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第21話 最強の異世界転生者

「どういうことだ!? 今さっき約束したばかりじゃん! チハヤをスカウトすることはもうしないって!」


「スカウトすることはやめますわ。ですが、あなたの方から譲るというのは約束違反にはならないのではありません?」


 こいつ……! 屁理屈を! でも、屁理屈だけど理屈は通っていなくもないのが歯がゆい。 こんなことならもっとちゃんと考えておけばよかった!


 でも、ここで怒ってはダメだ。あくまでも冷静に話をつけなければいけない……!!


「チハヤを譲るなんてことは絶対ないって! チハヤからも何か言ってやってよ!」


 チハヤは紅茶を飲む。閉じていた瞳がすっと開いた。


「サラ様が望むのなら、私はずっと側にいます。そして、私は執事としてギルドを離れることはありません」


 うわぁ。さらっといってのけるなって! そういう意味じゃないことはわかってるけどさ、ちょっとドキドキしちゃうじゃん!


「ふーん」


 マリーは強気な笑顔を崩さず手で髪をさらりと払う。


「こんな田舎娘の、そして田舎ギルドのどこがいいのか到底わかりませんが。あなたのギルドは、今なにランクなんですの? まあ、5ランクには遠く及ばないでしょうけど」


 マウントだ。こいつ、マウントを取る気まんまんの顔をしている。


 ランク5がどれほどすごいのかわからないけど、こいつの前では絶対に知られてはいけない、まさかのウチのギルドがまだ0ランクだってことを。


「0ランクです」


 言うなよ~! そこは空気を読んで言っちゃダメだろ! チハヤよ!


「……え? ごめんなさい、さすがに私の聞き間違いですわよね。もう一度おっしゃっていただけますか?」


 マリーは髪を耳にかけた。その仕草にわざとらしさはない。つまりは0ランクなんてものは、もしかして、いやもしかしなくても逆にレアな存在なのかもしれないっ!


「0ランクです」


 だから言うなって! チハヤ~!!


「……0……ランク。噂には聞いたことがありますわ。ランク1にも満たないほどの底辺ギルド。ギルド員も依頼もゼロゼロだから、0ランク。ただの冗談だと思っていましたのに、まさか本当に」


 マリーはマウントを通り越してもはや憐れみの目を向けてきた。


「そんな目で見るな! もうすぐランクアップするんだから! ここで依頼を達成して村に帰れば!」


「あ~なるほどですわ。メアリーのサインはそのために。ランク0の依頼はモンスター討伐ですらないのですね」


「そうだよ! ウチの村にはモンスターなんてそもそもいないんだから!」


「なんですって!!」


 マリーは立ち上がると、急にテーブルを叩いた。


「モンスターがいない!? それなのにチハヤ様はこんなに強いと言うのですか!? とてもじゃないですが、チハヤ様の実力はランク0なんてものでは──むしろランク5ですらおかしいくらい。ランク7か8、下手したら最高ランクの10のギルドに所属していてもおかしくないくらいの強さですわよ!」


「え? そんなに強いのチハヤって」


 「そんなにって!? 強いなんてもんじゃありませんわ! 目が追いつけないほどのスピード! 無詠唱魔法! 攻撃の威力! 正確性! 空間魔法! それらはチハヤ様の実力のほんの一部でしょう。私が見てきた中でもとびきりの強さ、最強と言ってももはや過言ではありません!! チハヤ様がそんな平和な村にいるのはもったいないこと、大陸の、いえ世界の損失ですわ! やはり、サラ! チハヤ様は私に譲るべきです!」


「だから譲らねぇって! チハヤは私のギルドに必要な存在なの!」


 私じゃ埒が明かないと思ったのか、マリーは矛先をチハヤに変えてきた。


「チハヤ様ならおわかりのはずです! 今、世界中でモンスターが増えてきていますわ! チハヤ様ならすぐに英雄として迎えられるはず! チハヤ様のご意思でギルドを抜ければ、問題はないはずでございましょう? どうかお願いです! 私のギルドに来ていただけませんか?」


 なんだか話が変わってきた。そんなこと言っちゃったら、まるでチハヤが世界を救う存在みたいじゃないか。


 本人は黙って紅茶を飲んでいるけどさ。


「残念ながら、何度お願いされても無理なものは無理です。私はサラ様の執事ですから」


 即答だ。なんか、なんかうれしい。


「行きましょう。他の依頼も達成しなければ」


 チハヤが紅茶を置いたのを合図に、私は完全に眠ってしまっていたグレースを起こすと席を立った。


 私たちの背中に後ろから鋭い声が突きつけられる。


「待ちなさい! チハヤ様にふさわしいのは私です! なにがなんでも必ず! チハヤ様をものにしてみせますわ!」


 受けて立とう──なんて力強い言葉は言えない。だけど、私だって絶対にチハヤを渡しはしない。


 私は立ち止まるとくるりと振り返り、ピンク色の髪のわがまま娘に言ってやった。


「チハヤは私の執事だよ。もし、あんたが奪おうとしても、私は絶対に負けないから!」


 魔法も使えないし剣だって握れない──何の力もないけどさ。チハヤにはモブだって言われたけどさ。


 大丈夫。きっと、私はチハヤを守ることができる。   

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