「まだ…変わらないな」
俺は二つの死体を見下ろしながらつぶやく。
「いやな気分だ…」
俺は自身の空間を切り取り、本部の空間に貼り付け帰還する。
そこには何やら暗い顔をしているミューアと嬉しそうに飛びついてくるレナがいる。
「ああ。悪いレナ…ちょっと行かなきゃならない場所があるんだ…いいか?」
「もちろん!」
レナは俺が言う前に異世界への空間を切り開いた。
俺はその空間に入る。まばゆい光に視界が奪われ、目をつむる。
次に目を開ければそこは小さな家が一軒建っている空間だった。
だがそこにあるのは、見覚えのある血まみれの家ではない。
【平和】という表現が最も似合うような、柔らかい印象を受ける家だった。
当たりを見渡すとレナがいる。
「おねえちゃん!おねえちゃん!」
レナにそう呼ばれている少女は、そこには腰にサーベルを刺し茶色のマントを身に着けた女…ではなく。
楽しそうに少女と遊んでいる普通の女の子だ。
「楽しそうでよかった」
俺はその一言だけを残しその世界を後にする。
すぐに立ち去らなければ俺はあの世界に甘えてしまいそうだったから。
「ふぅ…ありがとレナ」
「ふふん!お兄ちゃんのためなら!」
レナは自信満々に笑顔を向けていてくれる。対照的にミューアはなぜか暗い表情を浮かべている。
「ミューア…どうした?」
「いえ…止める気なんてなかったですよ。ただ、そろそろあなたも治安局を引退してもいいころなんじゃないかと思いましてね」
「俺が治安局を引退するときは平和が訪れるときだな」
「だったらなおさら早くあなたに引退してもらわなければですね」
「善処するよ…」
軽口を交わしたのち俺はどうせ今回の事件も【観測】してるであろう奴のもとへ行く。
~~~~~~~~~~~~
「やはり変わりませんね」
円卓に並べられた椅子。その椅子に唯一座っているその人物は言う。
「あなたが何度試そうと、変わることはないでしょう?もう諦めたらどうですか?」
俺はその言葉に苛立ちを覚える。
もともと俺は大切な部下を失って機嫌が悪い。
「あなたがこちらに干渉するたびにあなたの命は代価として支払われていくのですよ?」
「それでも俺は変えるさ」
俺の能力。この能力さえあれば、必ずいつかこの無法都市に平穏が訪れる。
それまで俺はこうやって己の罪と流す血の量を増やしていけばいい。
「これだから仕事は嫌いなんだよ」
俺の能力はそういったものだ。
代償なしで使うことのできない能力。
信用なしで講師すらできない能力。
「こんな力なんて、ほしくはなかった」
俺の言葉に椅子に座る人物が言う。
「何を言いますか…あなたのおかげで我らがいるのですよ?あなたなくしてこの無法都市は成り立ちません」
椅子に座る人物。仮にも治安維持局の管理者がそんなことを俺に言ってくる。
「この都市が成り立つ必要はないんだよ」
俺は必死に否定する。
だがそれを治安維持局管理者…【観測者】は許さない。
面倒だ。本当に…面倒だ。
「あなたがこちらに干渉し続ける限り、私はこの地位にいることができます」
そんなことを包み隠さず話す【観測者】
「あなたの未来を今見ていますが、どの未来もあなたが望む未来はありませんよ。
「望むか望まないかは俺が決めることだ」
俺は話にならないと話題を強制的に切り、その部屋を後にする。
退出後、俺はくたくたになりながらも報告書を書ききり提出する。
珍しくレビアからは何も言われず俺は即座に仕事を終えることができた。
なので俺はそそくさと家に帰り服を着替え風呂に入り食事を済ませ、歯磨きをしようとしたところで歯ブラシを買っていないことに気づくが、無視して布団に潜り込む。
「俺は…こんな力が欲しいわけじゃない」
そんな小さなつぶやきは布団の中でこだまするのだった。