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第7話 モブだとか言うな

 村長と話をつけた早朝、私はギルドに行く前に家にいるチハヤに泣きついた。


「お願いします! よくわからないけどさ、魔法を使えばどんな仕事もパパっと終わるんでしょ?」


「嫌です。ダメです」


 そう言って、お金もないのに朝からじっくり焼いた豚肉のステーキを食べやがる。


 服を汚さないように紙ナプキンなんぞをつけた姿は貴族出身と言われても違和感はない。どこぞの王子でもいけるかもしれない。


「取り付く島もないな、おい! ちょっとは考えてくれてもいいじゃん!」


「考えるまでもありません。ひとまず、席についてください。せっかくの朝食が冷めますよ」


「これからのことが気になって食欲なんかわかないよって言ったらどうする!?」


 グ~、とすごいタイミングでお腹が鳴りやがる。


 そうだよ、私は今日も元気だよ!


 食欲には勝てないので、チハヤの向かいに座るとナイフで肉を切って口の中へ運んだ。


 一見分厚いが柔らかく、かつ中はジューシーで……うんま! うますぎるよ!


 チハヤが来てからは、毎日3食レストランのようなご飯が食べられている。


「チハヤ」


「はい、サラ様」


「自慢じゃないけどさ、私、これまで炊事どころか家事もやったことない。そりゃ、自分の部屋くらいは片付けるけどさ」


 乙女の秘密があるのだ。おじいちゃんにチハヤ、男性陣に触れさせるわけにはいかない。


「知っています。私が来る前は家事代行をお願いしていたとか。メイド、とまではいかないまでもやはり裕福だったんですね」


「そう。そんな私が、これから大量に来るかもしれない依頼をこなせると思う?」


「こなせます。若さもアグレッシブさもありますから」


 こいつ、若さがあればなんでもできるとでも思っているのか?


「私はか弱い乙女なので、無理」


「チハヤさんはか弱くないのでできます」


「無理」


「無理じゃありません」


「ム~リ!」


「ム~リ、じゃありません。それに、いくら無償とは言え、急にこなせないほどの依頼が舞い込んでくるとは思えません」


 くっ。口でこいつに勝つのは無理だ。こうなったら!


 私はナイフを置くと、軽く腕を組んだ。あれをやるしかない!


「はっは~ん! さてはそんな魔法ないんじゃないか? 今までチハヤが使ってきた魔法は、空間魔法に火魔法に水魔法、私に魔法はわからないけど、便利魔法みたいな魔法は使えないんだろ!」


 すっと、チハヤは冷たい目で私を見た。


 何考えてるかわからんときも多いけど、ときどき、こういう不思議な目をするんだよな。


「便利魔法というくくりの魔法はありません。が、今回のような依頼をこなすのにとっておきの魔法はあります」


 ふっ。かかったな!


「そんな魔法があるんだ! じゃあ、ちょいとだけ見てみたいな~!」


 呆れたようにため息をつく。元の瞳の色に戻っていた。


「ダメです。サラ様の魂胆は読めています。そうやって私を挑発することで魔法を使わせる。その流れで依頼の際にも魔法を使わせるつもりでしょう?」


 気づかれてたか。仕方ない。


「いいじゃん! ちょっとぐらい! だいたい、酒場のクリスさんには散々魔法見せといて、私に見せてくれないのはどういうこと!?」


 あの、いちゃいちゃ会話、忘れてねぇーからな!


「サラ様はタイプじゃな――」


 チハヤに向かってナイフを握り締める。


「──というのは冗談で、クリスさんには魔法の才を感じたからです」


「……魔法の才? 魔法が使えるかどうかってこと?」


「ええ。これからギルドが大きくなっていくにつれて、私たちのギルドから様々な職業ジョブのギルド員が誕生してくるはずです。戦士、剣士、弓使い、ヒーラーに呪術師などなど。その中で、クリスさんは魔法使いとしての適性が高いと見て取りました」


「でも、クリスさんはギルドには入ってないけど?」


「いずれ、入ります」


「根拠は?」


「私の勘です」


 勘かい! なにかすごい考察でもあるのかと思ったのに。


「ふむ。ちなみに、私にはどんな適性があると思う?」


「ありません」


「はっ? いや、ないわけないでしょ? ギルドを率いる身だし? なんか他にはないカッコいい職業ジョブが!」


「ないです。あくまでもサラ様は一般人。戦いの才に秀でたものはないでしょう。異世界転生者の私たちの言葉で言えば、村人A。ただのモブ。わかりやすく言うと物語の主人公になり得るような器ではないということです」


「わかりやすく言いすぎだろ! 少しは夢を見させろ!」


「大丈夫です。だからこそ、サラ様には私がついていますから」


 うわぁああ! 出たよ、必殺スマイル!


 私は揺れる感情をごまかすために、豚肉をフォークでぶすりと刺すと次々に口の中へと入れた。


 その間に先に食事を済ませたチハヤは、食後の紅茶を楽しむ。


 まあ、いいだろう。そこまで言ってくれるんなら、大変になったら助けてくれるはず。


 やりますよ。私は、ただ一般人として舞い込む依頼をひたすらこなしていく。


 借金返済のために! 未来の生活のために! そして、未来の私のために!


「った! 大変だよ~! サラちゃん! ギルドの前にみんなが集まってる!!」


「へっ……?」


 決意を固める前に、珍しく慌てた様子でエルサさんが家に飛び込んできた。

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