■ その211 こんにちは、赤ちゃん・ようこそ我が家へ■
夜、主が
「お姉ちゃん、お帰り!」
「赤ちゃんは? 赤ちゃん!」
もちろん、一番に出迎えてくれたのは双子の弟の
「あれ? お姉ちゃん、チャイルドシート買ったの?」
輝君は、梅吉さんの後ろの席・チャイルドシートでスヤスヤと眠っています。
「赤ちゃんのお父さんの車から、お借りしたの。ほら、荷物運ぶの、お手伝いしてね」
「「はーい」」
主が車から降りて後ろのドアを開けると、双子君達は我先にと椅子や足元に置いてある荷物を抱えて、家の中に入って行きます。秋君は、双子君達が落とした小さな小さな靴下を咥えて、2人の後を追いました。
リビングはいつもと変わりがないように見えました。けれど、よく見ると、ローテーブルの角にカバーがしてあったり、キャビネットの扉を開けられない様にロックが付けられていたり、キッチンに入らない様に木製のベビーゲートが置かれていたり、観葉植物は撤去されていたり… すっかり、赤ちゃん仕様になっていました。
「連絡して、そんなに時間たってないのに…」
「
驚く主に、美和さんが得意気に答えました。
「皆、ありがとう。桃ちゃん、大事な時期なのに、本当にごめんね」
主の腕の中で寝ている輝君を起こさない様に、主の手はリズムよくちいさな背中をポンポン。声はヒソヒソ。
「賑やかなのには慣れてるし、私の希望する職場、知っているでしょう? 赤ちゃんの面倒みるの、初めてじゃないし。今回は双子じゃないし、人手は沢山あるから、何とかなるわよ」
桃華ちゃんはニコニコしながら、輝君の寝顔を覗き込みました。そうですよね、桃華ちゃんも双子君達を赤ちゃんの時から面倒見てるんですもんね。
「
主のお母さんの美和さんは、ワクワクしながら声をかけてきました。隣の桃華ちゃんのお母さん・美世さんもワクワク顔です。秋君はちゃんとお座りして、主に飛びつきたいのを我慢しています。ダイニングテーブルでビールを呑んでいるお父さんの修二さんと、伯父さんの勇一さん、笠原先生、佐伯君はちょっと戸惑い気味です。あ、佐伯君が飲んでいるのは、オレンジジュースですよ。
「
主が輝君を紹介すると、小さな小さな歓声が上がりました。ダイニングテーブル組以外は、赤ちゃんをそっと観察します。
「
皆の輪の中心で、手慣れた母親の様に赤ちゃんを抱っこする主を見て、修二さんが呟きます。同意して頷いてくれたのは、笠原先生でした。
「で、三鷹君は?」
輝君の小さな手をそぉ~っと撫でながら、美世さんが聞きます。
「内臓は大丈夫。全身の
梅吉さんが持って来た輝君の荷物を置きながら、説明しました。
「ついでに、輝君のお母さんの二葉さん情報。こちらは、軽い育児ノイローゼかな? 両親と旦那さんは、現役の医師で総合病院勤め。旦那さんの両親も仕事が忙しいうえに、もともと絶縁状態。保育園やベビーシッターの
事務所のお局様と話してたら、三鷹が事故で運ばれたって報告が入って、フラフラ病室に行ったみたいよ。寝ていた輝君を、事務所のベビーベッドに置いたまんま」
梅吉さんは話をしながら、テキパキと荷解きをして輝君のスペースを作っていきます。
「あらあら、それは大変だったわね」
美世さんが、代わるわって、両手を主に差し出したので、輝君の抱っこがバトンタッチされました。すかさず、秋君が主に飛びつきました。秋君、主に抱っこしてもらって満足気です。
「寝れないのは、辛いわよね。
私も、
美和さんが思い出しながらしみじみ呟きます。
「美和ちゃん、俺は?」
その呟きに、自分の名前が出て来なくて、修二さんはちょっとショックみたいです。
「修二さんは、私の分もお仕事頑張ってくれたじゃない。修二さんがお仕事してくれなかったら、皆、ご飯食べれないもの。それは、修二さんのおかげよ」
美和さんは言いながら、修二さんの空いたグラスに、冷蔵庫から出した缶ビールを注ぎました。その言葉に気を良くした修二さんは、缶に残ったビールを、勇一さんのグラスに注ぎます。
「美和ちゃんと子どもの為なら、頑張れるもんな~」
本当、単純です。
「さ、夜泣きされても良いように、寝れる時に寝ちゃいましょうね。
今日は、さっさと寝るわよ~」
そんな修二さんに構わず、美世さんの一声で、素早く梅吉さんと笠原先生がお布団を取りに3階に向かいました。
「
美和さんに促されて、主は左へ、梅吉さんは右へ、それぞれのお風呂へと向かいました。美世さんは輝君を抱っこしながら、久しぶりの赤ちゃんの感触を楽しんでいます。美和さんと桃華ちゃんは、お夕飯の準備。笠原先生と佐伯君は、リビングの端にお布団を下ろしています。双子君達と秋君は、そんな先生二人のお手伝い。修二さんと勇一さんは… そんな光景を見ながら、晩酌を続けていました。