■その226 長男の心労■
皆さん、こんばんは。
「… ただいまぁ」
本日は21時に帰宅。今夜もクタクタ。体育教師と言えども3年生の教員だから、それなりにお仕事もあれば気も使うわけですよ。
剣道部の指導もあるし、桜雨の事故の書類処理… やることは山程あるのに、
そんなこんなで、最近は23時過ぎの帰宅が多かったけれど、今日は限界。疲労蓄積。笠原よりも酷い猫背になってるのは自覚してるけど、首すら上がらない。体の怠さは取れないし、それどころか足枷でも付けられているのか?! って程、足が重くて引きずるように階段を上がる。
「飯が先か、風呂が先か…」
階段の一段一段が高く感じる。夕飯が先だと、食べながら寝る。風呂が先だと、お湯に浸かりながら寝る。どっちにしても、寝るなぁ… これ。
「… ただ今」
搾りカスみたいな声をなんとか出して、リビングのドアを開ける。手前にある左のキッチンには、夕飯の洗い物がすまされた形跡。右のキッチンには、これから夕飯を食べる人たちの用意がされている。左に10人は座れるキッチンテーブルセット、右は大きなロ-テーブル、それぞれの壁には大きなテレビがかかってて、それとは別に、フリ-スペ-スにも1台。そのフリ-スペ-スの中心が、この二日間、我が家では一番温度が高い場所だ。
大きな狼が小さな兎を抱え込んで、細い肩越しに顔を埋めてる。その兎の両膝を枕に、さらに小さな子兎がぐっすりと寝ていて、膝の真ん中に顎を置いて寝ているのは小さなワンコで、そんな兎の横には猫が座って兎と話をしている。昨日も見たな、この風景。
「お帰りなさい、兄さん」
「梅吉兄さん、お帰りなさい」
猫… じゃなくて、妹の
まぁ、放したくない気持ちは分かる。分かるが… 桜雨は苦しくないのか? ニコニコしているから、大丈夫か?
「二人の布団、持ってこようか?」
「笠原先生が取りに行ってくれてる」
鞄を椅子に置きながら聞くと、桃華が素っ気なく答えた。
「お帰りなさい、梅吉。余力なくても、出してください」
ドアから、1人分の式布団を抱えた笠原が入って来た。無かったら、余力って言わないよね? 1人分は運べって?
「はいはい、手伝いますよ~」
って、余力はないから気力で動いて、一人分の布団を運んで双子をそこに寝かせた頃には、桃華がローテーブルに夕飯を準備していてくれた。
今日のメインは、豚の生姜焼きだ。出来た妹だよね、本当に。
三鷹は相変わらず桜雨を放さないし、秋君もすっかり空いた桜雨の膝のど真ん中で丸くなってるし… 桜雨、足、痺れないのか?
「って、佐伯、ここで寝てたの?」
用意された食事の前に座ったら、少し先に佐伯が倒れるように寝ていた。周りに参考書や教科書類が散乱しているから、勉強していて力尽きたんだな。
「田中さんのお手製問題集に、そうとう頭使っているみたい。目を回して倒れたわ」
言いながら、桃華は佐伯に毛布をかけてやった。
「頑張るねぇ~」
佐伯、本当に頑張っている。正直、ここまで頑張るとは思っていなかったよ。
「受からせてあげたいですね」
隣に座った笠原は、言いながら2人分の缶ビールをテーブルに置いた。
「せっかく、道を見つけたんだもんな。受からせてやりたいよな」
笠原と一緒に缶ビールの口を開けて一口飲むと、桃華が枝豆とキムチを持って来てくれた。… 今日も頑張ってよかった。
「桜雨ちゃん、今日の学校はどうだった? 体がまだ本調子じゃないから、疲れただろう?」
飲みながら、桜雨の方を見ると…
「あ、梅吉兄さん、私の就職する会社ね、倒産しちゃいそうなんだって」
ん? 聞き間違えたかな? 幻聴?
「桜雨ちゃんてば天使の笑顔で言うから、お兄ちゃん、夢を見てるのかと思っちゃったよ? で、学校、どうだった?」
「私の就職先、倒産寸前。だから、内定取り消し」
眩しい! 桜雨ちゃんてば、その笑顔が眩しい!! って、冗談じゃないよ!! どうすんのよ、進路~。