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第22話 慣れない地

 ギルドセンターの外へ出ると、もう一度振り返り、何階建てなのかわからない高い建物を見上げる。


 もう一度、ここへ戻ってくるときはランクアップしているときだ! 待ってろよギルドセンター!! そしてマリー! ランク5なんて簡単に超えてやるからな!


「……ところで、チハヤ、ランク5の条件ってどのくらいなんだ?」


 ランク1でもギルド員3人に依頼3件だ。ランク5なら、たぶんもっとたくさんの仲間と依頼を達成しないといけないはず。


「まだ詳しく確認していませんが、数十人規模だったはずです。依頼は軽く100を超えていたような。それにギルド員や依頼数だけではなくて、モンスター討伐など特殊な条件も必要だったはずです」


「なるほど」


 おっと~思った以上に条件が厳しいぞ? これは、やれるかな~。


 まぁ、いいや! とにかくまずは村のみんなからの依頼を達成しないといけない!


「チハヤ! 依頼リストを教えて! 一番難しいナタリー・タッグマンのサインはすでにゲットしているから、残りは簡単に買えるもののはずでしょ?」


「はい。こちらに」


 例の空間から取り出した羊皮紙を見せてもらった。


「ねぇ、このリストは紅茶と一緒とかじゃ──」


「別です。物なので勝手に動くことはないですが、万が一汚れても困るので」


「そっか」


 よし、綺麗だ! 変なものと一緒になってたら正直触りたくすらないからな!


 で、リストを確認すると。


「えっと、海の幸に最新の化粧品と流行の衣服、『あなたの子猫になりたい』全巻、他書籍をテキトーに見繕って?」


 ミラベルさん、本屋なんだから自分でセレクトしろって!


「最新のファッション雑誌とゴシップ誌を一通り。めんどくさいな~もう!」


「他にも美味しそうなお酒とか珍しい飲み物とか、ヘアカタログとかいろいろありますね」


「ああ、それと村長の『アレ』ね!」


 結局何なんだよ、アレって。


「……でもさ、これだけのものどうやって運ぶの? 服とか本とかはチハヤの空間魔法でいけると思うけど、海の幸とかお酒とかはさすがに──」


「いけます。フリーズドライ……えっと氷魔法の応用によって海産物は鮮度を保ったまま持ち帰れますし、お酒や飲み物は品質そのままに運ぶことができます」


「ふーん、やっぱ便利魔法じゃね?」


「便利魔法ではありません」


 チハヤは頑なに否定する。魔法なんてよくわからないから、便利魔法で括った方が村のみんなにはわかりやすいと思うんだけどな~。


「それで、どうする? さすがに今から全部を買うのは無理だよね」


「ええ。今日はもう宿屋へと戻りましょう。ただ、先に村長の依頼品だけ探しに向かいたいのですが、申し訳ないですが私、一人で」


 わざわざ一人を強調する。よっぽど村長との約束が大事なのだろう。これは相当な圧をかけたに違いない。


 ますますどんなものか気になるけど。


 チハヤの顔を見上げた。いつもなら真っ直ぐに見てくれる視線が微妙に外された。


 うむ。たぶん、やっぱり、あれだ。あれ系だ。


 それなら乙女の私は何も言わない。男同士のなんちゃらがきっとあるんだろう。


「わかったよ。じゃあ、ここで別行動にしよう! 私とグレースは先に宿屋に戻っているね」


「いえ、宿屋まではお送りいたします。慣れない地、なにかあると困りますから」


「大丈夫! 宿屋なんてすぐそこじゃん! 人酔いもだいぶ慣れてきたし、2人で待ってるよ!」


 一瞬、戸惑った表情を浮かべたけど、チハヤは納得したのか軽くうなずいた。


「わかりました。それでは、もしなにかございましたら、クローバーの髪飾りに向かって叫んでください。すぐに駆けつけますから」


「うん! ありがとう!」


 チハヤが人ごみに紛れていく。


 よし、ふっふっふふふ。


「グレース。王都まで来てなにもしないで帰るってのはないよね」


「…………あい」


 チハヤよ。さすがに見抜けなかったようだな。この私の完璧な演技を!


「いくよグレース! 都会の探索だ!」





 ……道に迷った。


 私のせいじゃない。私はちゃんと道を覚えながら移動していたのに、テンションが高くなり過ぎたグレースが突然飛び出していって。


 猫のようにすごいスピードで走っていくグレースを追いかけて、大通を抜けて小さな道に入ったところまでは覚えている。


 でも、そこからくねくねと家と家との間を通ったり、店の隙間を抜けてきたり、塀を飛び越えたりしていたら、いつの間にか頭の地図が記録していない路地に来てしまった。


 赤い陽が傾いて影が伸びている。夕暮れももうそろそろ終わりの時間。


 まさかチハヤに助けを呼ぶわけにはいかなかった。完璧な演技で、まあ嘘をついてしまった手前、恥ずかしくてそんなことできない。


 それにグレースを捕まえればなんとか帰れるでしょ。


「グレース……!?」


 その判断がちょっと甘かったかもしれなかった。


「亜人種だな」「あぁ、猫人か」「価値は低いが、見てくれがいいからまあそれなりの値段にはなるだろ」


 私は咄嗟に物陰に隠れていた。困った顔のグレースを3人の男が取り囲んでいる。見た目で人を判断してはいけないとはよく言うが、あれは明らかに悪い側の人間だ。


 村にあんな悪人顔の人はいない。だからわかる。直感的にヤバい状況。


 確か、ダニエルさんが言ってたっけ。今でも亜人種に偏見を持つものはいる。


 話の内容から、話に聞いた人身売買みたいな? ヤバいヤバい、これはやばすぎる。すぐにチハヤに連絡して助けに来てもらわないと……!


 私が髪飾りに手を触れると──。


「誰だ!?」


 やっば、見つかった!


 一人の男が怪訝そうな顔でずんずんずんずんと近づいてくる。


 まっず。なにも持ってないし、ここがどこかわからないし、でも大声出したら──。いや、大丈夫。チハヤならすぐに駆けつけてくれる。


 叫ぼうと息を大きく吸ったところで私の目の前に、長い腕が現れた。


「大丈夫ですか。安心してください。騎士としてきっちり守りますから」


 その顔を見て、私は本日二度目の声を上げた。


「ナタリー・タッグマン!?」


 ナタリーはウインクしてみせると、腰に下げた剣を抜いた。

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