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第174話 甘やかし隊

■その174 甘やかし隊■


 皆さんこんにちは。僕は黒い折りたたみ傘に貼ってある、カエルのシールです。僕の持ち主の桜雨おうめちゃんは、僕の事を『カエルちゃん』って呼んでくれています。


 今日は土曜日。隣町の大きなショッピングセンターで、皆でお買い物です。もちろんワンコの秋君も一緒です。人が沢山いるので、主がしっかり抱っこしています。このショッピングセンターには、ペットホテルやペットサロンを併設しているペットショップがあるので、センター内にペットが入ることが出来るんです。でも、専用カートに乗せるか、主のように確り抱っこがお約束。


「秋君、桜雨の抱っこが一番好きよね」


 桃華ももかちゃんが言うように、秋君、主の抱っこが一番大好き。今も、主の腕の中で気持ちよさそうにウトウト… たまに、垂れたお耳がピクピクしたり、小さな黒いお鼻がピスピスしたりしてます。そんな秋君に、三鷹みたかさんは毎回焼きもちを焼いているんです。けれど、主が三鷹さんの洋服の裾を掴むので、すぐに満足してます。主、本当はしっかり手を繋ぎたいんですけれど、『先生と生徒』なのでお外では我慢しています。


 ショッピングセンターで最初に買ったのは、ワンコの秋君のご飯やオヤツ。それを、ショッピングセンター内で使える大きなカートに入れて、皆で色々なお店を見ました。

 スポーツ用品店では、主の双子の弟君達のサッカー道具や、梅吉さんの新しいジャージ、皆の新しいスニーカー。

 大きな文具店では、主の画材や皆の文房具。体育教師の梅吉さんだって、ペンぐらいは使いますもんね。主や桃華ちゃんは、可愛いボールペンや新商品のカラーペンを試して、本屋さんでは、先生3人組は参考書籍、桃華ちゃんは楽譜、双子君達は漫画雑誌、主は有名画家の画集を選んでいました。

主が両手を使う時、秋君は笠原先生のパーカーのフードの中です。


「お姉ちゃん、買わないの?」


 双子君達は、お小遣いで買った漫画雑誌を大切に抱えながら、画集を棚に戻した主に聞きました。


「うん。もうちょっと、お小遣い貯めてからね」


 主が買いたい画集、けっこう高いんですよねぇ…。少しずつお小遣いを溜めてはいるんですけれど、なかなか目標額に到達できない。画材も、良い金額しますから。


「あ、三鷹さん、買っちゃダメです。これは、私が自分で買いたいんです」


 横から伸びて来た手が、主が戻した画集を取ろうとしていました。


「… 駄目か?」


 画集の手前で手を止めて、三鷹さんが聞きます。


「ダメ」


 わざとホッペを膨らませて見せる主が可愛いと思いつつも、三鷹さんはちょっと悲しそうな顔をします。力強くて目つきが悪いのに、ヘニョって眉も目尻も下げちゃうんです。


「そんな顔しても、ダメです。最近、私の事を甘やかしすぎです」


 生徒に言われてますよ、先生。


「僕達も、そう思う」


「うん」


 あらら、小学生の双子君達まで。


「しかしな…」


「甘やかしてくれるなら、2人の時がいいな」


 更に情けない顔になった三鷹さんに、主が小声で言いました。


「じゃあ…」


「あと、1年後だな!」


 三鷹さんが主の手を握ろうとした瞬間、後ろから梅吉さんが羽交い絞めにしました。


「ウメ兄ちゃん、良いトコだったのに~」


「邪魔しちゃダメだって~」


 そんな梅吉さんに、双子君達はブーイングです。


「俺が悪者? いやいやいやいやいや… ここ、お店の中だからね。イチャイチャしてて良い訳ないでしょうよ。ほら、桜雨もその画集買ってくるから」


 梅吉さん、三鷹さんを羽交い絞めにしている腕の力を、少し強めました。主は、梅吉さんの言葉を聞いて、軽―く溜息をつきました。


「梅吉兄さん、これは私が自分で買うの。勝手に買ってくれたら、怒るから」


「たまには、甘えてよ~」


「十分、甘えてるわ。あれは、私が自分で買いたいモノなの」


「… 分かりました。んじゃぁ、次行こう」


「「「はーい」」」


 主に念を押されて、梅吉さんはがっかり。でも、気を取り直して、次のお店です。主と双子君達は片手を上げてお返事をしましたが、三鷹さんはすんごーく不服そうな顔で、梅吉さんに羽交い絞めにされたまま、本屋から引きずり出されました。


 本屋さんを出てみると… 気が付いたら、桃華ちゃんと笠原先生がいません。探そうとする梅吉さんを主が止めて、少し早めのお昼にしたいと、飲食店を探し始めました。今度は、梅吉さんが不服そうな顔になりました。


 その頃、桃華ちゃんはフードに秋君を入れた笠原先生と、アクセサリーのお店に居ました。去年の夏、笠原先生が桃華ちゃんにかんざしを選んでくれたお店です。


「本当に、同じデザインでいいのですか? バレッタとか、カチューシャとか… 簪にするにしても、違うデザインでもいいのでは?」


 ピアスやネックレス、ブレスレットに髪飾り… 素材もデザインも色も、色々な種類があって、大きさも色々だけどキラキラ輝いてるのは皆同じで、そんな輝きに囲まれて、桃華ちゃんはお店の置き鏡を覗き込んでいました。


 アンティーク調の楕円形の鏡で、自分の髪にした簪を満足そうに見ています。


「私は、これが気に入ってるの。これじゃなきゃ、要らない」


 それは、楕円形の飾りがアジアンデザインに透かし彫りがされていて、無色の透明ビーズで飾られているシルバーの簪です。去年の夏、笠原先生が桃華ちゃんの為に選んであげたモノと、まったく同じモノですね。


「そんなに、気に入っていたんですか?」


「ええ、すっごく、大切にしてたわよ。それに、このデザインは、GPSつけやすいんでしょう?」


 桃華ちゃん、鏡越しにニコッと笠原先生に笑いかけました。


「嫌味ですか?」


「まさか。… 今回の事で、思ったのよ。義人よしひとさんは、どんな手を使っても私を探してくれるんだって」


 笠原先生、名前、桃華ちゃんが名前呼んでくれましたよ! 名前の所だけ、メチャクチャ小さな声でしたけど。


「これから、桜雨と放れる時間が多くなるだろうから… もし何かあっても、この簪があれば、義人さんは私を助けてくれるなって思ったの。違った?」


 鏡に映る桃華ちゃんは、とても恥ずかしそうで、ほんのり顔を赤くして伏し目がちに笠原先生を見ていました。


「違いませんよ。よく出来ました、正解です」


「え~っと… 予備? そんなに?」


 笠原先生は、桃華ちゃんのしている簪をスッと取って、3本残っていた同じ簪を手にして、レジに向かいました。眼鏡で誤魔化せてますけれど、名前を呼ばれて浮かれてますね、笠原先生。





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