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第150話 修学旅行・搭乗手続き前からハプニング

■その150 修学旅行・搭乗手続き前からハプニング■


 皆さん、おはようございます。桜雨おうめちゃんの折りたたみ傘の『カエル』です。


 朝の6時です。今、主達はメチャクチャ急いでいます。桃華ももかちゃんのお母さんが運転するワゴン車は、それはそれはとっても滑らかにアスファルトを滑って、集合場所の空港に一直線です。まだ早い時間のせいか、道路がメチャクチャ空いてるのがラッキーですね。


 車内は制服姿の主と、桃華ちゃんと佐伯君。色違いのパーカーを着た、三鷹さんと梅吉さんと笠原先生。皆、ぐんぐん通り過ぎていく車窓の景色『白バイに見つかりませんように』と、祈るばかりでした。


「はい、着いた!!」


 そんな皆の願いが届いたようで、車は無事、空港の国内線ターミナル側にピタッ! と停められました。瞬間、皆はシートベルトを一気に外して車外に飛び出します。


「3人とも、集合場所に走って!」


 梅吉さんは言いながら、三鷹さんと笠原先生と一緒に、車の後ろに回りました。


「美世さん、ありがとー。行ってきま~す」


「お母さん、ありがとう。行ってきます」


「美世さん、あざっす。行ってきます」


 主達はリュックを片手に、美世さんにお礼を言って走り出しました。


「気を付けて楽しむのよー」


 主達の背中に、美世さんの声がかけられました。


「「「行ってきます」」」


「あんたたちも、確りね、先生」


 梅吉さんは、自分と佐伯君のスポーツバッグ。三鷹さんは、自分と主のスポーツバッグ。笠原先生は、自分と桃華ちゃんのスポーツバッグ。先生組は各自2人分のスポーツバッグを両肩に抱えて、若者らしく走りました。


「2階、出発ロビー、時計台2番!」


 梅吉さん、走りながら集合場所を復唱します。主達はそれを聞きながら、一生懸命走りました。… 主と桃華ちゃん、大荷物を持った先生組に追いつかれて、頑張れ頑張れって、応援されながら走りました。


 集合場所には、3年普通科の2クラスが集合しています。集合時間の5分前ですが、殆ど揃っているみたいですね。先生組は、スポーツバッグを主達に渡すと、直ぐに先生の集合場所に向かいました。


「「おはよ~…」」


 主と桃華ちゃん、頑張って走ったのでフラフラしています。佐伯君は、まだ余裕があるみたいですね。もう、クラスメイト達と談笑しています。


「お、おはよう」


「おはよう。時間ギリギリなんて、珍しいわね」


 松橋さんと、田中さんを見つけました。


「昨日の夜から、修二さんと秋君が一緒に行くって、駄々こねてて、夜で収まったかと思ったんだけれど…」


 主も桃華ちゃんも、スポーツバッグの上に座り込んじゃいました。


「朝も、駄々こねたのね」


 田中さんが、主達にキャンディをくれました。


「ありがとう。そうなの、修二さんも秋君も、引っぺがすのが大変で…

きっと今頃、美和さんや龍虎りゅうこに怒られてる頃よ」


 桃華ちゃんが、貰ったキャンディを口の中に入れると、キュッ! と、レモンの甘酸っぱい爽やかな味が口の中一杯に広がりました。


「んー… クエン酸って感じ」


 カロンと鳴らしながら、桃華ちゃんはレモン味を楽しみます。


「中学の時の修学旅行は、ここまで酷くはなかったんだけどなぁ。

頂きまーす」


 主のキャンディは、甘酸っぱいイチゴ味でした。主、下がり気味の目尻をますます下げて、脱力です。


「ちゅ、中学の時は、と、東条せ先生の方が、わ、我がまま言って、放れなかったんじゃない?」


「それがね、うちの学校、中高の修学旅行はお互いにフォローの先生が出されるのよ。今年も、中等部の先生、5人ぐらい来てるはずよ。どこの地方かは、わからないけれどで、私達が中学の時、手伝いで来たのよ、あの3人」


「な、なるほど」


 まぁ、梅吉さんと三鷹さんが、尽きて行かないわけないですよね。


「あら? 大森さんと近藤先輩は?」


 ここで、主が気が付きました。大森さんと近藤先輩が居ないことに。


「… ちゃんと来てるんだけれど、相当荷物を詰め込んでたみたいで、今の彼方達みたいにスーツケースに腰かけた瞬間…」


「バーン… って、は、弾けちゃって。せ、先輩、お手伝いしてるわ」


 田中さんが、集合場所から少し離れた所を指さしました。お土産屋さんが壁際に並んでいます。その列の、ちょっと途切れた所で、セカセカ動く影がありました。荷物整理をしている大森さんと、お手伝いの近藤先輩ですね。


「… 近藤先輩の腕力で、荷物を詰め込むつもり?」


「みたいね」


 桃華ちゃんは、呆れてしまいました。その横で、主は立ち上がると、スポーツバッグを開け始めました。


「私、だいぶ余裕あるから、少し預かっても…」


 中を確認した瞬間、主は勢いよくジッパーを閉めました。


「も… 桃ちゃん…」


「ん? どうしたの、桜雨おうめ?」


 桃ちゃんを見た主の額には、汗が滲んでいます。顔色も、心なし悪くなった感じですね。


「… これ」


 主がそー… っとジッパーを半分空けると…


「「「!!」」」


 桃華ちゃんも、田中さんも、松橋さんも、皆お互いの口を塞ぎ合いました。皆の視線の先には、大人しくスポーツバッグの中で丸くなって、皆を見上げている秋君が居ました。ちょっと、得意気な顔に見えるのは、気のせいでしょうか?


「閉めまあ~す」


 優しく、軽い口調で、主はジッパーを閉めると…


「何で入っているの?」


 田中さんが口火を切りました。


「秋君、三鷹みたかさんに張り付いてて、玄関で弟達に剥がしてもらったのに」


 主、一生懸命思い出します。


「桜雨から修二さんを引きはがすのに、人手が欲しかったから、その間に?

でも、荷物は先に車の中だったし…」


 桃華ちゃんも、思い出します。


「とりあえず… どうすればいいの?」


 桃華ちゃん、スマートフォンを取り出しても『?』が頭の中を占めています。


「水島先生に…」


ピピピー… っと、笛の音が聞こえました。


「集まったようだから、荷物を預けて、搭乗手順しまーす」


 学年主任の先生の声で、周りのクラスメイトがゾロゾロト動き出しました。


「え、ど、どうしよう」


「ペットは、事前予約じゃなくて当日手続きでOKだし、秋君のサイズなら乗れるはずよ。ただ、客室には入れないから、カウンターで手続きをしてクレートっていうケースを借りて、貨物室ね」


 プチパニックになる主に、田中さんが落ちつくようにと、背中を軽く叩いて教えてくれました。


「でも、個人旅行じゃなくて、修学旅行よ?」


 桃華ちゃん、その通りです。


「そこは、先生に相談ね」


「どうした?」


 そこに、動かない主達を心配して、梅吉さんが駆け寄ってきました。


「あ、兄さん…」


「梅吉にいさん… これ、どうしよう?」


主は、眉をハの字にして、スポーツバッグをそぉーっと開けました。




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