■ その218 こんにちは、赤ちゃん・想うのは貴方の事ばかり■
皆さんこんにちは、白川
帰りのバスの運転手さんは、とっても運転が丁寧で、立っている数人の人達も辛くなさそう。
『家の事も大切ですが、貴女は高校3年生なのですから、『今』という時間も大切にしてください』
さっきの笠原先生に言われた言葉、響いてるなぁ。
座れて、ホッとしちゃったからかな? 今日は、桃ちゃんが一緒じゃないから、運転手さんの真後ろの席に座っちゃったけど、さっきの事を思い出すなら、立ってても良かったな。
窓の外から見える空は、いつの間にかどんより曇っていて、まるで私の気持ちみたい。空ぐらい、晴れていてくれればいいのに。思わず、溜め息が出ちゃう。
鞄の中からカエルちゃんを取り出して、優しく抱き締めると、少し安心できるんだよね。ずっと、私を守ってくれている、大切な大切な宝物。だから、降り始めの雨みたいに、ポツリポツリ… とっても小さな声で聞いてみるの。
「カエルちゃん、私、空回りしてるのかな?」
答えはないけれど、声に出すだけでぐちゃぐちゃした気持ちが、少し落ち着く感じ。
「今は、私が頑張らないと… って思って、一生懸命いやったつもりなんだけどなぁ…。今朝ね、三鷹さんに『しばらくお弁当はいい』って、言われちゃった。大変そうに見えたんだよね? きっと、少しでも、私の負担を軽くしてくれようとしたんだよね? なんで私、素直にうけとれなかったのかなぁ。それか、
きっと、言えば良かったんだ。でも三鷹さんだって、額の傷の抜糸にいく暇もないのに。貼り替えてるみたいだけど、いつまで絆創膏貼ってるんだろう? せめて、美味しいご飯食べて元気でいて欲しいって思うのは、三鷹さんには重たいのかな? もしかして、味が不味くなったとか?笠原先生に、お弁当食べてくれてたか、聞けば良かったな。
頭の中が『もしかして』とか、『きっと』とか、マイナスな事ばかり。溜め息をついて、カエルちゃんを抱き締めたまま窓に寄りかかると、バスの振動を強く感じる。それを嫌だなって感じないのは、やっぱり疲れてるんだろうな。
「何を言い争ったか忘れちゃったけど、最後に三鷹さんにお弁当箱を投げつけたのは覚えてるんだよね」
お弁当投げつけるなんて、私、最低だな。しかも…
「バカって、言っちゃった。きっと、中身グチャグチャで、味も混ざっちゃって… 食べて貰えないだろうなぁ」
三鷹さんが帰って来たら、ごめんなさいしよう。許してくれるかな? 許してくれたら… ギュってしてくれるかな? お願いしたら、してくれるかな?
三鷹さんがギュってしてくれるのが、一番安心して、一番ドキドキする。耳元で囁いてくれる声とか、体温とか、香りとか、大きな手とか、筋肉の厚みとか… 三鷹さんの全部にドキドキする。そう言えば、最後にギュってしてもらったの、いつだったっけ? 手を繋いでもらったの、いつだったっけ? 最近は、輝君を抱っこしてばっかりだったから、思い出せないや。
「… さん。… 川さん。白川さん」
「はい!」
三鷹さんの事を考えてたら、急に肩をポンポンて軽く叩かれて、驚いて変な声で返事をしちゃった。
「… 小暮先生」
「やあ、子猫ちゃん」
私の肩を叩いたのは小暮先生で、私の鞄を持っててくれていました。
「バスの中で居眠りなんて、珍しいね。あんまりにも気持ち良さそうだったから、ずっと眺めてようかともおもったんだけど、鞄と一緒に体も椅子から落ちそうだったし…」
私、いつの間にか寝ちゃってたんだ。夢の中でも、三鷹さんとの事、グチャグチャ考えてたんだ。どうせ夢なら、デートぐらいしたかったな。
「子猫ちゃん?」
「あ、はい。すみません、鞄ありがとうございます」
ダメだな~。すぐに、三鷹さんの事を考えちゃう。