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第237話 赤ずきんちゃんとシスターとゾンビのお仕事 

■その237 赤ずきんちゃんとシスターとゾンビのお仕事 ■


 15時になりました。子ども達が『トリック・オア・トリート』と言いながら、各お店を回ってお菓子とスタンプを貰うのは終わりです。スタンプ10個で1回『ガラガラ』ができるので、駅前ロ-タリ-の端に設置されたテントの前には、スタンプ台紙を持った子ども達が並んでいます。『ガラガラ』って、大きな八角形の木製の箱を回すと、色のついた玉が出てきて、玉の色によって景品が決まるんです。主と桃華ももかちゃんはそのお手伝いで、ガラガラが置かれたテーブルの後ろに座ってます。


「赤ずきんのお姉ちゃん、クッキーありがとー。スッゴく美味しかった~」


「狼のお兄さんは、森に帰ったの?」


「なぁなぁ、シスターの姉ちゃん、あの死神、誰がやってんの?」


「モデルガンの撃ち方、教えて欲しい」


 主も桃華ちゃんも、まだ仮装したままだから、子ども達がたくさん話し掛けてきます。


「狼のお兄さんは、バンパイアのお兄さん達とパトロールだよ」


「悪い人達、捕まえるのね! あ、ピンク色の玉」


「おめでとう~。ピンクはお菓子の詰め合わせだよ~」


 ガラガラガラガラ… 八角形の箱を回して、吐き出された玉の色で、一喜一憂して…


「モデルガンの撃ち方を教わりたかったら、レッスンは風向き、風力や重力、弾丸の重量… って、理科系のお勉強から始まるわよ~」


「げっ、オレ、理科わかんね-。あ、オレ青」


「オレは勉強が、やだよ~。オレも青」


「あら、新しいことを知るのは、楽しいじゃない。机にかじりりついてばかりは、眠くなっちゃうけれどね。はい、青色の玉は、商店街で使える商品券500円分ね。今日から使えるわよ」


 ガラガラガラガラ… 八角形の箱を回しながら、お話も弾みます。


「一緒に戦ってたゾンビのお兄ちゃん、床屋さんのお兄ちゃんだよね? あのお兄ちゃん、喧嘩強いね」


「半端なく強いから、喧嘩ふっかけんなよ。骨、折れてもしんねーよ」


 主と桃華ちゃんの後ろで、商品の品出しをしていたのは、岩江さんの後輩の高橋さんです。テント、そんなに大きくないから、小柄な方が小回り効いていいんですよね。高橋さん、今日はキツめのゾンビメイクです。お顔の左半分、食べられてグチャグチャで骨まで見えてますけど… メイクなんですよね?


「あー高橋君! 仕事は? サボり?」


「これも仕事―。つっうか、ここまでデカいイベントやってたら、店は暇だっつーの」


 どう見ても小学校高学年の男の子。ちょっと生意気な子の質問にも、高橋さんはいつもの様に答えながら、段ボールから取り出した景品を主に渡しました。


「あれ? 白川の姉ちゃん達、なんでここの手伝いなの?」


「コンテスト、始まっちゃうよ」


 今度は、主の双子の弟君達の、お友達ですね。ガラガラガラガラ… 回しながら聞きます。


「人前に出るのは、得意じゃないから。はい、黄色は商品券100円分ね」


「えー、絶対、優勝できるのに」


 苦笑いする主に、お友達は飴を一個置いていきました。


「俺からの参加賞な」


 二ッて、笑いながら。


「あら、良い男じゃない。優しい彼氏になるんじゃない?」


 それを見て、桃華ちゃんはニコニコです。

 あと10分もすれば、駅前のロータリーに作られた舞台で、仮装コンテストが始まるんです。だから、ロータリーは男の人も女の人も、子どもも大人も、たっくさん集まっています。その殆どが、仮装しています。


 僕の主の桜雨おうめちゃんと従姉妹の桃華ももかちゃんは、このコンテストには参加しないんです。理由は簡単。


「こんな姿を、大勢の他人に見せたくない」


 って、過保護軍団が。でも、僕も同じ気持ちですよ。主の赤ずきんちゃんはとても可愛くて、桃華ちゃんのシスターはとても素敵です。お菓子を貰いに来た子ども達にも、とっても人気でしたもんね。盗撮しようとした男の人達も居たんですけど、狼男の三鷹みたかさんや、死神の笠原先生に捕まって、お巡りさんに引き渡されていました。


 そんな訳で、主と桃華ちゃんはガラガラのお手伝いをしながら、コンテストを見ていました。そのお手伝いも、コンテストが始まって30分ぐらいで終わったので、そのままテント下でくつろいで見ていました。商店街の人達が、お菓子やジュースの差し入れをしてくれたり、


「写真、撮っていいですか?」


 って、子ども達に声をかけられて一緒に撮ったり…。この撮影が少しずつ大きくなって、結局、コンテストに参加していた人たちも巻き込んで、集合写真になっちゃいました。


「赤ずきんちゃんのお姉ちゃん、狼男さんとのツーショットも」


「死神さん、シスターとツーショット」


「バンパイアのお兄さん達、シスター真ん中に!」


 もちろん、こんなリクエストもありましたよ。リクエストに答える度に、サングラスが必要なぐらい、フラッシュがババババババ!! って、光りました。


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