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第8話 便利魔法

「どういうこと? どういうこと!? どういうことぉおおお!?」


  今日もピカピカの熱い太陽の日差しが照りつけているというのに、村の小さな商店街に人だかりができていた。


 何人──いや、村のほとんどのみんなが集まらないとこんな人だかりはできない。


「おぉ! サラちゃん来たかい! 村長から聞いたよ、さっそく頼みがあるんだが!!」


「待って! 私が先に!! 今、一番大変なんだから!」


「いや、俺だ! 誰がこの村の食物を支えていると思ってるんだ!」


 叫んだ私に気がついて、みんながわっと押し寄せてきた。


 ちょっと待って、ちょっと待って、対応できないよ!


「全員待ちな!」


 張り上げた大きい声がみんなを止めた。村のみんなの集団からひょっこりと顔を出したのはクリスさん。


 かき分けるほどの人数もいないけど、人と人の間に肩を入れて前へ進むと一番前に現れた。


 真っ直ぐな視線は私……ではなく、私の後ろにいるチハヤに向いた。


「ああっ! チ・ハ・ヤく~ん! 今日もやっぱり素敵ですねぇ~」


「ああ、どうも」


 なぜだかイラッとする。クリスさんもクリスさんだが、チハヤも普通に返事するんじゃねぇよ!


「そんなことよりクリスさん! いったい何がどうなってるんですか!?」


 クリスさんは色目を引っ込めると、真面目な顔になった。


「今朝早く村長から、みんなの家に連絡が来てね。みんな、猫の手も借りたいほど忙しいから朝から押しかけたってわけさ。ウチもそう。仕入れに仕込み、そして接客、料理の提供、さらには掃除に片付け──常に人手が足りないんだよ」


「なるほど。それで我がギルドに依頼を、ということですね」


「そうなんですぅ! でもでも、チハヤさんが毎日お店に来てくれるなら頑張れちゃうかもっ!」


 私は前に出てきたチハヤの背中を叩くと、振り返ったイケメン悪魔に後ろに下がれと親指でジェスチャーした。


 チハヤが出てくると、話が進まないのよ。


 チハヤが後ろに下がるとクリスさんは腕を組んで胸を張る。


「だけど、来てみたらこうしてみんなが殺到していてね。だけど、全員いっぺんにというわけにはいかないだろう? どうしようか。勝負事で決着をつけようか?」


 クリスさんは勝気な笑顔で拳を掲げる。チハヤ、本当にこの人は魔法使いの適性があるのか? 実は、戦士とか武道家なんじゃないのか?


「う~ん、サラちゃん困ったわね~。これだけ多いと、一つ一つの依頼を解決していってもみんなの依頼が解決するまでは、途方もない時間がかかっちゃうわ」


 エルサさんの言う通りだ。実質、私一人しか働けない。しかも、働いたことのない私が、だ。


 きっと作業を覚えるのにも時間がかかるだろう。依頼の達成にも時間がかかるだろう。


 それに依頼の中には一回で終わるようなものじゃないものも多くあると思う。


 クリスさんが猫の手を借りたいと言っていたように、基本的に人手が足りないんだ。


 でも──。


「チハヤ」


「はい」


「魔法があると言っていたよね? こういうお悩みをスッキリまるごと解決できる便利魔法が」


 チハヤは私の横に並ぶと、村のみんなの顔を見回した。


 「きゃ!」というクリスさんの反応は放っておいて、みんなは真剣な面持ちで村に馴染みのないチハヤの顔を見上げている。


「はい、便利魔法という名称ではないですが、存在します」


 チハヤは力強くうなずいた。気のせいか、いつも生気のない瞳が輝いているように見える。


「ゴーレム召喚。召喚魔法の一種です。これを使って、みなさんの依頼を解決しましょう」


 誰かが「おぉ!」と歓声を上げると、それに引きずられるように村のみんなが嬉しそうな声を上げて手を叩いた。


「ただし、この魔法には一つ面倒くさい点がありまして」


 チハヤが私を見た。


 ……嫌な予感がする。全身が嫌な空気を感じている!


 こいつ! 今、悪魔みたいににやりと笑いやがったぞ!


「ゴーレム──これは人形のようなものです。見た目は全然違いますが、四肢を持ち人型をしています。そして、ある命令を下せばその通り自動で動いてくれる。お皿を洗ってと言えば、お皿を洗ってくれるわけです。ですが、そのためには一度誰かが手本を見せなければなりません。ゴーレムは、手本を学び手本を真似して動く仕組みになっています。お皿を洗わせるためには、その前に誰かがお皿を洗わなければならない。……サラ様、その役をお願いできますか?」


 やっぱり、来たよ! 無茶ぶりだ! しかもこれまでよりも特大のやつ!


「ででで、でもさぁ? それならみんなにやってもらった方がよくない? 速いし、正確だよ?」


「サラ様。これはギルドが引き受ける依頼です。私は魔法で手助けいたしますが、依頼達成の最終責任者はサラ様、あなたのはず。……やってくれますね?」


 くぅ~! うぅううう~!!


「サラちゃん、頼むよ!」


「私からもお願い! 本当に忙しいの!」


 みんなの注目が今度はチハヤから私に向かった。


「サラちゃん」


 クリスさんが近づいてくると、私の手を取り両手で握ってくる。


「ウチも頼む。その代わり、ウチにできることならなんでも協力する。なんなら体を使ってでも──」


「クリスさん! それ、とてもいやらしい言い方になってるって!」


<サラ様。決断するときです>


 お前! こんなときに頭に直接語りかけるな!


「わかった! わかりました! ぜぇーんぶ、私が! 私のギルドがやります!!」 

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