第三部☆水星のキオ
第一章☆マリラ
「あー疲れた。やってらんね」
キオが操縦席で背伸びして言った。
「もう!すぐそれなんだから。真面目にやってよ」
輔佐席のマリラがプンスカしている。
惑星間輸送船の久し振りの仕事の途中だった。
「なんか面白い話ない?」
キオが一応、操縦に集中しながら聞いてくる。
「えーとね。・・・『赤毛のアン』って知ってる?」
「ああ、知ってる。アンを養女にもらったおばさんの名前が『マリラ』だろ?」
「それはそーなんだけど、シリーズでね『アンの娘リラ』って言うのがあって・・・」
「ふんふん」
「アンは娘に『マリラ』って名前をつけるんだけど・・・」
「何でタイトルは『リラ』なんだ?」
「作中で、マリラは彼氏から『リラ、マイ、リラ』って呼ばれて、それが『リラ、マリラ』って聞こえるって書いてあったよ」
「へえー」
言いながら鼻をほじるキオ。
「・・・本当に聞いとんのかあんた」
「なにが?」
いつもこんな調子で二人は掛け合い漫才よろしくくりひろげながら時間が過ぎて行くのだった。
「それよか、お客さん、今回も訳ありみたいなの乗せちゃったなー」
「貨物の仕事なら気楽なんだけど、人を乗せるとなー」
キオとマリラは口々に言った。
スペースジャックもどきで行き先変更って言うのも珍しくない話だし、人間が一番厄介だ。
「男一人に女二人だろ?絶対揉めるって」
「本当本当」
キオとマリラは一応仕事上相棒で、恋人になりかけてやめてーの繰り返しだった。
「このままこいつとくっついて人生を送るのはやだ」とマリラは思っていた。
キオときたら、不真面目も不真面目。だらしないし、頼りにならない。それでも男だからたてているけど、こんなおちゃらけたやつと一生付き合ってく自信無い。といつもマリラは愚痴っていた。
以前スペースジャックされたときも、犯人の言うことをホイホイ聞いて全く抵抗しなかった。
「仮にも船長なんだからもっと威厳を持ってよ」
ぶつぶつ言っていると、客室からコールがかかった。
「あ、ヤバい。食事の後片付けしなきゃ」
マリラは慌てて客室へ向かった。
客室では三人が思い思いのことをやっていた。一見、仲は良さそうだ。
「何か入り用でしたらお申し付け下さい」
「リラ・・・」
「はい?」
自分が呼ばれたのかと思ってマリラが返事すると、
「僕の名前です。リラシナって言うんですが愛称でリラって呼ばれるもんで・・・」
茶色い髪と瞳の好青年が言った。
「ああ、私もマリラだから、愛称でリラって呼ばれる」
笑いながらちらっと緑の瞳の女の子を見る。全く無関心に見えるけれど女の勘で、彼女がかなり神経を使ってるのがわかった。
「失礼しましたー」
一礼して客室を出る。
「あーこわ」
何だろう?あの緑の瞳の女の子、絶対ただ者じゃない。
マリラは身震い一つすると、キオの待っている操縦席まで自分達の食事を運んで行った。