第四部☆木星のメイ
第一章☆別離
木星近くに浮かぶコロニー内都市にたどり着いたミリーたちは、金星から先に来ていたメイと合流した。
「手筈は整っているわ。ラッカーと会いましょう」
メイがてきぱきと段取りを組んだ。
重要人物のラッカーは幾重にも警備がなされた地区の数ある建物のどこかにいる。それを突き止める情報量の多さに、ミリーたちは頭が上がらなかった。
「ミリー・グリーンに、まず会うそうよ」
メイがそう言うと、不意にリラシナが、
「すまないがほんのちょっとで良い。ミリーと二人きりにしてくれないか?」
と皆に向かって言った。
メイとパイソンは顔を見合せ、部屋の外へ出た。
「ミリー」
二人きりになると、リラシナはミリーを抱きしめた。
「どうしたの?力一杯で苦しいわ」
「愛してる。本当だよ」
そう言って、リラシナはミリーの唇にキスをした。
「本当にどうしちゃったの?」
もう一度抱きしめられて、ミリーは途方に暮れた。
「この先何があっても忘れないでくれ」
「忘れるものですか。なんでそんなこと言うの?」
「・・・・・・」
何か口の中で呟くリラシナ。ミリーは怪訝に思った。
「さあ、行って」
「え・・・ええ」
ミリーがドアを開けるとメイとパイソンが待っていた。
パイソンは部屋に戻り、兄のリラシナと一緒に待つようだった。
ミリーをメイが案内して、ラッカーの元へいざなった。
「お前がミリー・グリーンか?」
「ええ、そうよ」
「お前のせいで太陽系の予定調和が崩れかけている。あと数十年は金星は火星の植民地のままであるはずだった」
実際に、ミリーがリラシナと十三月革命の声明を出す時、その時を逃したらあと数十年は独立は無理だろうと、ミリー自身もそう思っていた。
「私はリラシナと会って、そして革命を起こした」
「ミリー・グリーンとリラシナは一緒にいてはいけない」
「なぜ?」
「不均衡な力が働いて何が起こるかわからんのだぞ」
「それでも私達は愛し合っているわ」
「本当にそうかな?リラシナを殺すと言ったらどうする?」
「殺させないわ」
「お前は生命力に満ちあふれているが、その力にも限界がある。お前たちの命運は私が握っている」
ラッカーは重々しく言った。
「なぜお前一人だけここに呼んだかわかるか?」
ミリーはさっきのリラシナの様子を思い出していた。きっと彼は予知能力でわかっていたのだ。
まさか、もう二度と会えないのだろうか?
一瞬、ミリーは目の前が真っ暗になった。
「お前と取り引きをしよう。私の息子と結婚して私の配下にくだるならリラシナは自由だ。もしそれを断るならば、リラシナもお前も死ぬだけだ」
「そんな・・・」
「形だけの婚姻で構わぬ。お前の火星の王女という肩書きを利用したいのだ」
ミリーはメイを見た。メイはラッカーの方を見ていた。
「ミリー。ラッカーは私とロカワ氏の実の父親なの」
「え?」
「私もロカワも知らなかったのだけれど、ラッカーから直接聞いたから間違いないわ」
では、ラッカーの息子というのはロカワ氏のことなのか?
ミリーには驚きの連続だった。
「ロカワがミリー・グリーン、お前をいたく気に入っていて、どうしてもお前が欲しいと言っている」
「私は・・・嫌です」
「しばらく考える時間を与えよう。・・・連れていって監禁しておけ!」
部下にラッカーが命じた。
連れていかれる時、ミリーはメイに助けを求めるようなまなざしを向けていたが、メイはそれを無視した。