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狂人傭兵に愛されて花を植える物語
狂人傭兵に愛されて花を植える物語
竜樹あさみ
異世界恋愛ロマファン
2024年08月26日
公開日
19.7万字
連載中
国花選定師という国で花を育てる特殊な仕事に就くメイン。国交の為に傭兵を雇うことになるも資金不足の為に周囲から狂人と呼ばれている、不愛想で人と関わらないアシュランと契約することになる。2人で様々な国を冒険をしつつ、少しずつ距離が縮まっていく。もどかしい2人の間に他国の将軍や商人がライバルとして現れて…。2人の契約期間は1年間。1年経てばまた国に戻り、メインは国花選定師へ、アシュランはただの傭兵に戻ってしまう。それまでに愛を育み、一緒にいることを決断できるかどうかーーー花や植物に夢中の天然系ヒロインと一匹狼だった傭兵が少しずつ愛を育んでいく物語。

第15話

潮風とはこんなに痛いのか!とメインは思って瞬きをした。海風は潮を含んでいるので、目に染みる。レンカが羽織で避けようとしてくれたが、無駄だった。


「おい」

「私はオイではない。レンカだ」

「レンカ」

「レンカ様と呼べ」

「死ね、クソが」

「教養のない奴め」

「それよりもお前、高級品は隠すか捨てるかしろよ。これから先は目立つぞ」


アシュランは、レンカの衣類や持ち物が高級品であることを指摘した。その高級品は他国では目立つ。目立つそれは、一行の命を危うくさせる。メインは、そうですね、と感心したように言った。

港のある街について早々、レンカは地味で安い衣類を買い求め、着替えることになる。メインがアシュランが手伝った方がいい、と言い出すので、アシュランはレンカの買い物と着替えに立ち会った。


「なんで俺がオッサンの体を見にゃならん!」

「……お前、俺が幾つだと思っているんだ?」

「40」

「殺すぞ。俺はまだ29だ」

「……?」

「首を傾げるな。お前はまだ若いんだろうな。25くらいか」

「な、なんでわかんだよ!」

「分かるに決まっている。馬鹿にするな。俺はそれなりに多くの人間を見てきたんだ」


着やせするレンカは、アシュランが見立てたシャツが入らなかった。意外にも筋肉が厚いのだ。サイズを交換し、やっと彼は安いシャツを着用することができた。


「ちょ、じゃあ、姉ちゃん何歳なんだよ!」

「女性に年齢を聞くな。不躾者が」

「いや、お前が29だろ?それなら」

「その指、切り落とすぞ?」


アシュランが指を折って数えようとしたので、レンカは怒った。スイレンが30代であることは理解できたが、それにしては美しい女だった。神秘的な黒髪に浅黒い肌は、一度は抱いてみたい女の候補である。


「よし、着替えは済んだ。持ち物は捨てていく」

「売るなよ。売ると足がつく」

「ああ、分かった」


そう言ったところは、とても上手く取り込んでいくのがレンカだ。彼は金色の髪を軽く結った。こうすれば少しは見た目が変わるだろう、と彼自身が言うのだ。アシュランはまあそれでいいんじゃないか、と適当に返事をしたが、目の前にいるのはとても男前だ。

その顔だけでも目立ってしまう、とアシュランは思ったが、もう連れて回らねばならないのだから、仕方がないだろう。こんないい男が差別される国とは、どれだけ狂っていたのだろう、と思った。同時に、人間とはその美しさがどうではなく、自分たちの方が大事なのだ。


「行くぞ、アシュラン」

「呼び捨てすんな」

「俺の方が年上だ」

「知らねぇ」

「年上なのだから、いいだろう。お前にはレンカ様と呼ばせてやる」

「いやだ。オッサン」

「黙れ」


2人はそんなやりとりをしながら、店を出た。店を出ると、メインが待っているであろう場所を目指す。彼女は市場に売られているものが気になるから、と言って市場で売っている果物や野菜を見たいのだという。


市場へ行くと、メインの姿は見えなかった。どこに行ったのか、と思ってアシュランが思うと海の方から彼女の気配を感じた。どうしてわかるのか、と自分で思うと、花の香りがした。海から花の香り?


