プロローグ☆緑美里
「そのお話」を美里が考え始めたのは、彼女が13歳くらいの頃だった。
まだあどけない彼女は精神的にも不安定な年頃で、成長期の真っ只中だった。
勉強は苦手でほとんど知識を持ち合わせていなかったけれど、本を読むのが大好きで、空想をすることが多かった。
「そのお話」はタイトルが「十三月革命」といい、ミリー・グリーンという名前のお姫様が主人公だった。
美里は自分がミリー・グリーンになりきったつもりで「そのお話」を考えるのが好きだった。
毎日中学校に通う生活の中で、いつも現実と戦っていた彼女はいつか革命を起こして、世界ががらりと変わるのを夢見ていた。
冴えない、非力な自分から脱却して、新しい自分の世界を創る。精神的にも革命を起こすのだ!と思っていた。
激しい雷雨の時、落雷での死を恐れて、「私は、「十三月革命」を書き上げるまでは死なないし、死ねない」と自己暗示を強くかけた。
高村光太郎の智恵子抄に出てくる「人類の泉」という詩を読んで、人生でただ一人だけ運命の相手が現れて、その人に精神的にこれ以上ないくらい自分を捧げることも夢見た。
「そのお話」では、ミリー・グリーンが運命の相手と出逢うのだ。
ホルストの組曲「惑星」を聞きながら、「そのお話」は太陽系の惑星を舞台にしようと思った。戦いの神火星のマルスから始まって、金星、水星、木星・・・と続く。
だけどその一方で、「そのお話」を書き上げてしまったら、自分が死ぬような錯覚も覚えた。
「私はSF作家になりたいな。いろんなお話を書いて本を出して、そして、死ぬ前になったら「十三月革命」を書こう。それまではいろんなことを見聞きして、吸収して、ちゃんと小説が書けるように努力しよう!」
美里はそう決意した。