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第167話 修学旅行・お土産話2

■その167 修学旅行・お土産話2■


 主と桃華ももかちゃんは、カーテンで仕切られた席に移動しました。これから、お顔の産毛を剃って、マッサージとパックをするんです。


「ビタミンCが豊富で、ホルモンのバランスを整えてくれるのよ。豊富なビタミンで疲労回復を促して、お肌の疲れもとってね。因みに、生理痛や便秘の改善にも効果的よ。終わったら、ゆっくり飲んでね」


 そう説明をしながら、坂本さんがサービスしてくれたのはローズヒップティーです。茶器セットを乗せたお盆を、木製の丸いサイドテーブルに置いていきました。


 施術するのは、高橋さん一人。なので、3人で楽しくお話をしながらのリラックスタイムです。



 そんな女子組とは打って変わって…


「ちょっとぉ! 流石に小汚いんじゃないの?!」


 今まで桃華ちゃんが座っていた椅子に、梅吉さんが座っています。その左横には笠原先生。梅吉さんの右横、主が座っていた椅子には三鷹みたかさん。三人とも、グッタリしていて、半分寝ている状態です。


「帰ってきて桃華ももか桜雨おうめのご飯食べたら、一気に疲れが襲ってきて… 明日からまたキラキラな先生に戻るんで、今日は見逃がしてくださぁい」


「まぁ、キラキラに戻すのが、私の仕事ですけれど」


 呆れてため息をついた坂本さんは、笠原先生の背もたれをまっ平に倒しました。


「しばらく寝てなさい」


 そう言われた笠原先生は、既に夢の中でした。三鷹みたかさんのカットは、岩江さんがしてくれます。こちらも、8割は寝ていますね。


「で? 拉致監禁は、無事解決?」


 話しかけるのは、事の顛末が聞きたいのもそうですが、寝かせない様にとの配慮もあります。手つきも、主の時と比べると、ちょっとだけ乱暴かな?


「桜雨の荷物は、無事に戻って来ました」


 そうなんです、僕、あのホテルで主と別々になっちゃったんですけれど、梅吉さんがちゃんとお迎えに来てくれました。主、僕が戻ると、破れたり骨が折れたりしてないか、細かくチェックしてくれました。何ともないって分かると、長い間、ギューってしてくれたんです。


「桃華と桜雨の話を聞いて、俺なりに想像してみたんですけれど… うち、あの東条グループの親戚っぽいです。しかも、桜雨は直系の孫とか言われてたから、修二さんって東条家の跡取りかな? なんて…」


「東条グループって、ベビーフードから健康食品、医療機器に健康器具や家電、自動車メーカーに豪華客船、不動産業から旅行業… それこそベビーベッドから墓場まで。の、東条グループ?」


 岩江さん、ちょっと驚いてカットの手が止りました。


「想像だけどね。まぁ、昔から『僕に、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんは居ないの?』って聞くと、母さんや美和さんはちょっと悲しそうに微笑むだけで、何も話してくれなかったんですよ。だから、修二さんには余計に聞けなかったな。父さんは… 論外。俺達がその東条グループに関係する血筋で、何か理由があって家から出ていて、お祖父ちゃんの会長が今にも死にそうだから、会社を狙う周りが動き出した… って考えるのが、自然なんだよね…」


「アンタの話を鵜吞うのみにするなら、小暮先生は関係者でいいのかしら?」


 坂本さん、梅吉さんの話を疑っていません。逆に、信じて考えている感じです。


「もろ、関係者。まぁ、採用試験に受かってるんだから、教員免許は嘘じゃないと思うんですよね~。たまたま、うち学校だったのか… それとも、ワザとか…」


 梅吉さん、鏡に映ってる顔が怖いですよ。


「にしても、その話が本当だとしたら、お前等の祖父ちゃん、今にも死にそうなんだろう? 会いに行かないのか?」


「… それが、日曜日に」


「ふーん」


 聞いておきながら、岩江さんは興味無さそうに鼻を鳴らしました。


「あら、10円ハゲ」


「え!!マジっ?!」


 坂本さんが髪をかき分けた瞬間の呟きに、梅吉さんは慌てて頭に手を回しました。


「嘘よ、嘘」


「… 勘弁してくださいよぉ」


「でも、それ以上頭使うと、本当にハゲるわよ」


「自覚してますよ」


 梅吉さん、珍しく坂本さんを睨みました。情けなさそうに、軽~くですけど。


「でも、桜雨ちゃんにそっくりだっていう和桜なおちゃんには会いたいわ~。すんごーく、可愛いんでしょうね」


 気を取り直して… 坂本さんがいつもの調子で聞きました。


「そりゃぁモチロン! メチャクチャ可愛いの! 小さい頃の桜雨そのまんま! 初めて会った時なんか、桃華に確り抱き着いてて… 天使が3人降臨したかと思って…」


「梅吉、鼻血」


 和桜ちゃんを思い出して興奮した梅吉さんに、坂本さんがサッとティッシュを差し出しました。


「今度、連れてらっしゃいよ」


「チャンスがあったら。でも、双子とも仲良くなれると思うんですよね。兄妹は居ないって言っていたから」


 梅吉さんはティッシュを鼻に詰め詰め… ファンには見せちゃいけない顔ですね。


「最終日、和桜ちゃんの同行を許してくれた高浜先生に感謝ね」


「話は分かる先生なんで。俺も三鷹も、学生時代は怒られてばかりでしたけれど、いい先生ですよ」


「怒られてばかりなのは、今も変わらないじゃない」


「それは、三鷹の分も怒られてるから、そう見えるんですよぉ~。でも、おかげで桃華も桜雨も、学校生活をエンジョイしてますよ。桜雨は特に… 今回の修学旅行でも、軍艦島で単独行動あったし、夜には怪奇現象起こしたみたいだし… うちの学校じゃなかったら、問題児扱いされても文句言えないね」


 梅吉さん、苦笑いです。お兄ちゃん、頭痛いんですねぇ…


「あの子の才能よ。クロッキー帳、見せてもらったわ。とってもいい旅行だったみたいね。修学旅行だけは」


「あ、俺も見せてもらったー。凄いよな。俺、絵心なんてないからさ、上手く言えねぇけど、スゴイよな」


 ニシシシって笑う岩江さんの顔を見て、梅吉さんは思います。桜雨の描く絵は、沢山の人を笑顔にさせる… 凄い子だな。って。


「桜雨はやらん」


 そんな梅吉さんの耳に、三鷹さんの呟きが聞こえました。鏡越しに見ると… 確り眠っています。眉間に深い皺を作って。


「修二さんが怖くて、話すのも怖いんだよ! お前ぐらいだよ、食らいついてんのは」


 岩江さんは、寝ている三鷹さんの頭をポカっと一発殴りました。


「まぁ、今日一日ぐらいはゆっくりなさい。私のゴットハンドで、天国見せてあげるわよ」


 そう言った坂本さんはとっても優しく微笑んで、言われた梅吉さんは冷や汗をかきました。


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