シャーウィットを殺してから数日、俺はレビアから依頼された【企画者】の件について調査をし始めていた。
そして今、本部の会議室にて一人で情報の整理をしているところだ。
「まずわかっていることは、相手は【企画者】を名乗っているわけだ」
治安局管理者【企画者】
能力の特徴は物事の企画性を操るという。
管理者が管理者なだけに出回っている情報が少ないが、俺がここに配属になる前現役時代は全線で戦っているところを見ているものも多く、 ほかの管理者よりかは情報が集めやすかった。
「企画者の能力はやはりシナリオ制作…この世界を平和にするというシナリオを作りそれを実行しようとしている人物だということはわかる。わかるのだが…」
いかんせん治安維持局に居座らない理由が見つからない。
果たして俺がこの疑問を持つのは何回目だろうか、俺は見当もつかない。
「きっと俺は毎回ここで躓いているんだろうな」
自己分析を簡単に済ませ俺は思考を加速させる。
前回の俺は何だと考えたかを思い出す。
「前回の俺は治安維持局に統治させてはいけない理由が何かしらあると踏んだ」
だがその未来を予想するのはなかなかに難しく、具体的な理由も思いつかずにいる。
「ダメだ…思考がぐちゃぐちゃで何もわからない…」
ずっと、ずっと頭の中でこだまする。
「あなたは結局、最初から最後まで嫌な上司だったわ…か」
部下からそんな感情を抱かれる上司の気持ちは複雑だな。なんてことを思いながらシャーウィットに関する記憶を思考から追い出そうとするがうまくいかない。
ああ…この感情は本当に何回経験しても慣れない。
気分転換がてら俺は本部の外に出ることを決める。
ただ、こういう時に限って嫌なことは続くのだ。
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「で…お前は誰だ」
フードをかぶり顔を隠した人物が散歩中の俺をにらむ。
「お前は間違いを犯したな?」
うるさい
「またお前はこの世界を救えない」
うるさいうるさい
「そんなお前はもう一度最初からだ」
「黙れ!!」
感情任せにそのフードに殴りかかるがそのフードは俺のこぶしを軽々と止める。
「今のお前を止めるのは簡単だ。殺すのはさらに簡単だ」
声の主はそう言って俺の腹部に強烈な一撃を入れる。
その一撃は今まで食らったどの一撃よりも重い。
「お前はやり直すことができるだろう?」
ああ。そうだ。俺は幾度となくやり直してきた。
「お前は救えるんだろう?」
スラム街の住人に言われた。俺みたいなやつが増えてほしいと。
「だがお前はあきらめようとしているのか?」
「俺にはやっぱりこの任務は無理かもしれないな」
俺がその弱音を放した瞬間、俺の意識はすぐに闇に飲まれる。
「お前はまだチャンスすることができるだろう?」
「お前いい加減黙れよ!」
俺のこぶしがフードの男に近づく。だがまたもやその男は俺のこぶしを手で受け止め言う。
「じゃあまたな」
そんな声が聞こえた気がした。
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目の前には涙を流しながら息絶えた男がいた。
部下からの報告を受けとあるビルに暴力団の拠点があるということで乗り込んでいた時だった。
何やら覚悟を決めた顔で入ってきた男がいたのだ。
暴力団の残党かと思ったのだがおそらく違うのだろう。男には弱いながら殺気が感じ取れた。
「お前は被害者側だったか…」
俺はポケットからスマホを取り出し部下たちに指示を出す。
出し終えたところで、俺の後ろから一つの声がした。
「お疲れ様ね」
その声に振り向き声の主を確認する。
「なんだ、お前かシャーウィット」
そこには腰にサーベルを刺し茶色のマントを身に着けた女がいた。さながら女騎士の格好をしているコイツはシャーウィット。
俺と同じ治安維持局の人間だ。
「なんだとは何よ…私はあなたが単独行動してるって聞いて探したって言うのに」
シャーウィットがやれやれと首を振る。そういえば単独行動するって報告してないな…
「報連相は組織の基本でしょ?あなたにもきっちりやってもらわないと」
「悪かったなシャーウィット」
俺は頭をかきながら申し訳なさそうに言う。
「思ってないわね」
違う。
「なぜバレた」
見破られてしまった。
さすがはランクAの能力者治安局員というのだろうか。
この世界には能力という概念があり、危険度によってランク分けされている。
存在するランクはD~Sだが、Sランクというのはとびぬけている能力者に与えられる称号なため一般的にはAがトップとされている。Bランクの能力者が一番多く、順にC、D、A、Sの順で数が多い。
一番数が少ないSランクは現在治安維持局の幹部である7名のみといわれている。
もっとも手配されていない犯罪者の中にSランク能力者もいるかもしれないが…
「まぁいいわ」
様々なことを思考しているとシャーウィットがそんな言葉をこぼす。
「いつものことだし…次からちゃんと気をつけなさいよ?」
そう言い残し少女はぼろぼろの建物の上に飛び乗り、建物から建物へ飛び移ってどこかへ行ってしまった。
違う…違う…
「飯でも食うか」
そこまで言いかけたところで俺は本部に帰らず店を探しに行く。
ただそれだけの分岐。
この繰り返しに意味なんてないように思えるが、俺は答えを見つけることをあきらめるのだった。