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第6話:勇者トリスタンの面目。

 俺は勇者トリスタンのパーティーをメリッサの街へ道案内をしていた。


 ようやく女神アフロディーテを降臨した後の精神干渉から解けて陽葵が普通に戻ると、改めて勇者トリスタン達に挨拶をする。


 勇者トリスタンさまは、早速、俺と陽葵に、勇者パーティーに入るように勧誘をしてきたので、俺たちはメリッサのことを思うと、安易に引き受けられずにいた。


「キョウスケ殿、そしてヒマリ殿、私たちがローラン国にいる間だけでいいから私達のパーティーに入らないか?。ギルドへの確認もあると思うが、貴殿達の強い力を持って私達と共に戦えば魔王をも打ち砕く。共に戦ってくれ。」


『困ったなぁ、このまま俺達が居なくなればメリッサの街が危なくなる…。たぶんギルド長のセシルさんも断るんじゃないかな。ただ、勇者法があるから、セシルさんの交渉次第だなぁ…。』


 俺は勇者トリスタンさまの勧誘に曖昧な返事をして、セシルさんに少し委ねる形で、その場を逃れることにした。


「トリスタンさま、とりあえずギルドの意向も聞きたいので、セシルさんと話をさせて下さい。」


 そう言うと、トリスタンさまは苦笑いをしている。


「そうだろうな、貴殿たちはローラン国の遊撃自警団ギルドのウルトラエース的な存在だからな。セシルも簡単に離さないだろう。ただ、勇者法もあるから、具体的なことはセシルと詰める事になるか…。」


 それはそうだ。

 勇者法というのは、国王から任命された勇者が、仲間を指名したときは半ば絶対命令で聞かねばならぬ法律がある。


 要するに国王の代理で魔王を討伐するので、それは王命に近い形になるし、勇者が食糧や武器調達などをする際は、必ず、市民も含めて協力をすることなどが、法律に盛り込まれている。


 ただし、パーティーに入る側も一応の拒否権は認められているので、拒否をしたからと言っても、罰せられることはないが、周りがとても五月蠅いので、否応なしに引き受ける形になってしまうのがお約束だ。


 陽葵も、俺と同様に色々と悩みながらも、暗に断りの言葉を口にする。


「勇者トリスタンさま、お言葉はありがたいのですが、私達が慣れ親しんだメリッサの皆さん気持ちもあります。わたしの夫と共にセシルさんと一度、お話をさせて下さい。」


 そんな話をしていたら、いつの間にかメリッサの街が見えてきた。


「トリスタンさま、そろそろメリッサの街ですよ。」

 トリスタンさまは上機嫌だった。


「こんなに早い近道があるとは知らなかったぞ。それだけでも、貴殿たち夫婦は、私たちに貢献をしている。ありがたきことよ…。」


 それを聞いて俺は思うところが沢山あったが、口に出さずに頭の中だけで重い留めた。


『これだから勇者なんだよな。少しでも自分達にプラスになる事があれば、相手を褒めて感謝の言葉を口にする。そういう事って意外と難しい。世の中なんて、けなす奴ばかりで相手の良いところを褒める奴なんて少ない…。」


 俺達はメリッサの街に入って、早速、遊撃自警団のギルドに向かい、職員専用の入り口を抜けて受付に行くと、受付のサラさんが勇者に気付いて片膝をついた。


「勇者トリスタンさま、お疲れさまです。すぐにギルド長のセシルさんを案内します。」


 俺達はどうするか戸惑っていると、セシルさんがやってきて声をかけた。


「キョウスケ、それにヒマリちゃん。お前たちがトリスタンを連れてきた時点で事情を察した。おい、みんな、こっちに入れよ!。」


『ギルド長は勇者と知り合いなのか?』


 そう思いながら、ギルド長の部屋に入ると、勇者パーティーと俺達もソファーに座らされた。


「キョウスケ、それにヒマリちゃん。トリスタンとはガキの頃から遊び相手でね。俺は遊撃自警団の道を選んだから、コイツのパーティーに入ることはなかったが…。」


 そして、セシルさんはトリスタンさまの顔を見ると、単刀直入に話を切り出す。


「トリスタン。キョウスケとヒマリちゃんを、お前たちに渡す訳にはいかねぇ。コイツらは、ローラン国のウルトラエースだ。この2人がいなければ、この国の遊撃自警団は終わったと同じだぞ。」


 それを聞いて、トリスタンさまは少し苦笑いをしている。

「セシル、それは仕方がないのは分かるが、この街に入るときに、2人は勇者パーティーに入るのかと街中の噂になってしまっている。俺の面目もある。どう片付けたら良い?」


「トリスタンがこの国にいる間は、ギルドの仕事をやるついでに、2人を貸すことはできる。だが、魔王を倒すまで、お前たちのパーティーに入って、キョウスケと陽葵をコキ使うのは無理だ。魔王がこの街にくれば話は別だ。たぶん、この5人なら魔王軍の1つや2つぐらい撃退できるだろうからね。」


『おいおい、セシルさんもトンデモねぇことを言わないでくれ。』


 そう思って俺が苦笑いしていると、セシルさんが俺の右肩をポンと叩いて俺の目をジッと見て、不敵な笑みを浮かべているから、とても嫌な予感と同時に悪寒がする。


「おい!、キョウスケ。お前なら、このトリスタンの面目を保つような奇策を練るぐらい簡単だろ?。この前なんか、厄介な貴族の理不尽な依頼を、国王を引き合いにして、脅しながら追っ払ったじゃないか。」


 俺は、そんなセシルさんの話に頭をかかえたが、言い訳をして逃れることを考えた。


「いや、あれは、山を吹っ飛ばしたお陰で、私が王に怒られるかと思ったら、宮廷魔術士なんてお誘いがきたから、それを上手く使っただけですよ。宮廷魔術士なんてなったら、小賢しい奴に狙われて王宮を追い出されてしまいます。」


 その話にトリスタンさまは目を見張った。


「キョウスケ殿、ヒマリ殿、やっぱり貴殿達の力は本物だ。ぜひとも、この国にいるだけの間だけでも力を貸して頂きたい…。」


 そして、セシルさんが俺の目を見て、このことで懇願をしてくるから、俺は心底、まいっている。


「お前達も勇者法を知ってるだろうから、トリスタン言われたら引き受けざるを得ない。コイツの面目を保ちながら、上手くやれる方法をお前は考えてみてくれ…。」


 俺は左手で頬杖をついて、何か勇者の面目が立つような策を巡らせるが、なかなか浮かんでこない。

 こんな状況で、奇策なんて出てくるのか、内心は頭を抱えている自分がいた。

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