■その215 こんにちは、赤ちゃん・一人じゃない!■
ヒカル君のママのフタバさんは、ヒカル君を抱っこしてうずくまったまま、大きな声でたっくさん泣きました。たくさん、たっくさん泣いて、それにビックリしたヒカル君も泣いちゃって… でも、オウメちゃん達は何も言わないで、フタバさんが泣き止むのを優しく見つめながら、待ってたんです。ミヨさんが、フタバさんの背中をヨシヨシって、ずっとさすってあげていました。
フタバさんが泣き止んで、でも、まだお鼻をスンスンならしていたら、オウメちゃんがティッシュを渡してあげます。
「
「煩くなかったのかしら? … 汚い顔」
ボクも一緒になってヒカル君のお顔を見ます。ヒカル君のお顔を覗き込むと、ヒカル君のかフタバさんのか分からない涙でグチョグチョ。あ、でも黒い涙はフタバさんのですね。フタバさんの目の周りも真っ黒ですもん。ヒカル君、気持ち良さそうに眠ってますよ。
「二葉さんの気持ちが不安じゃなかったから、輝君、安心したんじゃないかな?」
秋君、舐めちゃダメ。て言って、オウメちゃんが、ティッシュでヒカル君のお顔をそ~っと拭いてあげました。ボクが舐めちゃう方が、早くないですか?
「私の気持ち?」
「赤ちゃんてね、抱っこしてくれる人の気持ちに敏感なのよ。抱っこする人が怖がったり、不安だったり、悲しかったりすると、赤ちゃんも同じ気持ちになるの。二葉さん、今泣いてたとき、不安じゃなかったんでしょ? 輝君、最初こそ二葉さんの泣き声に驚いて泣いちゃったけど、ママが不安や悲しみ、恐怖で泣いてるんじゃないって分かったのよ」
ミヨさん、まだフタバさんの背中をヨシヨシしています。
「輝が元気で安心して、また輝を抱っこ出来たのが嬉しくて…」
「うん、良かった」
お鼻をスンスンしながら、綺麗になったヒカル君のほっぺたに、フタバさんは頬擦りしました。
「ごめん、二葉さん」
そんなフタバさんの背中を、ス-ツ姿の男の人が抱き締めました。急に出て来たから、ボクもビックリです。… この人、消毒の匂いがしますね。
「洋平… 仕事は?」
「梅吉君から連絡貰って、飛んできた。ちょうど、交代の時間だったから、仕事に穴は開けてないよ、大丈夫」
フタバさんの旦那さんなんですね。じゃぁ、ヒカル君のパパさんですね。
「いや、帰って来たらさ、玄関で父さんに呼ばれて店覗いたら、二葉さんがボーっとカウンターにすわってたからさ。輝君を迎えにきたんだろうなって、思って。でも、様子が様子だったから」
ウメヨシさん、トウリュウ君の入れてくれた麦茶を、一気に飲み干しました。さすがウメヨシさん、頼りになるお兄ちゃんです。
「じゃあ、皆でご飯にしましょ。勇一さんと修二さんは、そのうち上がってくるでしょ。先に、食べ始めましょう」
ミワさんの一声で、お夕飯が始まりました。フタバさんは寝ている輝君を抱っこしたまま、オウメちゃんの隣に座りましす。その横に、ヨウヘイさんウメヨシさんと並びました。ご主人様は、もちろんオウメちゃんの隣です。
「二葉さん、ちゃんと食べてた?」
聞きながら、ミヨさんがフタバさんにご飯をよそってくれました。フタバさんが、山盛りのご飯を片手で受け取ろうとしたら、ウメヨシさんがヨウヘイさんを肘でツンツンしました。けど、「何か?」って不思議そうなヨウヘイさんに、ウメヨシさんは溜め息をついて言います。
「二葉さんが食べている間、洋平さんが輝君を抱っこしててあげてください。二葉さんが落ち着いて食べれないし、食べこぼしで輝君が火傷しちゃったら大変でしょう?」
