目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第二章☆しっぽ

   第三部☆水星のキオ

      第二章☆しっぽ

 マリラは洗面所で顔を洗った。赤いゴム紐を口にくわえて、長い髪をポニーテールに束ねると、手早く結んだ。

以前、髪をベリーショートにした時に、キオがしつこく「髪を伸ばせ」と口癖みたいに言っていた。しまいには「船長命令」とまで言った。

そうしていると丸顔のマリラはかわいらしいイメージがあるが、性格はずけずけものを言うし、自分でもかわいくない方だと自覚している。

「きっとみてくれだけでも自分の好みにしとけってことよね」

ふん、と鼻息を吐く。

「いつかぎゃふんって言わせて、もっと良い男捕まえてやる」

もしかすると、キオの方も似たようなこと考えてたりするかもしれない。マリラは鏡の自分に向かって舌をぺろっと出してみた。

なんだかんだいって結構腐れ縁が続いている。

「ポニーテール、『馬のしっぽ』かぁ」

同じしっぽでも話は違うが、以前所属していた企業で大量の首切りが行われた。皆、仕事をなくして路頭に迷っていた。雇われる時に、その話をしたら「トカゲのしっぽ切りにあったわけか」とキオが言った。

そう。いろいろ思うところはあるけれど、マリラを拾って仕事をくれた恩人であるわけで、本当は感謝しなきゃいけないんだけどね・・・。


身だしなみをととのえて操縦室に行くと、キオがコンピューターの自動操縦に切り替えて仮眠をとっている最中だった。

マリラはキオを起こさないように気を付けながら航路を確認しようとしたその時。

「すみません。あと10分くらいで隕石群と遭遇します」

リラシナが操縦室に現れてそうのたまった。

「きゃっ。あなた何なの?乗客は客室で待っててくださ・・・い?」

「あと10分だな?」

やけに真面目な様子でむっくり起き上がったキオがリラシナに確認した。うなずくリラシナ。

「マリラ、航路再確認。そしたら軌道上の異物のチェック」

「はい、船長」

マリラは素直に従った。


10分後。隕石群を無事に回避した後、マリラはリラシナの予知能力に感心しきって尊敬のまなざしで彼を見ていた。

「おいあんた。他の二人のどっちがあんたのこれ?」

小指立ててキオが聞く。

「ばっか・・・」

マリラはなにもかも台無しにされたような気分で呟く。

「緑の瞳の方です」

「えっ⁉」

マリラは思わず口を両手で押さえた。てっきりもう一人の方と仲が良いのかと勘違いしていた。

「彼女以上の人はいません」

リラシナはにっこり笑って言った。

「なんて幸せな人だろう」とマリラは思った。

「もう一人の女はどういう関係?」

キオが直球で聞く。

「秘密です」

「えっ?」

はっはっは・・・と笑いながらリラシナは客室へ戻っていった。

「食えんな」

とキオが言った。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?