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第3話:勇者トリスタンとその仲間たち。

 俺と陽葵はお互いが弁当を食べさせあって「あーん♡」をしていた。


「もう、あなたったら♡。あなたの食べる分が無くなってしまうわ♡」

 俺は陽葵が恥じらう姿が可愛すぎて、つい陽葵にご飯を食べさせてしまう。


 そんな愛に満ちあふれた昼食をとっていたら、遠くからゴブリンの群れの声が聞こえた。


「陽葵、もしかして誰かがゴブリンの群れに襲われたか?」


「ふふっ♡、誰かに危害が及ぶ前にアフロディーテ様の力を発動するわよ♡」


 この聖なる愛の力を発動させるには、俺と陽葵の愛が満ち溢れていないといけない。だから、公然の場で女神を降臨させるのは恥ずかしすぎて使用不可能なのだ。


 ただ、俺たちの愛が満ち溢れていれば良いわけだから、公衆の場で裸になって陽葵を抱かなくても召喚は可能である。


 しかしながら、公衆の場で過激なスキンシップは恥ずかしすぎる…。


 以前、王国の騎士団に不手際があって、リッチ がメリッサの街に襲いかかったときに、俺と陽葵はすぐさま女神アフロディーテを降臨させてリッチを消滅させたことがあった。


 しかし、俺と陽葵は、街の中心で激しく抱き合いながら、熱烈なキスを繰り返して召喚を発動させたので、街中の人がそれに釘付けになってしまった事案があった。


 リッチは簡単に倒せたのだが、その後、ギルド長やギルドの幹部から生暖かい目で見られた上に、俺と陽葵が茶化される日々がしばらく続いたのだ。


 それに、降臨時は愛の女神の加護によって、俺も陽葵に魅了されてしまうため、周りから見られていることに鈍感になってしまう致命的な欠点があった。


 最近は魅了されつつも、俺は周りが見えるように精神鍛錬をしながら努力をしているが、やっぱり、愛し合っている様子を人から見られてしまえば辛いものがある。


 そして、陽葵はゴブリンの群れを消滅させるために、聖なる愛の祈りによって愛の女神アフロディーテの御霊の一部を、自身に降臨させようとしている。


 今は、俺と陽葵が「あーん♡」をしているお陰で、降臨は容易だった。


 俺たちの周りには女神の加護があるから魔物やアンデッドなんて絶対に寄ってこないし、近づいた魔物は女神の加護によって一瞬で消え去るほどの神力があるのだ。


 しかし、その愛の力をブーストさせて、ゴブリンの巣がある場所まで女神様の加護を広げるには、さらなる愛の力が必要だった。


 陽葵は女神アフロディーテを降臨させたことで、俺に対して大胆になっている。


「ふふっ♡、恭介さん~~、こんなところにご飯がついてるわっ♡」


 陽葵の可憐で可愛い顔が段々と俺に近づいてくる…。


 その可愛さと同時に、陽葵から感じる熱烈な愛情に息を呑んだ。


 ◇


「トリスタンさま!。こんなところにゴブリンの巣が!!」


 勇者トリスタン一行はメリッサの街に向かうため、近回りをするのに郊外の森を抜けようとしたところ、偶然にも崖の上からゴブリンの巣を発見した。


 すこし距離があるから、ゴブリンはトリスタンたちに全く気付いていない。


「シエラ。時間がないから一気に強力な魔法で叩き潰したいところだが、ローラン国王の王命が下っていて、巣を一網打尽にするような派手なことをするなと厳命されている。」


 勇者トリスタンの仲間の賢者シエラは強力な魔法でゴブリンの巣を簡単に叩けないことに頭を抱えた。


「トリスタンさま、それは、この国で噂になっていましたわ。ローラン国の遊撃自警団に実力はSランクなのに、あえてAランクに留まってる凄腕の夫婦がいると。その旦那がキングオークがいる巣に向かって超凝縮魔力弾を放ったら魔力の制御を間違えて山ごと吹き飛ばしたので自警団のギルドやローラン国の首脳が頭を抱えた…なんて話でしたよね…」


 トリスタンはその話を思い出して、スケールが大きすぎる噂話に脂汗をかきながらシエラのほうを向いて答えた。


「シエラ。その通りだ。世の中は分からないものだ。シエラと同じぐらい強力な魔力を持った魔法剣士に、イジスと同じような、とんでもない実力を持った聖女がいるとは…。」


 そのトリスタンの言葉に聖騎士のイジスが、少し微笑んだような表情をして口を開いた。


「トリスタン様、その聖女の話は私も噂で聞いております。私はポセイドン様を降臨させることができますが、彼女は女神アフロディーテ様を降臨させるようです。その愛の力は魔物を寄せ付けないばかりか、瞬時に消し去るとも聞いております。」


 トリスタンはそれを聞いてあんぐりと口を開けた。


「なんと!。イジスがポセイドン様を降臨させると、地割れを起こして魔物を足止めしたり、私たちに強力な付与エンチャントが掛かったりするが、魔物を瞬時に消し去るとは!。」


 そんな話をしていたら、勇者トリスタンのパーティーはゴブリンの巣の近くまできていた。


「シエラとイジス、お前たちはこの道を真っ直ぐに進んで巣に向かってくれ。そしてゴブリンをできる限り叩くのだ。私はその間に反対の道に回って逃げたゴブリンを叩く。」


 そして賢者のシエラが杖を構えて、イジスが剣を鞘から抜くと、ゴブリンの巣に向かって行った。


 それを見た勇者トリスタンは勇者の証である聖剣を抜いて反対側の道に走った。


 勇者トリスタンは、しばらくして遠くからゴブリンの叫び声が聞こえるのを確認すると、少し遠くから森が開けた場所の倒木に腰掛けながら、お弁当を食べている遊撃自警団の姿を認めた。


『まずい!!。このままではゴブリンに2人が襲撃されてしまう!!』


 彼は全速力で、その2人の元に駆け寄った…。

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