ヨウヘイさん、成る程! って顔をして、二葉さんからヒカル君を受け取りました。けど、フタバさんより抱っこがヘタクソですね。ウメヨシさんが、抱っこの仕方を教えてますよ。そんな二人を見ながら、皆は頂きま~す。って、食べ始めました。皆、お腹が空いてたから、元気に食べ始めます。今日あった事の報告や相談が、あっちこっちから聞こえます。
「食べたけど、美味しくなかった。輝がいる時は、落ち着いて食べられなかったけど、味はしたのに…」
「今は、味します?」
ご飯を少し食べたフタバさんが、ポソってつぶやくと、オウメちゃんがそっと聞きます。
「今まで食べてきたご飯で、一番美味しいわ」
ニッコリ笑ったフタバさん。オウメちゃんも、嬉しそうに笑います。
「二葉さん、お仕事はどう?」
「はかどりません。出産前までバリバリやって、出産後も1週間で復帰したけど、頭も体も思うように動かなくて。でも、やることは山積みだし、輝の面倒はみなきゃだし… だから、
ミヨさんが、取り分けたグラタンをくれました。フタバさんが受け取りながら答えると、ミワさんが言います。
「体が辛いの、当たり前なの。赤ちゃん産むのって、命がけだから。本当なら、産んだあと一ヶ月は赤ちゃんにオッパイあげる他は、ゴロゴロ寝ていていいのよ。
産後一週間でバリバリお仕事出来るのもかっこいいけど、体も労ってあげないとね」
「でも、寝ているだけっていっても、赤ちゃんは数時間に一回はオッパイ欲しがるから、まとめて睡眠とれないのよね。最初の頃は、飲む方も飲まれる方も初めて同士でへたっぴだから、変に体力使っちゃって赤ちゃんはお腹いっぱいになる前に疲れて寝ちゃうし。お腹いっぱいじゃないから、すぐ起きてオッパイ欲しがるし」
ミヨさんとミワさんは、「懐かしいわ~」って、笑ってます。
「子どもって、何番目でも大変よ。兄妹だから似てるけど、やっぱり違うから。でも、梅吉の時は美和ちゃんがいてくれたし、
「
ミワさんとミヨさんは、ご飯を食べながらお話ししてくれます。
「うちはね、私と主人二人だけじゃ、『家庭』を作るのは無理だって分かっていたから、美和ちゃんに一緒に住んでくれるようにお願いしたの。最初から『助けて』って。美和ちゃんが、快くOKしてくれたから、梅吉と桃華を産めたのよ。私と主人だけじゃ、育てるのは無理だったと思うわ」
ミヨさんは、少し落ち着いた声で言いながら、隣のミワさんを見ます。いつの間にか、皆もミヨさん達のお話しを聞いていますね。ご飯を食べながらですけど。
「私も、美世ちゃんと同じ思いよ」
ミワさんとミヨさんは、お顔を見合わせてニッコリ。
「うちの子達が赤ちゃんの扱いが上手なのは、経験があるからなのよ。それこそ初めての時は、皆であーでもない、こーでもないってパニックだったんだから」
「本や母親学級で習った事に、ピッタリ当てはまる事の方が少なかったしね」
ウンウンって頷きながら、ミワさんが言います。
「そうそう。ああいうのは、『参考まで』って感じで頭に入れておくのがいいわね」
「… 母親学級、行かなかったの」
フタバさんの呟きに皆はビックリ顔で、お箸が止りました。
「周りは皆、大変大変って言ってても、母親出来てたし。それに… 仕事が忙しかったから」
でも、ミヨさんとミワさんは、顔を見合わせて苦笑いしています。
「じゃぁ、私とミワちゃんからの提案。二葉さんと旦那さんと
ミヨさんの爆弾発言に、皆はまたまた目が点になっていました。