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第137話 春が来ます…『寂しいんですもん』

■その137 春が来ます…『寂しいんですもん』■


 皆さんこんにちは。ボクは、ミタカさんちのワンコのアキ君です。

 ボクのご主人様のミタカさんは、お仕事で寒い所に行ってしまいました。出張って言うらしいです。「10回寝たら帰って来るよ」って、お友達のトウリュウ君が教えてくれました。なので、ご主人様が居ない間、ボクはいつも通りオウメちゃん達のお家です。いつもと違うのは…


「あ、秋君、おはよう」


「わん」


 教室に入って来たマツザキさんが、オウメちゃんのお膝の上で丸くなっていたボクの頭を、ナデナデしてくれました。ボク、湯たんぽ替わりですよ。


 オウメちゃんの席は、窓際の一番後ろで、3階なので校庭や正門が良く見えるんです。


「ナイト君、ご機嫌いかが?」


「わん」


 今度は、タナカさんが来ました。


 ご機嫌、良いですよ! ボク、オウメちゃんのナイトですから!


 そうなんです、ボク、ご主人様が居ない間、ご主人様の代わりにオウメちゃんを守るんです!! ご主人様から、言われたんですよ。なので、学校にも一緒に来るんです。何回か来ているから、ボクが一緒に来ても、皆驚かなくなりましたよ。ウメヨシさんと一緒が多いんですけど、今回はオウメちゃんとです。でも、お勉強の邪魔はしない様に、大人しく大人しくしてます。


「今日の夕飯?」


 オウメちゃんの席の前は、モモカちゃんです。モモカちゃんは、オウメちゃんの方に体ごと向いて、写真がいっぱいの本を見ています。


「おはよー。

そう、今日の夕飯。最近、カロリー取り過ぎだから、今日はちょっと控えめにしようと思って。でも、あっさりしちゃうと、成長期たちが物足りなくなって騒ぐのよね」


 ボクも、お肉がいいです。


「おっはよー。

 何々? 美味しいの作るの? 私も食べたい~」


 オオモリさんが来ましたよ。今日も色んな所がキラキラしてて、元気ですね。


「あ、今度はセーター作るの?」


 オオモリさんが、オウメちゃんが読んでいた本を覗き込みました。


「うーん… まだ、私のレベルじゃぁ、難しいかな。でも、いつかはこんなセーター作りたいなって思って。でも、ミトンじゃなくて、5本指の手袋出来るようになってからかな」


 オオモリさん、オウメちゃんから本を受け取って、ペラペラ捲ります。


「ミトンも可愛かったじゃない? でも、流石にミトンは水島先生には可愛すぎかぁ~。松橋っチのセーター、カッコよかったよね。先輩、喜んでくれたでしょ? 私も、あんな素敵なセーターが作れるなら、手作り頑張れるんだけどなー」


「貴女は結果を急ぎ過ぎるのよ。松橋さんだって、最初から上手だったわけじゃないでしょう?」


「あら、ホントに素敵」って、タナカさんがオオモリさんの肩越しに本を覗き込みました。


「わ、私の最初の作品は、リ、リアン編みで… それも、上手く出来なくて…」


 マツハシさん、恥ずかしそうに俯いちゃいました。


「ふぅぅん~。でも、センスってあるじゃない?

 白川っチは絵、東条っチは歌のセンス、松橋ッチは手芸…」


「私は?」


「勉強!」


「地味ね」


 タナカさん、聞いてちょっとツマラナイって顔ですよ。


「地味ですが、一番大切ですよ。絵も歌も料理も手芸も、全ての根本は勉強です。それが継続できるかどうかで、未来が変わるんですよ。

 はい、朝のホームルームを始めますから、自分の席に戻ってください」


 カサハラ先生、足音を立てないで来るから、ボクもビックリです。


「鮭のホイル焼き」


 カサハラ先生、教壇に向かう前に、モモカちゃんにコソっと夕飯のリクエストです。


「あ、私も食べたーい」


 オオモリさん、スマートフォンを出して、ママさんにLINEです。オオモリさんちも、今夜は鮭のホイル焼きですね。


「水島先生も、夕飯のリクエストするの?」


「… うん」


 オウメちゃん、ご主人様の事を聞かれて、ちょっと元気が無くなっちゃいました。ニコって笑ってるけど、寂しそう…ご主人様、まだ帰って来ないですもんね。


「… お弁当のおかずも、リクエストしてくるわよ。


桜雨ったら、出張に出る日も、ちゃんとお弁当持たせたんだから」


「・・・かいがいしいわね」


タナカさんが呟くと、オウメちゃんはちょっと照れたみたいです。


「甘えん坊なのよ。あの人、出張に抱き枕持っていこうとして、兄さん達に止められたんだから」


「水島先生が抱き枕…」


 そうなんです。ご主人様、オウメちゃんに貰ったウサギの抱き枕を抱えて行こうとして、ウメヨシさんとカサハラ先生に止められたんです。結局、大きなカバンに入れて、持って行っちゃいましたけど。

 ご主人様、ボクよりあのウサギの方がいいんですね。


「どうせ、白川っチの代わりでしょう?」


 あー、そう言う事ですか。だから、いつも抱っこしながらオウメちゃんの名前を呼んでいたんですね。


「はいはいはいはい、朝のホームルーム始めますよ」


 カサハラ先生がパンパンパンって、手を叩きます。教室のお友達が皆イスに座って、ホームルーム開始です。


「… ウサギさんより、私を連れていて欲しかったな」


 オウメちゃん、カサハラ先生のお話しは耳に届いてないみたい。ぼーっと窓の外を見ながら、呟きました。


 ご主人様、早く帰って来て。オウメちゃん、寂しそうですよ。


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