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第8話:魔王軍から国を守るために。

 -翌朝-。


 俺と陽葵は勇者トリスタンさまのパーティーと共に遊撃自警団のギルド長の部屋でセシルさんと打ち合わせをしていた。


 セシルさんはローラン国王から伝達があった情報を俺たちに伝える。


「これは国からの情報だが、どうやら魔王軍は、ローランを標的にして、どこかの街を取り囲んで殲滅せんめつさせようと画策していて、メリッサもその候補にあがってるらしい。」


 トリスタンさまが、少しだけ声を大きくして、事態の深刻さを強調した。


「昨日のゴブリンの群れもそうだが、ローラン国内で上級種の魔物が異様に集まっている上に、暴走を繰り返しているから、どこかの街を数千規模の魔物で取り囲んで一気に殲滅せんめつさせる可能性が高い…。」


 魔王軍のやり方は姑息だ。


 どこかの街を取り囲んで殲滅させようとするとき、強いスキルを有した人間を分散させるために、攻撃しようとする街の周辺や国の中で、強い魔物を集めて暴れさせたり、王国騎士団クラスでも手こずるような強い魔物を魔術で暴走をさせる。


 そうすることで、各地に有能な人が散らばるので、数千の魔物に取り囲まれた途端に対抗できるだけの戦力が削がれているから安易に攻め落とされてしまう。


 イジスさまがいるアルラン帝国では、その魔王軍の戦法で去年は2つの街が魔物に蹂躙じゅうりんされて復興ができないぐらい滅茶苦茶にされてしまった。


 トリスタンさまはこのローラン国で同じような悲劇を起こしたくないので、何らかの手を打つために急いでメリッサに来たのが真相らしい。


 セシルさんが腕を組んで、眉間にしわを寄せながら俺たちに、新たな情報を伝えた。


「トリスタン。それにキョウスケやヒマリちゃん。どうやらメリッサの隣街のオーフェンにある、あの洞窟にオーガキングだけ20体も住み着いたらしい。どう考えても、魔王軍の奴らが、この国に仕掛けているだろう。」


 俺は手をあげて、一つの作戦を提案した。

「トリスタンさま。魔王軍の連中が、罠を仕掛けやすい場所って目星がついていますか?」


 勇者パーティーの3人が俺をジッと見つめていたが、シエラさまが不敵な笑いを浮かべながら俺に問いかけた。


「キョウスケ殿、なにか企みがありそうね?。」


 シエラさまの問いに俺はうなずくと一つの案を提案した。

「トリスタンさまは仲間を連れて、次に魔王軍が仕掛けそうな場所を探して、先回りをして手先を叩きましょう。私たち夫婦は、オーガキングを倒しますよ。2日もあれば十分でしょう。」


 トリスタンさまが、俺の提案に少し考えて、口を開く。


「キョウスケ殿の考えは良策と言えると思う。しかし、魔王軍の手先の動きを掴むのは容易でない。ローラン国の懸念は、メドゥーサがいる沼やドラゴンの谷か…。」


 陽葵がトリスタンさまの話を聞いて、何かに気付いたようで手を挙げて意見を述べた。


「トリスタンさま。アルラン帝国の2つの街を陥とされた傾向を考えてみると、魔王軍は、徐々に魔物を強くして、あちこちを混乱させる作戦だと思いますよね?。」


 その言葉にイジスさまが激しくうなずく。


「ヒマリ殿、その通りです。おそらく魔王軍が狡猾こうかつなので、メドゥーサが暴走することは抑えられませんが、勇者パーティーがその場にいることが、魔王軍にとって牽制になるから、相手を焦らせると思います。キョウスケ殿とヒマリ殿がオーガキングを叩いている間に、私たちが手を打つのは悪くないかと思います。」


 シエラさまも同じようにうなずいて、口を開いた。


「そうよ、アルランの二の舞は避けたいわ。私達は後手に回りすぎて悔しい想いをしたのよ。少しでもいいから、魔王軍の動きを牽制して、襲撃する街にいち早く私達が向かって襲撃を阻止できるかが鍵だと思うわ。私たちの力があれば、1万の魔物に取り囲まれようとも、王国が討伐軍を向かわせるまでの間、耐え抜くことは可能よ。」


 彼女の言葉に、セシルさんがうなずくと、すぐさま言葉を返す。


「シエラちゃん。キョウスケとヒマリちゃんが加われば、王国軍の到着なんて待たなくても、5人で数千の魔物を殲滅できそうな気がするよ。早い話が、二手に分かれながらも、戦力分散を企んでいる魔物を予想外のスピードで倒してしまって、魔王軍が攻め入ろうとする街に5人が集結する形を整えた時点で、我々は大成功という訳だ。」


「セシルさん。このメリッサは真っ先に魔王軍に狙われますよ。西には草原が広がって、北は森があります。魔王軍は西にある草原に大量の魔物を配置しておいて、同じく西にあるローラン城からの救援を断つでしょう。それで北の森にも魔物を大量に配置すれば、逃げられるルートは南にあるルネの港町のみですよ。東は険しい山がそびえ立っているから逃げられませんから。」


 俺の話を聞いたトリスタンさまが。驚きを隠せない表情で俺をジッと見て口を開く。


「キョウスケ殿は王国軍を指揮した経験がおありなのか?。その口ぶりは、軍の戦術や戦略を理解していないと、すぐには出てこない言葉だぞ…」


 セシルさんが俺のかわりに詳しく説明をしてくれた。


「アルラン帝国のあの街が陥落して、魔王軍が国境のカーズの街を攻め入ろうとしたときに、難しい依頼を受けていて偶然にもカーズの街に俺とキョウスケ夫婦がいたんだ。国軍の援軍が間に合わなくて、俺が魔道通話を使って国王とかけあって、国境警備の王国軍とギルドの混成軍でキョウスケが3千の部隊を率いて軍を指揮した経験がある。コイツは魔道書ばかりではなく、古代の戦術書も好んで読むからわけが分からない。」


 そのセシルさんの説明に、陽葵が捕捉を入れ始めたので、正直、勘弁して欲しいと思いながらも、俺は陽葵の話を黙って聞くことにする。


「夫は指揮をとると、5千の魔王軍に対して、3千の軍で打ち破ったぐらいすごかったわ。谷の狭間に魔物を追い込んで上から複数の魔術師が魔法でひたすら攻撃したり、夫が少し強い爆破の術式を使いながらでカーズの街の周りに掘を作って魔物が街に入るのを阻止したのよ…。」


 トリスタンはカーズの街に入ったときに城塞のように周りを囲むように堀があったので、軍事侵攻を好まないローラン国が城塞を築くなど、あり得ないと不思議に思いながら、街で食糧調達をして通り過ぎたことを思い出した。


「キョウスケ殿、あの堀は、あなたが作ったものでしたか…」


 トリスタンさまは、少しだけ微笑みながら、俺をジッと見ていたから、相当に期待されていることを悟って、内心は面倒くさくて仕方がない自分がいた。

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