メールを見終えた私は静かに息をつく。
「このメール…違和感がある」
書いてあるレースという単語。これは今盛り上がっているカギが商品になったレースで間違いないだろう。
だけど『誰が最初にクリアすることができるか…楽しみにしております。』という文。
まるで最初にクリアしたプレイヤーに何かしらあるような言い方だ。
そしてメール内で強調されている様々な言葉に、『新たなステージへ導ける人材』…
「やっぱりメールは重要そうだね」
いろいろと考察していると、レースを終えたプレイヤーたちのつぶやきだろうか…全体チャットが更新されていた。
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「無理無理」
「あれクリアできる奴いないだろ」
「そんなにやべぇの?」
「マジでヤバイ」
「誇張してるだけだろ?ID違うし」
「死んでリセットされてんの」
「リタイアは?」
「できないから今のレース参加者全員死んだだろ」
「全員!?スタダ勢はガチ勢多いだろ?」
「それだけヤバイってことだよ!ったく…アカウント育成してくるわ」
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「なるほど…」
スタートダッシュ勢が全員アカウントロスト…どう考えたって普通のレースじゃない。
「うーん…レースゲームで運営を超える…」
運営がテストプレイをしたクリアルートをなぞれば基本的にどのゲームもクリアできる。
だが、今回は当たり前だがクリアルートは公開されていない。だとすれば…
「初見で予測するしかない…か」
そんなことを考えるととある通知を受け取る。
『レース時間になりました』
どうやら、思っていた以上に時間がたっていたらしい。
レース会場にリンクを踏みワープする。
「ここがレース会場…」
(視点が強制的に一人称視点に固定された)
レースまで少しの準備期間がある事を確認して私はスタート地点の観察に入る。正面に見えるのはスタートラインとレースルートになるであろう廃墟の町並みが広がっていた。
そして後ろは断崖絶壁の崖になっている。レースというからにはこの崖は、この位置にとどまるとは思わないほうがよさそうだ。
(車も決めなきゃな…)
車の選択画面を開きすべての車のステータスを見る。
「うん?」
一つ、不審な車があった。
このゲームは見たところ、【安定性】【スピード】【耐久力】の3つのメーターが存在する。
上に出てくる3つの車はそれぞれのステータスが特化している車、そしてもう一つ、すべてのパラメーターが均等になっているもの。
だが一つ、異様なものがある。
「安定性0スピード38耐久力0…?」
安定性と耐久力が皆無。かといってスピードが突出しているわけでもない。
しかもこの車だけパラメーターが数値で指定されている。
「どう考えても異常…これにしてみるかな」
私が車を選んでいると、どうやら他プレイヤーがスタート地点の前のほうを取ってしまっている。
「なら…試してみるかな」
私は一番後ろの位置につく。
「この大会…私が取る」
そんな私のつぶやきは、レース開始のブザーにかき消されるのであった。