■その193 希望進路決定■
進路指導
殆どの生徒が、希望進路をほぼ決定しています。まぁ、
田中
「T大の文化三類・教養学部を希望します。その後、状況では教育学部に入りなおすかもしれませんが。最終目的は、国語の教員です」
田中さんと俺の間にある『進路希望』のプリントには、第一希望の欄にしか記入されていません。
「国語ですか?」
迷いのない真っすぐな目。
「はい。大森さん達の勉強を見ていて、『国語は基礎』と思ってはいました。それに追い打ちをかけたのが、佐伯君の存在です。勉強をするにおいて、『基礎』が出来ていなければ意味がないんです。彼は、この学校に来るまで勉強という勉強をしてこなかったと自分で言った通り、本当に学力のレバルは低かったです。けれど、教え始めたらどんどんと吸収していきました。ここに来た時の学力は、中学生1年レベルぐらいでしたが、今ではギリギリ高校3年生レベルまで上がりました。まぁ、ギリギリですけれど。勉学の面だけで考えると、彼は酷い遠回りをしました。彼の生い立ちから考えれば、小学生の彼を導いてあげることが出来たなら、彼の今の学力レベルは私と同じぐらいか、少し上まで行くのではないかと思いました。思って、出来る事なら、彼の様な子を導ける教師を目指します。その為に、まず教養学を学びたいです」
佐伯君の存在は、田中さんにも大きな影響を与えたようですね。
「このまま頑張れば8割受かるでしょう。学校内選抜もクリア出来るでしょうから… 11月以降の願書提出、11月末の入学試験、12月に結果発表と言ったところですね」
俺の見立てでは合格率10割ですが、万が一を考えて。合格率が高くて勉強を怠る生徒もいますが、まぁ、田中さんは心配ないでしょう。
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大森
「ねぇ、ヨッシー(義人先生)、今から専門学校って行けるかな?」
髪をクルクル指で巻きながら、随分と気楽に聞きますが、彼女なりに進路を考えているのは分かります。担任ですからね。
「笠原先生、です。
専門学校に進路変更ですか?可能ですよ、学力があればですが。どこの専門学校に進みたいのですか?」
「んーとね、ブライダルの仕事がしたいの」
「… ブライダルですか?」
まぁ、修学旅行の時に見たガーデンウエディングに、先日のサプライズウエディングの手伝いと、興味が湧いたのでしょうが…
「アパレルは良いのですか?」
「あのね、ブライダルって言っても、やりたいのは花嫁さんの支度なんだよね。ネイル、メイク、ヘアメイク… でね、坂本さんに相談したの」
ああ、なるほど。あの人なら、適任ですね。
「そうしたら、美容専門学校の中にブライダル科がある学校があるって… あれ? 逆だったっけ? とにかく、そこに進んでみたいの。ほら私、ネイルのバイトもやってたでしょう? けっこう面白かったんだけど、それだけで生活できるほどの収入は期待出来そうにないかなぁ… って思って、諦めてたんだよね。でも、ブライダルっていう
そう言えば、普段からクラスメイトのネイルや、文化祭のファッションショーのメイクを楽しそうにやっていましたね。
「… そうですか。じゃぁ、チャレンジしてみましょう。『とりあえずアパレル』というよりは、現実味も夢もあっていいと思います。何より、きちんとした相談者を確保しているのは、心強いですね。受験する学校の資料は、手元にありますか?」
「何校かあって、迷っちゃってます」
そう言って、鞄から出て来た学校資料は5校分。
「なら、オープンキャンパスに行ってみてはいかがですか? 予定が合うなら、坂本さんに同行してもらうのもいいでしょう。焦る時期ではありませんが、ゆっくりともしていられませんからね」
「はーい。ヨッシー、ありがとう。私、頑張るね」
「笠原先生。貴女が他の受験生より有利な事は、的確なアドバイスをしてくれる友人や先輩が周りにいる事です。その事を、忘れない様に」
屈託ない笑顔は微笑ましいですが… 受験生なんですよね、彼女。まぁ、受験生だからと、
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松橋
「しゅ、就職します。手芸用品を取り扱っているお店に就職して、販売や手芸講座をやりたいです」
まだ、迷っているかと思ったのですが、意外と決めて来ましたね。
「専門学校とか、大学は良いのですか?」
「せ、専門学校、な何校か、資料請求したんですけれど、なんだか求めているモノと違うなって思ったんです。それで、もう少し調べたら、販売しながら手芸講座が出来るお店を見つけて…」
「なるほど。良いと思いますよ。ご家族も納得でしたら、進めましょう」
ホッとしたんでしょうね。肩から力が抜けましたが… 就職面接、これからなんですよね。彼女にとっての課題は『面接』ですかね。