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第155話 修学旅行・グラバー園2

■ その155 修学旅行・グラバー園2■


 カフェで休憩した主達は、再びハートストーンを探し始めました。お腹が満たされれば、集中力も戻ります。足元を見つつも、風景を楽しみながら進むのは中々忙しくて…


桜雨おうめ、花嫁さんだわ!」


桃華ももかちゃんの嬉しそうな声に主が顔を上げると、幸せそうに微笑む新郎新婦が建物の影から出て来るところでした。


「ここ、旧オルト住宅だわ。ちゃんと申し込みをすれば、前の庭園を利用してのガーデン・ウエディング・パーティーが出来るんですって。素敵~」


 大森さんが、パンフレットを読み上げました。視界を広くしてみると、確かにガーデン・ウエディングです。新郎新婦の前には、30人程のドレスアップした人たちがテーブルに座って、主役の二人を拍手で祝福しています。

 晴れ渡った青空の下、純白のドレスに身を包んで愛する人の横に立って、大切な人たちに祝福されている花嫁さんは、とっても幸せそうで、キラキラ輝いていて、とっても綺麗です。主の胸が、キュンキュンしていました。そんな主の左の小指に、三鷹みたかさんがそっと自分の小指を絡めました。


「…」


 ビックリして三鷹さんを見上げた主でしたが、目を細めて優しく微笑みかけられて… 主は、小さな口をパクパクして俯いてしまいました。絡められた小指の熱が凄くて、そこから溶けちゃうんじゃないかなって、主は思っていました。

 そんな主と三鷹さんの横で、桃華ちゃんも秋君を抱っこしながら、眩しそうに花嫁さんを見つめていました。


「いつにします?」


 そんな桃華ちゃんに、笠原先生はボソっと聞きました。


「え?」


「あれ」


 驚いて自分を見る桃華ちゃんに、笠原先生はチョンチョンと新郎新婦を指さしました。


「ええ!?」


「いつがいいか、考えておいてくださいね」


 驚きが止らない桃華ちゃんに、笠原先生はいつもの調子で言うと、耳元に軽くキスをしました。笠原先生、ここ、外ですよ! コンプライアンス違反!

 顔どころか、耳も首も真っ赤にして、桃華ちゃんは慌てて周りを見ました。あ、腕の力、弱めてあげてください。秋君が少し苦しそう。


「私も、結婚できるかなー。キラキラな花嫁さんになりたいなー」


「私より、可能性は高いから大丈夫よ」


 羨ましそうに花嫁さんを見つめる大森さんと、そんな大森さんに、素直に言う田中さん。


「結婚式の料理って、腹、膨れないよな」


「さ、最近は、バイキングも、ありますよ」


「フランス料理じゃァ、うちの部員は満足しないだろうな」


 料理について、あれやこれ言っている佐伯君と、松崎さんと近藤先輩。皆、それぞれの理由でガーディン・ウエディングに夢中で、桃華ちゃんと笠原先生の事は見ていなかったみたいです。主達も、参列者さん達と一緒になって、拍手で新郎新婦をお祝いしました。


 そして…


「あったー!!」


 ようやく、発見しました。ハートストーンです。新郎新婦をお祝いしてから30分ほど歩いて、ようやく見つけました。確かに、石畳の中に、ハート形の石があります。


「一番のり~!」


 と、最初に大森さんが石の上に手を置きました。次に、松崎さんが手を置くと…


「一緒にいいかな?」


 少しだけ手を出して、恥ずかしそうに近藤先輩が聞きます。松崎さん、顔を真っ赤にして、でも、嬉しそうに頷きました。


「今なら、兄さんが居ないから… まぁ、先生が嫌じゃなければですけど」


 桃華ちゃんはソワソワ両手を前で組んだり外したりしながら、ツンっとそっぽを向きながら言いました。そんな桃華ちゃんを、皆は『素直じゃない』と思いつつも、笠原先生を見ます。


「はいはい」


 皆の視線が集まる中、笠原先生は桃華ちゃんの手を取って、ぐいーっとハートストーンの上に置きました。


「願い事は、口にしないでくださいよ。どうしても教えたければ、二人だけの時にしてください」


 笠原先生、コソっと桃華ちゃんだけに言ったつもりでしょうけど、皆に聞こえてますよ。ほら、桃花ちゃんだけじゃなくて、他人事なのに、松崎さんの顔まで赤くなっていますから。せっかく、赤味が引いてきたのに。


「… 先生、私も手を繋ぎたいな」


 そんな桃華ちゃんと笠原先生を見て、主は羨ましくなったみたいです。主はもじもじしながら、三鷹さんにおねだりしました。


「もちろん」


 三鷹さん、ニッコリ快諾して、主の目の前に大きな手を差し出します。パァー~って主は顔を輝かせて、その大きな手に自分の手をからませて、優しくハートストーンに置きました。ハートストーンのひんやりとした感触と、三鷹さんの手の温もりを感じながら、主は一生懸命お願いしました。


「せっかくだから、私もやっておこうかしら」


 主と三鷹さんが立ち上げると、田中さんが入れ代わりにしゃがみます。


「田中ッチ、興味あったの?!」


 ハートストーンに手を伸ばそうとする田中さんに、大森さんはビックリです。まぁ、主達も驚いてはいたんですけど。


「いつかは、結婚できればいいかな? と、思うぐらいかしらね」


 さらっと答えて、田中さんはハートストーンに手を置きました。


「佐伯君は?」


「俺、恋愛ってわかんねーからいい。恋愛より、水島先生に勝てる方が重要だからな」


 主に聞かれて、佐伯君はチラッと三鷹さんを見ました。佐伯君、未だに剣道で三鷹さんに勝てないんですよね。


「じゃぁ、次に進みましょうか?」


「皆で写真撮ってからね」


 田中さんが促すと、桃華ちゃんがスマートフォンを構えます。けれど、人数が人数だったので自撮りだと無理があって、通りがかったおばさんに、シャッターを頼みました。素敵な洋館をバックに、皆で記念写真を1枚!



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