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第2話 魔力造血幹細胞

俺は無事に転生したらしい。

めでたい!


めでたい事だが……、困った!

転生したら、赤ん坊なのだ。


生まれ変わったから当たり前なのだが、不便なことこの上ない。

まだ目がよく見えないし、体もロクに動かせない。


周囲の音や話し声は聞こえるけれど、知らない言葉で何を言っているのかさっぱりだ。

ストレスがハンパない!


さっきお乳を飲まされたが、俺はついこの間まで二十二歳の成人男性だった。

授乳プレイをされているみたいで、恥ずかしいことこの上なかった。


今はベッドか何か、柔らかい布団の上だと思う。

目が見えないから本当に不便だ。


巧良輔たくみりょうすけ、聞こえるか?』


誰だろう?

女性が俺に話しかけて来た。

何で巧良輔たくみりょうすけって、俺の名前を知っているのだろう?


『私は女神ミネルヴァ。女神ジュノーの部下だ。君の心に直接話しかけている。返事をしてくれるかな?』


心に直接……!

テレパシーとか、念話とかいうヤツかな?

とにかく返事をしてみまよう。頭の中で言葉をイメージしたら良いのかな?


『はい。聞こえています。私がたくみです』


『うむ。ちゃんと聞こえていて良かった。無事転生したな。おめでとう』


おお! ちゃんと通じたよ!


『ありがとうございます。でも、赤ちゃんからやり直しですね。ちょっと不便で……』


『まあ、それは仕方ないな。それより、君の希望を叶えに来たぞ』


『希望?』


『転生する前に、女神ジュノーに話していただろう? 魔法を使えるようにしろと』


おお! そうだ! そうだ!

転生前に女神ジュノー様に話したけれど、すぐに転生させられてしまった!


『思い出しました! ええ! この世界には魔法があるとのお話でしたので、出来れば魔法を使えるようにして欲しいのです! それも強力なのを使えるとありがたいです!』


『うむ。自分の身を守るのに必要だしな。この世界で上手くやって行くにも必要な事だろう。その願い聞き届けた。ほら』


おお!

何だろう……。

体がポカポカするような感じがする……。


『何か体が暖かくなった気がします』


『今、君に魔力を与えた』


『魔力ですか? それはどういった物なのでしょうか? 角が生えるとか?』


『安心しろ。角は生えないぞ。魔力は魔法を行使する時のエネルギー源だ』


魔法のエネルギー源……。

それが俺の体の中に入って来たのか。

わかるような、わからないような……。


『あの~、その魔力ですが、使うと減るのですか?』


『減る。だが体内で生成される』


『体内で生成……。それは、魔力用の内臓があるとか……。そう言う事でしょうか?』


『赤血球は、わかるかな?』


『はい。血液の中に入っている……。何と言うのかな……。血液を構成している物質、細胞の一種ですよね』


『うむ、そうだ。赤血球がわかるなら、理解が早いぞ。魔力は赤血球と同じように、人間の血管の中を循環している』


『なるほど』


『赤血球は、骨髄の中にある造血幹細胞で作られるのだ。魔力も同じ原理で作られるのだ』


あー、造血幹細胞って聞いた事があるな。

確か骨髄移植のニュースで……。骨髄バンクとか……。

病気で血液が上手く作れない人にする治療法のニュースだったな。


『じゃあ、魔力造血幹細胞みたいな物を俺の体内に入れたのですか?』


『魔力造血幹細胞か! 上手い表現だな! 私は魔力のもとと呼んでいたが、魔力造血幹細胞の方がより医学的で良いな。これからは、そう呼ぼう。それで君の体には、骨髄に魔力造血幹細胞を流し込み、血液内に魔力が循環するようにした。あれ……? あっ!』


『どうしましたか?』


『うーむ。普通の量を流し込んだつもりだったのだが……、我々神の普通基準で流し込んでしまった……』


神の普通基準?

つまりそれは……。


『つまり普通の人間よりも量が多いと?』


『うむ』


『いや、まあ、魔力が多い分には困らないですよ。魔法をバンバン使えるって事ですよね? 逆に助かります。ちなみに普通の人間の何倍くらいですか?』


『いや……。その……。一兆倍……、いや、百兆倍とか……。たぶんそれ以上……』


はい!?

百兆倍以上!?


『それって人間超えていますよね? 人間やめるレベルですよね?』


『まあ、我々神基準だからな~』


『それって実害はないですよね? 魔力が多すぎて死んだりしないですよね?』


『うん? うん、まあ、大丈夫だろう……。魔力は赤血球より遥かに微小だし……』


今、目を反らしたでしょこの人!

