■その235 バンパイアのお仕事2■
商店街のハロウィンイベントの少し前…
「梅ちゃん、久しぶり。桜雨ちゃん大変だったんだって?」
商店街の会合終わり、同じ青年部の先輩の松浦さんが声をかけてくれた。
「すみません、最近、会合に参加できなくて」
「いやいや、大変なのは聞いてるから。いつも忙しいのに、商店街の方もやってくれてるんだから、こういう時は甘えてよ。それに、佐伯君がチョイチョイ手伝ってくれてるし。彼も、受験生で忙しいのに。
それに、今の修二さんの状態じゃァ… 若い奴らは怖がって、商店街抜けちゃう可能性あるしな」
確かに。そう言って笑いながら、松浦さんは一枚の紙を俺の前に出した。
「甘えさせていただきます。… これ、さっき話にあった泥棒の注意喚起のやつ」
春と秋は引っ越しシーズンもあって、商店街から奥に入った住宅街の3割程は住人が入れ替わる。そのせいか、痴漢や窃盗と言った犯罪が増える時期でもあって、青年部は消防団とは別に自警団としても活動している。
「今年は、いつにも増して被害が多いいんだよ。見回りを増やしたり、防犯カメラも少し増やしたんだけどな。商店街への防犯カメラ設置は問題ないんだけどさ、住宅地への設置は、見張られているようで嫌だとか何だとか… まだ、反対意見が多いんだよ」
あー… 学校や
「それでな、これ以上被害を拡大させるのも嫌だし、大きな事件に繋がるのも困るし、かといって、見回り以外に俺達にはアイディアも出ないし、でな… 梅ちゃん、なんか、アイディアないかな?」
桃華や桜雨や
「マツさん、どうせなら、悪人は根こそぎ処分しよう」
という事で、俺は帰宅してすぐに、笠原に知恵を借りた。
■
「しかし、ハロウィンイベントを利用するなんて、さすが頭のいい奴は、考えることが違うよな」
下着泥棒を捕まえた後、佐伯と一緒に岩江さんと合流したのは俺の家の向かい側、
俺の家は、商店街の外れにある。店舗付き物件で、1階の正面店舗部分は商店街の大通りに面しているが、住居の玄関部分になる裏は、住宅地へと続く細い裏道に面している。道路と玄関の間には、駐車場兼庭がある。その細い裏道を挟んだ向かい側のアパート、俺の家から見て2階の右端が三鷹の家で、真ん中が笠原と佐伯、1階の左端には理容師で岩江さんの後輩の高橋さんとその恋人の工藤さんが住んでいる。全部で6所帯、2階建ての小さなアパートだ。
「チマチマ捕まえるより、一気にやった方が手間がかからないだろうってさ。これだけ顔を隠して騒いでいれば、商店の方も手薄になるし『誰が誰か分からないから身を隠しながら逃げるのも楽だろう』から、慎重な犯人も少しは大胆になる… だろうってさ」
その読みが当たって、盗撮、下着泥棒、スリ、痴漢がズルズルと捕まった訳で…。お巡りさんは、大忙しだ。
「でもさ、どうやって誘い込んだんだよ、うちの店に」
玄関のドアを細く開けて、向かいの俺の家の隣の様子を見ている。今のところ、異常なし。親亀の上に子亀の様に、俺の上には佐伯。岩江さんは、玄関横のキッチンの小窓を少し開けて外を窺っている。曇りガラスだから、開けないと見えないのよね。
「まず… 家は商店街の外れで程々の人通りだ。店をやっているし、子ども達の友人知人、日頃から不特定多数の出入りがある。花屋は、配達で外回りしているのは修二さんと佐伯で、店番は美和さん。イベントの時は
こう考えると、俺ん家、普通に危ないな。
「んなの、犯人が知ってなきゃ、意味なくねぇ?」
「知ってれば?」
「そんなの… 誰か来た」
俺の家の隣から出て来た男が一人、俺の家の玄関に向かった。
「梅吉さん」
佐伯が、下駄箱の上に用意しておいた双眼鏡を取ってくれた。覗き込むと… 明らかに見知らぬ男が…
「あ、増えた」
計4人。サササササーと現れて、普通に俺の家に入って行った。
「4人、入りました」
すかさず、佐伯がトランシーバーで連絡を入れる。
「岩江さん、行きましょう。佐伯、玄関固めておいて。あと、警察と青年部に連絡」
佐伯が指示通りスマホで連絡を取り始めると、俺と岩江さんは家に向かった。もちろん、三鷹の家はちゃんと鍵を閉めてね。