自室に戻り
しばらくして、
妖怪っぽいな。
「若様!
「ご苦労様。どうでしたか?」
「そうですな……。若様から頂いた書状のお陰で私が総大将になるのは、スンナリ受け入れられました。書状は助かりました。ありがとうございました」
父信虎が討ち死にしたとの報せを受けて、すぐに
どやらその書状が役に立ったらしい。
「いや。今回は苦労を掛けた。
ここまで
しかし、
「いえいえ。私のような年寄りがお役に立てたなら、望外の喜びですじゃ」
もっと直球で聞かないとダメかな?
板垣さんと目を合わせる。板垣さんも俺と同じ気持ちのようだ。
それならもっとダイレクトに聞こう。
「父上に何があった?」
「敵の
ああ、そうだったのか、敵の忍者に父上は討たれたのか。
板垣さんが味方に討たれたと言うからてっきり……裏切り者がいたのかと……。
俺がホッとしたのもつかの間、板垣さんが鋭い声で
「お待ちを!
「ひょほ! そうじゃったかのう……」
「
「と言われてものう……。事実
「
「……」
「小山田殿……あなたが信虎様を討ったのではありませんか?」
「……じゃったらどうする?」
ああ……やはりそうなのか……。
父上武田信虎は味方に……
いや、何となくだが、そうじゃないかという気もしていたが……。
板垣さんと
「ああっ! なぜそのような事を!」
「若様の為じゃ! 板垣! お主もあの場にいたであろう! 信虎様は若様を
「だからと言って! 主君に
「ワシの主君は若様じゃ!」
「だとしても信虎様は武田家のご当主! 時間をかけて太郎様の素晴らしい所を信虎様にお認め頂き、太郎様をご嫡男として認めて頂く道もあったでしょうに!」
「そんな
「だからと言って、主君を討つなど!」
「黙らっしゃい! 板垣は
「なんですと!」
板垣さんと
目をつぶり……、腕を組み……、ジックリと考える。
それは武田家の当主を殺した……つまり、謀反……。
いや!
謀反ではない!
謀反というのは自分の主君を殺して、主君に取って代わる事だ。
実際に父信虎は
難癖をつけられて俺が手打ちにされる可能性は確かにあった。
そうして考えると……今回の事はある種の緊急避難……と見る事も出来ないだろうか?
板垣さんの主張、時間をかけて父信虎に俺の良さを知ってもらう……これは正論……。
だが、確かに悠長に過ぎるかもしれない……。
いや! 違う!
どちらが正しいか間違っているかの問題じゃない。
俺は武田家の当主になると決めたのだ。
だから、金をばら撒いて派閥工作を行ったのだ。
今回の
ただ、それだけだ。
胸に手を当てて自分の心に問いかける。
オマエは
答えはノーだ。
父信虎が死んで不謹慎ながら、俺はホッとした。
これで廃嫡を恐れる事は無いし、命をとられる心配もないと考えた。
夜も良く眠れた。
父信虎の死を積極的に喜んではいないが……俺は確かに父信虎が死んで安堵していた。
ならば少なくとも
板垣さんと
俺は両手を叩き合わせて、二人の議論を止めた。
「俺は今回の
「太郎様!」
板垣さんが驚いた顔をしてこちらを見た。
「板垣さんの言いたい事はわかります。ですが……
「それは……」
「それに事の是非を論じているヒマはありません。これから俺が武田家の当主として、どう行動するか。武田家の家臣、甲斐国の国人衆、近隣の有力大名が見ています。前を向きましょう」
「かしこまりました……。太郎様がそうおっしゃるのでしたら……」
板垣さんは矛を納めてくれた。
俺は
「誰と誰だ?」
「ひょ?」
「今回の行動は誰と誰が関わっている?」
父上の背中の傷は複数あった。
「さて……それをお聞きになってどうなさるおつもりですじゃ? 聞いた所で詮無い事ですじゃ」
「そうだな……」
確かにそうだ。
誰と誰が今回の行動に加わったか知った所で、罰するつもりはないし、かといって褒美を与える事も出来ない。
あくまでも表向きには、敵方の
「あいわかった。そなた達の忠義はしかと受け取った」
――翌日。
俺は元服し武田太郎改め、武田晴信となり武田家の当主になった。
家中に俺の派閥を増やしていたのが幸いして特に反対は無く、母の大井の方も弟の次郎も祝ってくれた。
俺はこの世界に転生して武田家の歴史を変え、武田家に漂う闇、暗い雰囲気を払いたいと思っていた。
だが、出だしから父信虎の謀殺という
行くのは血の道か、光の道か。
いざ、戦国乱世を生き抜かん!