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第234話 バンパイアのお仕事

■その234 バンパイアのお仕事■


 梅吉です。今日は商店街のイベントで、佐伯と共に『バンパイア』の仮装しています。目はカラーコンタクトで赤にして、髪はザックリと後ろに流して、口の中にいれた牙にはまだ違和感が…。忘れちゃ行けないのが、真っ赤な腕章。この腕章、よく見ると赤い刺繍で商店街名が入ってて、これつけてる人は商店街青年部の人達。今日はこの格好で、町会パトロールです。というより、只今絶賛追跡中。下着泥棒を。


「鬼ごっこは、終わりだぜ」


 商店街から外れた、住宅街。途中から二手に分かれた佐伯が、アパート手前の曲がり角で下着泥棒の前にサッと現れた。俺と佐伯に挟まれた下着泥棒は、足を止める前に佐伯の蹴りを真正面から顔面に受けて、見事に道路に沈んだ。右手に確りと、盗んだ下着を握りしめたまま。


「お見事。佐伯、怪我は?」


「鼻、折れたかもな」


 いや、下着泥棒の事じゃないよ、お前の事だよ。


「佐伯が怪我してなきゃ、良いよ。とりあえず、コイツ縛っとこうか」


「あ、結束バンドなら有るぜ。舞台周りの配線の手伝いしてたから」


 そう言って、佐伯がポケットから結束バンドの束を出してくれた。

 下着泥棒は、今日のイベントに便乗していた。某海外映画のクモ男の格好をして…。コイツ、盗んだ下着、誰のか知ってて盗んだのか?


「ミッチーさん、この下着いるって言うかな?」


「新しいの弁償しろ、とは言うだろうな」


 ミッチーさん、商店街の裏通りにあるゲイバーのママさんなんだよね。メチャクチャ綺麗で面白い人で、お店も男性女性問わず人気がある人なんだけど、男運が無いんだよねぇ…。


「… ふ、2人とも、さすがに、早いねぇ」


「俺達、もう、引退かなぁ…」


 佐伯から結束バンドを貰って、下着泥棒を後ろ手で縛り上げた頃、フウフウ言いながら青年部の先輩2人がようやく追いついた。


 青年部の先輩方の仮装の9割は、ジャック・オ-・ランタンなのは、既製品で間に合うのと、着る人を選ばないデザインだからか?この50才超えの先輩2人も、9割のうちに入っていて、立派な腹をジャック・オ-・ランタンに隠してもらっている。


「その腹、凹ませればまだまだ走れんじゃねぇの」


 汗を拭きながら犯人の顔を確認する先輩2人に、佐伯はニシシシっと笑いながら遠慮なく言う。


「それが出来たら苦労しないって」


「仕事上がりのビールのせいだな」


 先輩方、立派なビールっ腹を愛しそうに撫でないで。ジャック・オー・ランタンを愛でてるみたい。


「修二さん、仕事上がりに呑んでるけど、腹出てないぜ」


「修二君、暴れてるじゃん」


「変な奴限定だけどな」


 佐伯の言葉に気を悪くするどころか、笑いながら返してくれる先輩方は大人だな。まぁ、そこまで商店街の人達に、佐伯が溶け込めている証拠でもあって、正直に嬉しい。


「あ、水島先生が盗撮犯3人、岩江さんの方でも、痴漢確保だってさ」


「盗撮は、桜雨ちゃんがやられそうになったか? 写真は撮影会場か、本人の許可を取ってからって、SNSや回覧板やポスターにもデカデカ乗せたんだけどな」


 マツさん、たぶん、正解。


「痴漢は、最近夜に出没していた奴かな?」


 青年部のLINEに連絡を入れていた佐伯が、報告をしてくれた。先輩の言葉に、佐伯が見ていたスマホをこっちに向けてくれたが…


「あー、こりゃ、原型分からんな」


「岩ちゃんも、修二さんと一緒で加減知らないもんな」


 スマホの画面に出された写真は、ゾンビメイクも手伝って、元の顔が分からない。いや、メイクの傷か岩江さんが作った傷なのかすら分からない。顔の変形は… 岩江さんの仕業だよな?


「とりあえず、コイツをお巡りさんに引き渡しましょう」


 下着泥棒を仰向けで肩に担ぎ上げると…


「梅ちゃん、下向けないと、鼻血が喉につまらないか?」


「え、衣装汚したら、桃華ももかに怒られますもん。マツさん、代わりに担いでくれる?」


 桃華、この格好、えらく気に入ってくれてたもんな。朝は忙しくて写真撮れないから、夜撮ろうって、約束してくれたし。それまで、綺麗にしとかないとね。


「んな奴、足持って引きずって行きゃぁいいよ」


「いやいや、顔下に向けて引きずったら、擦り傷じゃなくって削れるよ」


「いいじゃん、セルフゾンビメイク」


「というより、現場検証とかあるだろうから、運ぶんじゃなくて呼ぶんだよ」


 さすが、先輩方。俺や佐伯の行動を制して、スマホで電話をし始めた。交番、今日はお巡りさん3人いたっけ? 三鷹の盗撮犯に、岩江さんの痴漢… お巡りさん、今日は大忙しだな。


「あ、梅ちゃんと佐伯君、本命かかったみたい。ここはおじさん2人で対応するから、岩江君と合流してあげて」


「「了解」」


 『本命』が出たと連絡が入ったので、俺と佐伯はバンパイアらしくマントをひるがえして、岩江さんと合流するべく、家の方へと向かった。







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