第一部☆火星のミリー・グリーン
第五章☆メイの救出
いくつも林立する塔の一つの最上部に、ロカワ氏はメイを連行させた。
「ここに幽閉しておけ」
「はっ」
拘束具に身体の自由を奪われたまま、メイは石と鉄の造りの牢に入れられた。
「ロカワさん、この女をどう使うの?」
リリアが聞いた。
「お父上が戻ってこられたら公開処刑にします。もしミリーが何か考えていたとしても、そうすれば何もできないでしょう」
「それにしても、本当に金星人は低能で野蛮なんだから」
「どっちが低能で野蛮よ!」
リリアにメイが怒鳴り返した。
「まあ!なまいきな。自分の立場がわかってないのね!ロカワさん、この女、今すぐ私の手で殺させてちょうだい」
「あなたの手をわずらわせるまでもありません」
ロカワ氏は衛兵から短剣を借りると牢の鍵を開けさせた。
ロカワ氏が中に入って横たわって睨んでいるメイを見下ろすと、短剣を構えた。
「今よ!」
その時、ミリー・グリーンの声が響いた。
メイは拘束を解除して跳ね起きると、回し蹴りでロカワ氏の手から短剣をはたき落とした。
「なぜ拘束をはずせたんだ?」
ロカワ氏が驚いて叫んだ。
「土星の武器の種類について私に講釈ぶったのはどなた?」
ロカワ氏が振り向くと、その場にミリーが立っていた。
リリアは当て身で気絶させられていた。
衛兵たちはミリーには手が出せず、かといって誰にどう手助けをすればいいのかわからずに遠巻きに見守っていた。
「ミリー、なぜあなたはこんな事をするのです?」
ロカワ氏がまじめくさって尋ねた。
「メイ!やめなさい‼」
短剣でロカワ氏を背後から突こうとしていたメイは、今度はミリーの静止を聞き入れた。
それで良かった。ロカワ氏の背中には反撃する装置が常に備えてあったのだ。
「ロカワさん。あなたがまだ私の知らない道具を持っていると仮定して、どのくらい時間が稼げるかしら?」
ミリーが首をかしげて魅惑的な表情で言った。
ロカワ氏は口の片端を上げて笑った。
「一体あなたは何をするつもりです?」
「火星からの脱出」
「なぜ脱出しなきゃならない?」
「ここは私の居るべき場所ではないから」
「お父上に殺されますよ」
「それでも自由が欲しい」
「私は美しいあなたが欲しかったが、それは叶わないのだろうか?」
「その言葉、リリアに聞かせてみたら?」
「・・・いつも彼女には言わないでいてくださったお礼に、1時間、時間をあげましょう。それで足りますか?」
「充分よ。ありがとうロカワさん」
「まだ嫌われてないと思っておきます」
ミリーはメイを連れて、塔に横付けしていたメーヴェに乗った。
遠ざかってゆくミリーたちをロカワ氏はたたずんで見送った。