第三部☆水星のキオ
第三章☆水星からの使者
「キオ。『水星からの使節』って名乗る船が近づいて来てるけど、どうする?」
マリラが尋ねると、キオはむすっとして両腕を組んでちょっと考え込んだ。
「マリラ、全速で回避」
「なんで⁉」
「むこうは船籍とか所属とか言ってきたか?」
「・・・言ってない」
「じゃあ、全速回避」
「ラジャ」
これも何か訳ありかなー?とマリラは眉根を寄せた。客室の誰かが問題抱えてるのか、と思った。
「何考えてる?急がんと追っつかれるぞ」
「はーい」
とにかく、うまく、まいた。
「で。・・・どうすんの?」
「この後、似たよーなのが何回か来てもシカトする」
「何回か来るの⁉」
「多分」
「あーあ」
やっかいだなー、とマリラは溜め息をついた。
「ミリー。体調はどうだい?」
「だいぶ良いわ。ありがとうリラ」
神経を張りつめすぎてミリーは寝込んでいた。
パイソンが濡らしたタオルをミリーの額に置いてくれる。
「兄さん。ちょっと強行軍じゃないかしら?金星から水星までこんな設備のほとんど無い貨物船で行くなんて無謀よ」
「それでもカモフラージュになるから」としかたなくリラシナが言った。
「私がしっかりしてたらなにも問題ないのよ」とミリーが熱でうるんだ瞳で言った。
「あーもう!本当、良い人すぎて憎めない」とパイソンがふくれっつらでそっぽを向いた。
兄妹二人きりで生きてきたのに、いきなり現れて兄を連れ去ろうとしたミリーを、パイソンは憎もうとしたが出来なかった。
「ミリーは火星の重要人物なんでしょ?大丈夫かな」
「僕らはついているから大丈夫さ」リラシナはできるだけのほほんと言った。
「まあ、何か起きても、私も一応戦力にはなるつもりでいるから」
「頼もしいな」
「だって名前は伊達じゃないもの」
パイソンは護身用の武器を隠し持っている。いつも折を見ては自己流のトレーニングも欠かさずやっているから、実戦できっと役にたつだろう。
「あのー」
マリラが備品を持って客室を訪れた。
「ああ、ありがとう」
「いえ。・・・それよりですね」
「?」
「水星からの使者を名乗る船がひっきりなしに現れて追っかけてくるんで、かわすの大変なんですけど・・・」
「それは、ご迷惑を」
「やっぱり何か理由があるんですか?」
「僕らが金星の独立革命の火付け役になったんです」
「あの『十三月革命軍総指揮者・金星のリラ』ってあなた?」
「はい」
「じゃあこっちは火星の王女様?」
「はい」
「もう一人は?」
「僕の妹です」
「妹、かあ・・・」
マリラはやっと納得がいった。
「ちょっと船長と話し合ってきます」
「僕ら、船長命令には従いますから」
「はい」
マリラは大急ぎで操縦室に向かった。
「マリラ、今度は船籍、所属言ってきたから接舷するぞ」
「えっ⁉」
「本物っぽい『水星からの使者』・・・賭けてみるか?」
キオがマリラを振り向いてニヤリと笑った。