「あっち行くぞ」

「海の方か?」

「ああ。あっちから、花の匂いがする」


アシュランの言葉を聞いて、レンカは姉が言っていた言葉を思い出した。姉もよく【花の香り】を頼りに行動することが多かった。奴隷の契約を結んだことにより、アシュランにはメインの能力の一部が譲渡されているのだろう。

それだけ強力な奴隷の契約、とレンカには分かったが、きっとアシュランには分かっていない。この男は無知ではないが、経験がないことは分からない人間だ。体感や体験がないと、駄目なのだ。


「花の匂いがするのか」

「ん、まあな。たまに」

「そうか」

「あんだよ」

「いや。メイン様を見つけたら、食事にしよう。腹が減った」

「あー、それは俺も同意するわ。腹減ったよなぁ」


この世界は、魔力の高い者は一般人よりも腹が減る。魔力が高いというのは、魔力を使っているというわけではなく、ただ生きているだけで体の中を魔力が循環しており、その循環があるだけで体力を消耗するのだ。

食べるということで、その魔力は回復ができる、とは限らないのだが、とにかく腹は減る。減るものは減るので、彼らはとにかく食事量が多い。


「向こうの方だな」

「港だ」


レンカは港を久しぶりに見た。遠い昔に遠征で、少しだけ見たのを思い出す。大きな船、潮の匂い、行きかう人間たち。


「あ。ヤバだろ、あれ」

「どうし……!?メイン様!!!」


メインは屈強な男性たちに囲まれていた。男たちは、屈強な海の男ばかりだ。髪を刈り上げている者もいれば、丸太のように太い腕をした者もいる。こんな男たちに囲まれて、メインが危険ではないか、とレンカが間に入る。


「メイン様!!」

「あ、レンカさん」

「このお方は、俺の連れだ。何用だ!?」

「レンカさん、落ち着いて」


穏やかにしているのは、メインばかり。レンカは彼女を背中に隠し、周囲に敵意を向けていた。


「元気な兄ちゃんだなぁ」


男たちの中の1人が言う。落ち着いた低い声、腕には刺青を入れた、しっかりとした目の男。男と言っても、アシュランやレンカよりもだいぶ年上だと感じた。


「嬢ちゃんは、船の交渉をしてただけだぜ」

「船、もう出立するつもりですか、メイン様?」

「はい!」


少し安心して、レンカは態度を緩める。男性がレンカを見つめ、ニヤニヤしている。


「兄ちゃん、魔眼持ちだな。それも立派なもんだ。赤目の金髪といやあ、ここいらだけじゃなく、どこの国でも優秀な魔眼と聞くぜ」

「お、俺は……」

「まあ、海で魔眼はそんなに使わねぇけどな!」


笑う男は豪快で、とても清々しかった。悪い男ではない、と感じさせられる態度に、レンカは安心していく。


「詳しい話しは俺が聞く。俺の名はクイード。俺の持ってる店があるからな、こっちに来な!」


クイードと名乗った男性は、快く一行を店に連れて行ってくれた。

店までの距離は大して遠くもなく、港から近いので人も多く来るのではないか、と思う。店の中には妻と息子がいる。息子はクイードを若くしたかのように爽快な青年だった。


店で食事をもらいながら、メインは何を探しているのかを丁寧に説明する。そのすべての説明を聞き、クイードはため息をついた。


「ふむ、海の花か」

「海の民なら、花がどの海域に来るか知っているのではないですか!?」

「海の民は、俺らでもなかなか会ってもらえない相手だからな。嬢ちゃん、国花選定師だろ?」

「……分かりますか?」

「まあ海の花を欲しがる商人は多いが、アンタみたいに熱心で詳しい者はいない。国花選定師の依頼とありゃ、こちとら簡単には断れねぇもんなぁ」


2人が話をしている隣で、アシュランとレンカはしっかりと食事をしていた。おかわりまでしている2人を見て、クイードは笑っている。魔眼のことを知っていたところから、彼らの体質のことも彼は分かっているのだろう。


「海の民は、なかなか姿を現さない。だいぶ昔になるがなぁ、海の民を騙して、海の花を盗むだけじゃなく、色々と問題を起こしたヤツがいてな。それ以来、滅多に会えんぞ」

「元々警戒心の高い方々だと聞いています。会えるだけでも奇跡だと」

「そうだな……しかしさすがに海の民がいないと、海の花はすぐには手に入らん。偶然に見つけても、回収できない海域に飲まれることになる」

「うーん、困りましたねぇ」

「嬢ちゃん、薬ってのはすぐに作れるモンかい?」


急にクイードに尋ねられ、メインはそうですねぇ、と返事をする。国花選定師の作る薬は高値で売れるだけでなく、その効力は最大級だ。手に入れるだけで寿命が延びる、など妙な噂まで出るほどだ。


「1つ、薬を作って欲しいんだが、俺の条件を聞いてみないかい?」


クイードはここにきて少しだけ不穏な笑顔を浮かべていた。


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