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第225話 気になるのは… 胸のサイズ? 就職? お弁当?

■その225 気になるのは… 胸のサイズ? 就職? お弁当?■


 皆さん、こんにちは。元、折りたたみ傘の『カエル』です。主の桜雨おうめちゃんがバスにひかれた時、僕は間に入ってクッションになって、僕は直せない程にボロボロになっちゃいました。けれど三鷹みたかさんが、唯一原型を保って何とかシールが剥がれなくて済んだ手元ハンドルを、UVレジンで加工して、キーホルダーにしてくれました。『NEWカエルちゃん』です。


 主、今日は久しぶりの学校です。入院している間に、衣替えになっちゃったので、冬服に袖を通したんですけども…


「ん-… 正直、分からないわ」


 大森さんがお弁当を左手に、右手で持ったお箸をくわえながら、唸ります。お箸をくわえながら、モグモグしてます。目線は、主の胸元…


「ふ、冬服は、夏服より体のラインが、で、でにくいですから」


 松橋さんが、苦笑いしながらフォローしてくれます。今日のサンドウィッチも美味しそうです。


「水島先生、胸の大きさなんて気にしないのでしょう? なら、白川さんも、気にすることはないわよ」


 田中さん、言いながら、大森さんに奪われたウズラの茹で玉子の代わりに、ミ-トボ-ルを田中さんのお弁当から取りました。


 今日のランチは風が強かったから、温室になりました。先生組は相変わらずバタバタしているので、今日は主達だけでゆっくりです。早々に食べ終わった近藤先輩と佐伯君は、受験勉強で使い過ぎた頭を休めるべく、皆の後ろでお昼寝中です。


「胸で寄ってくる男は馬鹿なんだから、相手にしちゃ駄目よ」


 どこから来たのか、お弁当を持った三島先生が、田中さんと松橋さんの間から顔を出しました。


「びっ… くりした!! 三島っチ先生、気配消すのうますぎー」


「ボッチご飯ですか?」


 田中さんの言葉に苦笑いしながら、入れて~って、皆の輪に入ってきました。


「職員室、ピリピリしてるんだもん。3年生の先生達は受験があるからしょうがないけれど、東条先生は白川さんの事故処理で殺気立ってるし、水島先生はずる休みした分の仕事を片付けるのに殺気立ってるし、笠原先生はそんな2人分の仕事のフォローと受持ちの生徒の事で殺気立ってるし、小暮先生もそんな三人に使われてて魂抜けてるし… 職員室、空気悪いのよ~」


 三島先生のお弁当は、女子高生のようにカラフルです。使うのはお箸じゃなくて、フォーク。


「同性のお友達、居ないんですか?」


 桃華ももかちゃんの容赦ない質問に、三島先生はケロっと答えます。


「あれだけ表立って東条先生を追いかけていたら、同年代の同性の先生は引くわよ」


「分かってらっしゃる」


 大森さんの突っ込みに、三島先生は気にした様子も無く、お弁当を食べ始めました。


「私が欲しいのは職場のお友達じゃなくて、東条先生だからいいの。お友達が居ないと仕事が出来ないわけじゃないし、虐められてるわけじゃないしね」


 三島先生は美味しそうにお弁当を食べ進めていきます。


「事故の事、なんでウメちゃんがやってんの? オジサンやオバサンじゃないの?」


「あ、ダメダメ、修二さんなんかに任せたら、加害者の子とバスの運転手、良くて半殺しにしちゃうから。バスの運転手さん、トバッチリも良いところなんだけど、桜雨おうめを撥ねた事には間違いないから。美和さんは、そんな修二さんを押さえるのに専念中。

 学校との関連もあるから、兄さんが一気に処理してるんでしょ。適任よ、適任」


 桃華ちゃんは、デザートの葡萄をポン! ってお口の中にほおり込みました。


「愛が重いわねぇ…。でも、元気になってよかったわね、白川さん」


「はい、ご心配おかけしました」


 三島先生、主の事を心配してきてくれたんですよね。久しぶりの学校だけど、三鷹みたかさんも梅吉さんも忙しくて、主の様子見に来る暇もないんですもんね。授業でしか会えてないんです。だから、主の元気がなくなっていないか、具合が悪くなってないか、三島先生は心配で見に来てくれたんですよね。


「白川っチの周りって、重い男ばっかりだね。鬱陶うっとうしくない?」


「それで育っちゃったから」


「育っちゃったかー」


 大森さんに言われて主がニコニコ答えると、大森さんも「あちゃ~」って、笑いました。


「でも、そんな水ッチやオジサンが、よく就職すること許してくれたわね。私、てっきり、白川ッチは花嫁修業で家に入るのかと思ってたよ」


「… 三鷹さん、進路に関しては、自分で好きな事を選びなさいって」


 主、お誕生日に海で三鷹さんに言われた事を思い出して、ホッペを赤くしました。そんな主を見て、皆は何かを察したようです。


「でも、今回の事で、考え変わったんじゃない? 水ッチ、仕事ずる休みして白川ッチの側にいたぐらいなんだから。監禁されちゃうかもよ」


「物騒な事言わないで」


 桃華ちゃんの突っ込みが、絶対零度の矢の様です。


「でも~…」


「お話しはした方がいいわね。水島先生、白川さんの事が大切で大切でしょうがないから、悩んでるんじゃないかしら? 職員室でも、顔が怖いままだもの。あの傷跡があるから、余計にそう見えるのよね」


 大森さんが何か言おうとした時、三島先生がニコニコしながら言いました。


「傷跡は、自業自得ですよ。桜雨の事を優先にして、自分の抜糸を後回しにし過ぎたんだから。桜雨の病室から7階下の外来に降りれば、すぐに抜糸してもらえたのに」


 桃華ちゃん、言い方がきついですね。そうなんです、三鷹さん、額の傷の抜糸を後回しにし過ぎて、傷跡が想ったより濃く残っちゃったんです。主の頭の包帯は、額を縫ったから巻かれていたようです。抜糸は、退院する時でした。三鷹さん、主が抜糸してもらう時に、一緒にやってもらったんですよね。主の額の傷は、うっすらとあるぐらいです。


「はい、お話ししてみます。喧嘩した時のごめんなさい、まだ言えてないし」


 事故、入院、退院… バタバタでしたもんね。喧嘩の原因のお弁当、今日はいつも通り持って、出勤してましたけど…


「あ、でも先生達、お弁当食べている時は顔が緩んでいるのよね。だから、他の先生達、どれだけ美味しいお弁当なんだろうって、もっぱらの噂よ」


「あの、水島先生も?」


 三島先生の言葉に、主はドキドキしながら聞きます。


「ニコニコ笑ってるわけじゃないけれど、表情はすっごく柔らかくなってるわよ。穏やか~って、オーラ出してるわね」


 それを聞いて、主はニコニコしながら、桃華ちゃんは「やれやれ」って言った風にちょっと笑って、デザートの葡萄を食べました。


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