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第二章☆懐妊

   第四部☆木星のメイ

      第二章☆懐妊

「リラシナ・・・」

ミリーはずっと泣きじゃくっていた。胸が痛んであとからあとから涙がこぼれ落ちてくる。

監禁されている部屋に食事は運ばれていたが、手付かず状態で料理は冷めきってしまっていた。

「ひっく、ひっく、・・・うっ、ぐう」

トイレに駆け込み何度目かの吐き気をもよおした。

「気のせいかしら・・・?でも・・・」

もしかしたら、とミリーは自分のお腹に手をあてた。

金星から水星へ、そして木星へと移動する間、生理がなかった。金星にいたときにリラシナと性的に結ばれていた。つまり、心当たりがあった。

「リラシナ。もしあなたに二度と会えないなら、もう生きていける気がしない。・・・でも、もし、あなたの子どもがここにいるのなら・・・生きなくちゃ」

ミリーは見張りに自分が妊娠しているかもしれないことを告げた。医者が呼ばれて、妊娠検査薬を使った。確かに陽性反応が出た。


「ミリー・グリーン」

部屋にロカワ氏が訪れた。

「私が欲しかったのは、高貴な光を放つ宝石のようなあなただった。今のあなたは、ただの弱い女に成り下がってしまった。もう無理に私の気持ちを押し通すのはやめにしよう。他の男のものになってしまったあなたに、正直もう魅力を感じません」

「妹と幸せになってください」

「あんな女!高飛車で高慢ちきな気取ったわがまま女。願い下げです。すでに婚約破棄しました」

「・・・」

「これから我々はラッカーの指示に従って世界を変える手駒にならなくてはならない。・・・あなたはここから出られない。だが・・・」

「だが?」

「そのお腹の子どもだけでも生まれたら自由になれるように取り計らいましょう。きっとその子どもの父親の元へ届けられる」

「本当に?」

ミリーの表情が希望で輝いた。

「約束します」

なによりリラシナが生きているだけでも良かった。ミリーは緊張の糸が切れてその場にへたりこんだ。

「ゆっくり休んで、元気な赤ちゃんを産んで下さい」

ベッドにミリーを寝かせると、ロカワ氏は部屋から出ていった。


「ミリーはどんな具合?」

廊下で待ち受けていたメイがロカワ氏に聞いた。

「そんなに気になるのなら、自分で会いに行けば良いのに」

ロカワ氏の言葉に、メイは首を横に振った。

「以前はお互いに殺し会おうとしていたのに不思議な巡り合わせだ」

「本当ね」

「世界を変える仕事を協力する立場になったが、完全にラッカーを信奉するのだけはやめておけ」

「どういう意味?」

「ラッカーは所詮人間でしかない。どんなに偉大でも時代の移り変わりにそぐわない瞬間もきっとある。いつでも難破船から逃げ出せるように準備は怠らないことだ」

「ふん」

メイは鼻を鳴らした。

ロカワ氏が立ち去ると、メイはミリーのいる部屋の前にたたずんで、今まであったことを思い返した。

「ミリー。時間とともに人も変わる。・・・私も変わってしまった」

メイはしんみりと呟いた。

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