目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
桜雨の中で ~相々傘をしてください~
桜雨の中で ~相々傘をしてください~
三間 久士
恋愛スクールラブ
2024年08月26日
公開日
53.1万字
連載中
皆さんこんにちは。
僕は何の変哲もない、黒の折りたたみ傘です。
持ち手に、カエルのシールが付いているので、僕の持ち主は僕の事を『カエルちゃん』と呼んでくれます。
僕の持ち主は中高一貫に通う高校2年生の女の子で、僕の昔の持ち主を探しています。
このお話は、僕の持ち主のゆったりとした日常です。

第214話 こんにちは、赤ちゃん・俺もかまっって!!

■その214 こんにちは、赤ちゃん・俺もかまっって!!■


 皆さんこんにちは。ボク、ミタカさんのワンコの秋君です。


 最近、オウメちゃんのお家に、赤ちゃんが居ます。男の子で、名前はヒカル君です。

 ヒカル君は小さくて、コロコロ転がったり、お腹を床に付けて少しだけズリズリ動きます。だけど、ボクみたいに前足と後ろ足を使って歩くことは出来ないみたい。そのかわり、お座りは上手になったからオモチャで遊んだり、双子君やボクとよく遊びます。モモカちゃんのパパが忙しい時は、ボクが一緒にお昼寝するんです。ヒカル君が泣いたら、モモカちゃんのママか、オウメちゃんのママにお知らせに行きます。

 ボクはヒカル君よりお兄ちゃんだから、ヒカル君を守ってあげるんです!! でも、一番ヒカル君を守ってくれてるのは、オウメちゃんです。

 オウメちゃんはヒカル君にミルクをあげたり、オムツをかえたり、お風呂に入れたり… モモカちゃんと一緒にお家のお仕事をしながらお世話をしています。けれど、モモカちゃんは『受験生』らしくて、お勉強も忙しいんですって。ママさん達も、お店があるから大変です。だから、オウメちゃんは1人で頑張ってて大忙し。今もお風呂上がりのオウメちゃんが、床にお座りするテーブルの前で、ヒカル君にミルクをあげてます。


ひかる君、飲むの上手。すぐ、秋君より大きくなっちゃいそうだよ」


 ヒカル君、小さなお目目でオウメちゃんをジッと見ながら、ゴクゴクゴクゴク… 凄い勢い。オウメちゃんは、そんなヒカル君を見てニコニコしながら、隣に座ってるボクに言います。


「わん」


 ヒカル君の方が大きくなっても、ボクの方がお兄ちゃんですから。


「輝君、そろそろ離乳食2回にしてみようか? ミルクだけだと、すぐにお腹空いちゃうみたいだし、皆と一緒に食べたそうだし」


 オウメちゃんのママさんのミワさんが、テーブルにご飯を並べていきます。双子君もお手伝い。キッチンでご飯を作っているのは、モモカちゃんとモモカちゃんのママのミヨさんです。


三鷹みたか、その不機嫌な雰囲気をどうにかしてください。特に、学校はただでさえ3年生はピリピリし始めている時期なんですから、教師はどんと構えていてください」


 それを見ながら、ご主人様達は椅子に座って、お酒を呑んでます。


「不機嫌じゃない」


 ご主人様、カサハラ先生に言われて言い返しましたけど… ボクでも分かってますよ、最近のご主人様がご機嫌ナナメだって。


「輝君に白川を取られて面白くないのは理解できますが、貴方、大人でしょう? 赤ん坊に焼きもちを焼いていないでください」


 オウメちゃんと一緒に寝るのは、ご主人様もたまにありますね。その時は、皆一緒ですけど。でも、ご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、抱っこしてもらったり、オムツ… は、ご主人様はしてなかったですね。ともかく、学校以外の時間、オウメちゃんがヒカル君にべったりなのが面白くないんですよね、ご主人様。

 オウメちゃんの手が空いてる時にギュってしようとしても、すぐにヒカル君が泣くからオウメちゃんはパタパタ走って行っちゃうし… オウメちゃん、いっつも動いてるんですよね。

 こないだなんか、お風呂でヒカル君がオウメちゃんのオッパイ吸っちゃた時、ご主人様のお顔が鬼になってました。


「俺だってまだ…」


 飲んでたオレンジジュースを拭き出して、珍しく声を上げたご主人様に、真顔のウメヨシさんが突っ込んだんです。ご主人様のオデコの絆創膏、バチーン! って。すんごい勢いのデコピンで、ご主人様のお顔元に戻ってうずくまってたけど… あそこ、叩いて良かったのかな?


 そんなご主人様、ビールをグビグビ呑んでますけど、目はオウメちゃんから放さないんです。オウメちゃん、ミルクを飲み終わったヒカル君を縦に抱っこして、軽く背中をトントンしてゲップさせてあげてますね。あ、すんごい大きいゲップ、出た。


「水島先生さ、自分の甥っ子にそんだけ焼きもちやいちゃうならさ、自分の子ども産まれたら、やっぱり焼きもち焼くの?」


「俺の… 子ども…」


 サエキ君の質問に、ご主人様はハッ! として、オウメちゃんを見ている目の色が変わりました。


「いやいやいやいや、待て待て待て待て…」


 そんなご主人様のオデコを、ようやく帰って来たウメヨシさんが片手で鷲掴みにしました。ボク、それ知ってます、アイアンクローって言うんですよね! この間、双子君とサエキ君と、プロレスを見てたらサエキ君が教えてくれました。


「今、それどころじゃないよな? な?」


 ウメヨシさん、ニコニコしてますけど、汗たくさんかいて、コメカミに血管浮いてますよ。


「梅吉、先に手を… あら、二葉さん、お帰りなさい。暑かったから、喉、乾いてるでしょう」


 止めようとしたミヨさんが、リビングの入り口で立っている女の人に気が付きました。ウメヨシさんが連れて来たんですかね? ボク、覚えてますよ、ご主人様のお姉さんのフタバさんですよね? でも、前に会った時と、ちょっと雰囲気が違いますよ。元気、無いですね。


「お邪魔、します。… あの」


 モジモジするキャラじゃないですよね?


「二葉さん、お帰りなさい。輝君、とっても元気でしたよ」


 オウメちゃんが、モジモジしている二葉さんにヒカル君を渡しました。


「えー…」


「ミルク、いっぱい飲んだばかりだから、まだ縦抱っこの方がいいです。上手にゲップできたけど、横抱っこだと少しミルク出ちゃうかも」


 ワタワタするフタバさんに、オウメちゃんはポイントを押さえて抱っこの仕方を教えています。


「ごめんなさい、私… 」


 フタバさん、小さなヒカル君の頭を確り支えて、座り込んで泣きだしちゃいました。普段のフタバさんを良く知ってるご主人様とウメヨシさん、カサハラ先生は、ビックリして固まってます。


「寝れた? ご飯、食べれた?」


 そんなフタバさんの背中を、ミヨさんが声をかけながら優しくナデナデしてくれます。フタバさん、頷きながらますます泣いちゃいました。


「そう、それなら良かった。今日の夕飯は? まだなら、皆で食べましょう」


 泣きながら頷くフタバさんの顔を、ヒカル君がペチペチ叩いてます。叩いて、何かお話ししてます。ヒカル君も、『お帰りなさい』してるんですかね?


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?