■その188 『ありがとう』を形にして・一日スタッフ頑張ります2■
梅吉さん、大変お疲れの様です。
「父さんのお母さんの形見は、修二さんのお母さんが大切に大切にしまっておいてくれたらしくてさ、
「母さんが生きていたら、母さんも美世に喜んでプレゼントするわ。… いいえ、兄さんの花嫁さんにあげるように、預かっていたのね、きっと。この飾り
って、快くプレゼントしてくれたんだよ。
… ありがと、竹ちゃん」
うつむいたまま話す梅吉さんに、竹ちゃんさんがお水の入ったグラスを差し出しました。受け取った梅吉さんは、一気に飲み干します。
「わー、ウメちゃん、お疲れ」
梅吉さんに、「食べる?」と、大森さんがスパゲティをフォークにひと巻して差し出しました。
「ちょっと大森さん、それをやるのは恋人の私の役目よ!」
梅吉さんがリアクションを起こすより早く、明るいグレーのスーツ姿の三島先生が、ビデオを片手にすっ飛んできました。
「… あ~、お
三島先生の反応の速さに一同は引き、梅吉さんは独り言を残して逃げました。
「あ、東条先生、待って~」
三島先生、カメラを構えて梅吉さんを追っていきます。
「… 三島先生、関係者だったって?」
「そうそう。
あの(修学旅行の)拉致現場にいたけど、拉致はしてない方、常務? 専務? の娘なんだと」
そんな2人を見ながら、大森さんが呟きました。佐伯君、パエリアをお代わりしながら答えます。
「三島先生のお父さんは、専務ですよ。誘拐実行犯は常務。派閥争いに目を光らせていたのが僕の父の副社長。
三島専務は娘の三島先生を
すみません、僕にもお水ください」
今度は、小暮先生が疲れた顔で来ました。
「あ、スパイの小暮先生」
佐伯君に名前を呼ばれて、小暮先生は苦笑いです。
「み、三島先生も、スパイだったんですね」
「スパイは、頭が良くなくちゃぁ…」
お水を受け取りながら、小暮先生は馬鹿にしたように鼻で笑いました。そして、一気に飲み干します。
「それって、自分の頭いいんだって、言っちゃってるんです?」
「小暮先生も、朝からですよね?」
これ以上、掘り下げるのはまずいかな? と思った田中さんが、大森さんの言葉に被せるようにして、スッと話題を変えました。
「はい、朝からお手伝いさせていただきました。まぁ、僕だけじゃなくて、佐伯君も近藤君も、工藤さんもですしね」
小暮先生、田中さんの気持ちを汲んで、答えました。
「力仕事は、十八番ですから」
工藤さんが言うと、近藤先輩と佐伯君が頷きました。
「けど、白川、よくあんなでっかいの描いたよな。スゲーよ」
佐伯君が感心しながら言うと、皆の視線はお店の奥に飾られた大きなキャンパスに注がれました。美世さんは『空』だと思い、美和さんは『海』だと思った絵です。それは、主がGW(連休)中に集中して描き上げたもので、『空』でも『海』でもないんです。主がキャンパスいっぱいに描いたのは、青と白の花。
幾つもの『あお』と『しろ』で描かれた絵は、見る人によって空とも海とも花とも見れるものになりました。
この絵、あまりに大きくて、学校から運ぶのは梅吉さん達だけじゃなくって、佐伯君や近藤先輩、小暮先生や工藤さんにも手伝ってもらいました。お店に入れる時は、ドアからは入らなかったので、窓からです。窓を外して入れました。額も間に合わなかったので、額無しです。
「佐伯君と双子君が作ったブーケとあの絵が、『サムシングブルー』・何か青い物、よ。
『サムシングボロー』・何か借りた物、なんだけれど…」
田中さんは言いながらキョロキョロしました。
「それって、うちのオーナーの万年筆だろ?」
岩江さんが、あそこあそこと、主と隣にいる主そっくりの小さな女の子を、顎で指しました。薄い若草色のワンピースを着た、
「サムシングボローって、幸せな夫婦生活をおくってる先輩夫婦の持ち物を借りて、その幸せを分けてもらうんだっけ?」
「らしいな。うちのオーナー、結婚して40年らしいんだけど、まだまだ新婚か! ってぐらい仲いいんだよ。しかも貸した万年筆、結婚式の契約書?」
「結婚証明書」
田中さんが突っ込みます。
「ああ、それ。それを書いた万年筆なんだってよ。ちゃんと普通に、いつも使ってる」
「めちゃくちゃご利益ありそう!」
大森さんの一言に、皆は同意して頷きました。
「さ、そろそろデザートだすよ~。皆、もうひと頑張り頼むよ」
竹ちゃんさんが、カウンター下の冷蔵庫や、持ち込んだ大きいクーラーボックスを漁り始めました。すると、皆はそれぞれ返事をして、お昼の残りを食べ始めました。竹ちゃんさんも、昨日から料理の仕込み、してくれてたんですよね。ありがとうござします。