言葉のトーンでわかった。


『取り出す事は出来ないのですか?』


『一度流し込んだ魔力造血幹細胞は、取り出せない……。魔力造血幹細胞は、骨の中にあるわけだし……』


女神ジュノー様も雑だったけれど、この女神ミネルヴァ様も雑だなあ~。

神コンビ大丈夫なのかよ


『まあ、今後も私が要ウォッチして行こう! 安心しろ!』


本当に大丈夫なのかよ~。

不安だな……。

まあ、女神ミネルヴァ様がウォッチしてくれるなら……。

いや! 逆に不安か?


『まあ、とにかく君の希望は叶えられた!』


『そ、そうですね……。ありがとうございました……。しかし、女神様でも間違える事があるんですね』


『うむ。私が作った仕組みではないからな』


『……え? それは一体……。ここは女神様達が作った世界じゃないのですか?』


『違う。私とジュノーは約千七百年前から、この世界を管理している』


『じゃあ、その前は?』


『別の神がこの世界を作り管理していた。だから、私達もこの世界の事を全て把握出来ていないのだよ』


『あー、それで魔力のもとなんて呼び方を……』


『うむ。正式名称は知らんのだ』


なるほどね。

あれ?

じゃあ、前の神様はどうした?


『あの~、差し障り無ければですが、前の神様はどうされたのでしょうか?』


『平たく言うとクビだな。態度が悪かったらしい』


『ああ、神様の世界も厳しいですね』


『うむ。だから、君もしっかり頼むぞ! 私たちの評価は君の活躍にかかっているのだ! 文化文明レベルを上げ、人口を増やし、人々を幸せにし、始祖の神からの評価ポイントをアップしてくれ!』


『わかりました! 鋭意努力いたします!』


 ……と言っても、まだ赤ん坊だから何にも出来ないけどね。


『君は魔力を得たが、まだ赤子だ。魔力の使い方は、もう少し成長したら教えよう。今は体内に流れる魔力を感じ取るように努力してみてくれ。それが魔法の訓練にもなるのだ』


それなら赤ん坊でも出来そうだな。

まあ、やる事もないし。

しばらくは、それをやってみよう。


『ミネルヴァ様、あと一つお願いがあるのですが……』


『うん?』


『周りが何を話しているのか、さっぱりわかりません。これは何とかなりませんか? 赤ん坊に生まれ変わりましたが、中身は大人なので流石にこの状態は辛いです』


『良いだろう。この世界の言葉を分かるようにしてやろう。ほら』


うお!

急に頭に情報が流れ込んで来た!


うお!

おおお!

ああー!


なるほど、わかった。

言葉を理解出来たな。


『ありがとうございます! それと聞きたかった事があるのですが――』


『おっと! 誰か来た! では、またな』


えっ? 『またな』って、もう行っちゃうんですか?

いや、もう少し色々と話し合ってですね。

密な打ち合わせを……。


「きゃ!」

「あっ! 黄金のフクロウ!」


若い女性の声だ。俺の世話係かな?

よし! 話している事が分かるぞ!


「ねえ、黄金のフクロウって、女神ミネルヴァ様の化身よね?」

「そうだわ! きっと女神ミネルヴァ様が王子様を祝福しに来たのよ! みんなに知らせなくちゃ!」


世話係たちの足音が遠ざかって行く……。


あのー、実はさ~。

さっきから用を足したくなってきているのですが……。

黄金のフクロウを報告するよりも、こっちを優先して欲しいな……。


ああ、どうしよう。


ああ。


ああ。




あああああああああ!



*



女神ミネルヴァは神の住むところ、天界に戻った。

この世界の管理責任者たる女神ジュノーは机に向かい忙しそうに書類に目を通し、部下の下級神たちに指示を出していた。


やがて部下の下級神たちが全て出払い、女神ジュノーと女神ミネルヴァ二人きりになった。

女神ジュノーが話し出した。


「お疲れ様、ミネルヴァ! 早かったわね!」


「魔法と医学は、私の担当だからね。これ位どうという事はない。魔法を使えるようにして来たよ。あの子はこれからも私が様子を見よう」


「あら! 随分気に入ったみたいね! じゃあ、お願いするわ。……内密にね」


「もちろんだ。違う世界で死んだ人間の魂を、こちらの世界に引っ張って来た事がバレたら大モメになるからな。特に地球の神々はうるさい。君は、また地球世界に行くのか?」


「ええ。良い子を見つけて連れてこなくちゃ! 留守中は頼むわよ!」


「バレないように気を付けろよ」


「大丈夫よ~」


そう言うと女神ジュノーは、姿を孔雀に変化させ飛び立って行った。

一人残された女神ミネルヴァは、溜息混じりに独りごちる。


「こっちは戦力が少ないのだ。ホントに、バレないでくれよ……」


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