俺と陽葵は女神アフロディーテを降臨させてゴブリンの群れを撃退したあと、身なりの整っている3人のパーティーが、こちらに近寄ってきたので冷や汗をかいていた。
『ちくしょう、陽葵とのアーン♡と激しいキスを他人に見られてしまったか…』
女神アフロディーテを陽葵が自身の身に降臨させることについて、他人からあれこれ言われるのは構わないが、人前で陽葵と熱いイチャイチャを見られてしまったことに、俺は激しい後悔をしっぱなしなのだ。
『これなら超凝縮魔道弾でゴブリンの巣を破壊してしまったほうがマシだった…』
俺が相当にイチャイチャした姿を見られたことに後悔していると、そのパーティーのリーダーと思われる男から声をかけられた。
「私は勇者トリスタンと申す者。君たちはもしかして、メリッサの遊撃自警団にいるAランクの夫婦かね?」
『え゛?、勇者?マジか?』
遊撃自警団の情報では、勇者がメリッサに入るのは4日後だったから、俺はこんなに早く来るとは思わずに、内心は凄く焦っている。
ただ、その焦りを隠しつつも、俺は勇者トリスタンと自己紹介を交わして、この状況を説明することにした。
「そっ、それは失礼しました。勇者トリスタンさま。わたしは、メリッサに所属する遊撃自警団のキョウスケといいます。そして隣にいるのは、妻のヒマリです。申し訳ない。いま、妻のヒマリは、女神アフロディーテさまの魅了によって、私から離れられない状態ですので、落ち着くまで会話も無理な状態です。」
陽葵は顔を赤らめながらも、俺の右腕をギュッと抱きしめた状態で、女神アフロディーテの魅了の影響が残っているから、目がうつろのままだ。
勇者パーティーにいる、もう一人の男が、俺達に立つようにうながすと、言葉をかけてくる。
「私は隣国のアルラン帝国の聖騎士イジスといいます。キョウスケ殿とヒマリ殿の力が強大である噂は隣国まで聞こえています。それと同時に、さきほどのアフロディーテ様のお力にも吃驚しましたが、貴殿の魔力の強さにも、驚いているのです。」
聖騎士イジスの話を聞いて俺は冷や汗をかいた。
陽葵の胸チラを見て動揺したから、魔力の制御をミスって山ごと吹き飛ばしたなんて、絶対に打ち明けられないし、勇者の目の前では下手な嘘もつけないので、適当に誤魔化すことにする。
「イジスさま、そこにいらっしゃる賢者さまには到底、及びません。私の魔力なんて、たかが知れております。先日、山ごと吹き飛ばしてしまったのは、私の不注意と未熟さの表れでありますので…。」
これ以上の追求は面倒だったので、素直に認めながら、上手く逃れることを画策したが、勇者パーティーにいる女性が前に進み出て、屈託のない笑顔で俺に話しかけてきたことで、それが無駄に終わった。
「へっへ~ん☆。あなたもご存じの通り、勇者パーティーの賢者シエラです。キョウスケ殿は謙遜しないでくださいね。私は賢者ですよ?。相手の魔力なんて、この場にいただけですぐに分かりますわ。私と同じぐらいの魔力を持つ魔法剣士なんて、どの国を探しても滅多にお目にかかれないもの。」
俺は慌てて話題を変えて、その場を再び誤魔化そうと試みる。
「シエラさま、そこは少し置いといて…。ところで、トリスタンさま。私たちはこのゴブリンの巣を掃討することをギルドから命じられています。勇者さま達がゴブリンを半分以上、撃退してくれたので恐縮です。ギルドへの報告もあるので、落ちている魔石を回収させて下さい。無論、勇者殿が倒した魔石はお渡ししますので。」
トリスタンさまは俺の言葉に少し笑顔になってうなずいて、快く承諾する。
「キョウスケ殿、それは構わない。私たちも急遽、予定を変更して急いでメリッサに来たのでね。貴殿も所属しているメリッサのギルド長のセシル殿に会う用事があるので急いで来てしまった。では、魔石を拾うとしますか。」
勇者トリスタンが近くに落ちている魔石を拾おうとしてるので、俺は慌てて止めた。
「トリスタンさま、少し待って下さい。私の小細工魔法で全ての魔石を、その場で回収しましょう。」
俺はオリジナルの術式を展開すると、勇者パーティーの3人は目を見張ったのだが、特に賢者シエラが興味深そうに見ている。
「キョウスケ殿、これは面白そうだわ。誘導の術式を使っているのは分かるけど、なんでそうなるのか、すぐには分からないわ…。」
「賢者様なら、この術式を発動すれば、すぐに分かりますよ。最後は収納魔術の仕分けの術式に近いコトをやりますが、魔石を私の魔力で共鳴させて判別した後に、すこしだけ時空の狭間を作ってあげて瞬間移動させるだけですよ。」
賢者シエラさまに簡単に説明しながら、魔力を込めて幾つかの術式を展開すると、その術式に反応して、俺の目の前に幾つかの魔法陣が浮かび上がる。
すると、俺の足元と、勇者トリスタンさまの足元に、魔石が積みあがった。
「お~~~」
3人は驚嘆の声をあげると、賢者シエラさまがニコッと笑って俺のほうを向く。
「キョウスケ殿は複雑な術式を操れるのね。わたしもできるけど、貴殿には少し劣るわ。わたし達が撃退したゴブリンの魔石と、あなた達が消し去ったゴブリンの魔石を綺麗に分けるなんて普通は無理よ…」
「いえいえ、私はこんな小細工魔法ばかりですので、たいしたコトはできないです。」
そんな話をしているが、陽葵はまだボーッとしたまま、俺の右腕に抱きついたままだ。
それを見ていたイジスさまが少し深刻そうに陽葵の様子を見ていると、俺に声をかける。
「ヒマリ殿は、女神アフロディーテ様を召喚されたので、精神が少し神格化されたような感じでしょうか?」
「イジスさま、その通りなのですよ。それに、皆様に謝りたいのは、女神様の魅了にかかってしまうと、私たちの愛の力が勝ってしまって、周りのことは気にせずに、妻との愛情を爆発させてしまうので、周りがその様子をみて、恥ずかしくなってしまう状況になります。先ほどは申し訳ありませんでした。」
俺は苦笑いしながら、さきほどのイチャイチャを皆に謝罪をする。
「キョウスケ殿、それは仕方がないことです。私もポセイドン様を召喚した場合は、戦闘中に戦うことに高揚してしまって、周りも弁えずに突進してしまう場合がありまして。そのたびにトリスタン様やシエラ殿に助けられています…。」
それを聞いて、やっぱり勇者パーティーに入る人は凄いと感じつつも、俺は黙って勇者たちをメリッサまで案内することにした。
聖騎士で戦士の役割を担いながら、自分の身に、神を一部降臨をさせるだけの器になる精神力と、魔力を備えている時点で、賢者同様に腕が立つことがわかる。
「さて、メリッサに向けて出発しましょう。」
俺は勇者パーティーに声をかけると、急いでメリッサの遊撃自警団ギルドに戻ることにした。