第一部☆火星のミリー・グリーン
第二章☆土星の武器商人
「ついてきなさい」
そう言って、ミリーはメイを自分の部屋へといざなった。
動きづらいドレスを脱いで、体にぴったり合った防御鎧を装着すると、目立たないように平民の着る普段着を上から纏った。
ミリーはメイにも同じように装備を与えると、メイが急いで身仕度している間に、宝石箱から二組のイヤリングを取り出してきた。
「防御鎧もこのイヤリングも、土星の武器商人ロカワ氏から進呈されたものなの。本当に精巧に造られているわ。このイヤリングは、擬似テレパシーが使えるし、映像通信機能もある」
「私がもしはずして捨てたら?」
「はずしてもかまわないけれど、着けておいた方が得策だと思うわよ。私の姿と声の映像は利用価値があるはずだから」
メイは値踏みするようにイヤリングを見ていたが、着けておくことにした。
「今、この城内にそのロカワ氏がいるわ」
と、ミリーが言った。
「その男を暗殺したら、戦況に変化が出るのじゃないかしら?」
メイが殺伐とした目で言った。
「なかなか手強い相手よ。義妹の第二王女リリアのフィアンセの癖に、私にもちょっかいかけてきて、殺そうとしたら、いろんな小道具で身を固めていたわ」
この城にいる間は片時も気が抜けずに、ミリーは5年過ごしていた。それ以前は地球のスラム街で他の子どもたちに混ざって生き延びてきた。
安住の地をいつも心のどこかで求めていた。
「ダガーを返すわ。これが使い勝手が良いのでしょう?」
「あなたを後ろから切りつけてもいいの?」
「少なくともここを脱出するまではやめておくべきね。さあ、行きましょう」
ミリーとメイは回廊を息をひそめて足早に進んだ。
「ミリー・グリーン」
兵士を三人連れたロカワ氏と鉢合わせた。
「今、あなたの安否確認に向かっているところでした」
「ケイン王子の援護は?」
「攻撃艇のほとんどを破壊して戦況はこちらが優勢です。・・・それより、その姿はどうされたのですか?それに滅多に従者を連れていないあなたの後ろにいる女は?」
「ええい‼」
メイがたまらず、ダガーを振り回し、ロカワ氏をかばった兵士たちが痛手を負った。
「これはこれは」
ロカワ氏は踵を返すと全速力で逃げ出した。
「待て‼」
「メイ、深追いはだめです」
ミリーの声を無視して、メイは殺気を帯びてロカワ氏を追った。