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第一章☆金星からの刺客

   第一部☆火星のミリー・グリーン

      第一章☆金星からの刺客

 攻撃艇からのひっきりなしの射撃が続いていた。

防弾の堅固な外壁でさえもいつまで持ちこたえるかわからない。

遠征中の父王と第一王子は多分、すぐには王宮に戻ってくることはないだろう。完全に敵に裏をかかれていた。

王宮を守って、第二王子が援護射撃の指揮をしているが、あまり闘いに長けていない青年の指揮では、なかなか決着がつかないように思われた。

第一王女のミリー・グリーンは、王宮の奥に第二王女と使用人たちを避難させた後、自分も第二王子の加勢に行くつもりで、回廊を走っていた。

「誰?」

飛び出してきた人物の誰何をしたが、次の瞬間、身体攻撃の防御に転じた。

「ちっ」

舌打ちをして、敵が1歩退いた。

長い黒髪の少女。殺気を纏って、手にダガーを構えている。

ミリーは目をかっと見開いた。

金星からの刺客の黒髪の少女は、火星の第一王女と相対して初めてその気迫を感じ、身震いした。

燃える炎のような赤銅色の豊かな髪。深い海のような緑色の瞳。

両腕に金属製のプロテクターを装備していて、刺客のダガーの一撃を力だけで跳ね返した。

「噂には聞いていたけど・・・」

まるでマルスの女神のようだと誰かが言っていた。心してかからなければ、どんな人間も決してかなわないとさえ言われていた。

「私も、ここで引き下がる訳にはいかない」

黒髪の少女はダガーを構え直す。

二人は再び相対する。今度はダガーが撥ね飛ばされた。一端退却することがちらりと少女の頭を掠めた瞬間、その一瞬の隙をついて、ミリーが少女を取り押さえた。

ナイフの切っ先を喉元に突きつけられて、少女は観念した。

「あなた、名前は?」

「・・・メイ」

「金星からの刺客?」

「はい」

「私はミリー。あなたに頼みたいことがあります」

「?・・・攻撃艇だったら私では止められません」

「そうじゃなくて、別のことです。攻撃艇は火星人が撃墜してしまうのも時間の問題でしょう」

「・・・」

メイは身に付けていた武器を取り上げられた。文字通り丸腰になった彼女は蒼白になりながらも気丈にミリーの指示に従った。

「現在、火星と金星は星間戦争の真っ只中です。私はそれを早く終わらせたいの」

「私にどうしろと?」

「金星に潜入する手伝いをしてもらいます」

「あなた一人で何ができるの⁉」

メイの言葉に、ミリーは優雅に微笑んだ。

「勿論、私だけではなにも解決しない。協力者を募って打開策を練るつもり」

「そううまくいくかしら?」

「うまく行く。あなたが王宮のここまで入り込んで私と会っただけでも千載一遇のチャンス」

「・・・何を考えているの?」

「私は、火星から金星を独立させたい。目的はあなたと同じ」

「でもあなたは火星の王女でしょう?その立場は?」

「逆に利用します」

「ええ⁉」

「考える時間は明け方まで。金星行きの貨物艇に乗り込んで行くか、それとも」

「それとも?」

「ここで戻ってきた火星の王に処刑されて終わるか」

メイには残された選択肢に従うしか術がなかった。

こうしてすぐにでも二人は金星へ向かうことになった。

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