるので、難しい依頼を寄越してくる領主などは、わざわざ俺たち夫婦を指名してくることもある。
俺はスライムの魔石を拾いながら、魔族が魔石を落とさないことにぼやきを入れた。
「魔王軍の幹部は、不思議と魔石を残さずに邪神の気だけで動いているから、タチが悪いよなぁ。倒しても魔石がなくて証拠が残らないから、その後の報告が面倒くさくて。」
そんなことを陽葵と話していると、俺たち夫婦はオーフェンの街について、街の門で見張りをしている遊撃自警団が俺と陽葵を見つけると、手放しで喜んでいる。
「あぁ~~~!!。メリッサのウルトラエースがやってきた!!。勇者様のパーティーに入った自警団のエースだぞ!!」
そして、もう1人の見張りからニコニコされながら、俺たちは声をかけられる。
「キョウスケさん、ヒマリさん、うちのギルド長が会いたがっています。早くギルドへ行って下さい。」
俺と陽葵はオーフェンの中心部にある遊撃自警団ギルドへ急いで向かった。