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第129話 思春期の心を惑わす罪に名前を付けるなら… 恋

■その129 思春期の心を惑わす罪に名前を付けるなら… 恋 ■


 皆さん、こんばんは。『シスコン教師』こと、皆の『お兄ちゃん先生』、東条梅吉うめよしです。


 今夜は馴染の『竹ちゃん』のお店で反省会ではなく、説教会。

 呑み始めて約1時間。営業時間外の閉店後なのに、竹ちゃんは嫌な顔一つしないで片付けをしながら、酒やさかなを出してくれる。

 カウンターに一番近い4人掛けのテーブルに、俺と三鷹みたかと笠原。我がうるわしの従妹、桜雨おうめの父親の修二しゅうじさんが放って来た偵察の佐伯さえきは、カウンター席でジュースを飲みながら、竹ちゃんと談笑している。

 三鷹の行動が、俺の許容範囲を超えてたら、修二さんもそれなりの制裁を考えてるらしい。… 明日、学校あるけど、大丈夫か?そして、本日のジャッジでもある、仕事上がりの坂本先輩。


「親族以外で一番身近で過ごす時間も多い男と言うだけで、親近感を恋愛感情と勘違いしていてもおかしくはないだろし、そもそも恋愛に夢を見ている可能性もある。それに、まだ護られるべき年齢なのだから、手を出していいわけがないだろう。怖がらせたり、傷つけたりしたくない。

 なぁーんて、大人な発言をしていたのは、何年も前の事じゃないよな?! 一年も経ってないよな? それなのに、最近のお前の態度、何、あれ?! 最低限のスキンシップの範囲、超えてるよな?」


 俺は一気に言い切って、ウーロンハイの大ジョッキを一気に煽った。


 後ろから抱きしめるのは、目を瞑る。前から抱きしめるのは、片目をつぶる。膝枕は… まぁ、皆が居るリビングだけだから、両目を半分閉じる。でも、社会科準備室での、あれはアウト!お兄ちゃん、頭の血管切れるかと思ったよ!!


 目の前で冷酒を呑んでいる三鷹と、その隣では笠原が緑茶割を飲んでいる。坂本先輩は、俺の隣で赤ワインを堪能中。


「大丈夫だ、許容範囲内だ」


「いやいやいやいや、お前の許容範囲を聞いてんじゃないのよ? 桜雨の、許容範囲。分かる? 俺の、可愛い、従妹の、許容範囲」


 三鷹、ますを持った手がピクッと動いて、一気に機嫌を悪くした。メチャクチャ顔に出してる。まぁ、「俺の可愛い」なんて、ワザと言ったんだもんね。


「第一、進路に悩んでる桜雨に一人で悩まさせておいて、どんな進路をとっても応援するような素振りを見せといて、お前に縛り付けるような行動をちょいちょいとるんじゃないよ」


「それについては、同意」


 それまで、大人しく呑んでいた笠原が同意してきた。


「いや、お前もよ、笠原。学校で、焼きもち焼くなよ。桃華ももかがモテるの、今更なんだから」


「だから、先日も言ったじゃないですか。誰も居ないところ、せめて梅吉が居ないところで… って。まぁ、ここまで自分が焼きもちを焼くとは思いませんでしたが、焼いてしまうものは、しょうがないですよね。でも、三鷹よりコンプライアンスは守っていると思いますよ」


シレっと言うなよ、シレっと…


「… 抱きしめたら、アウトだろうが」


「それ、本人から?」


 あ、眉がピクッとした。


「私が聞いたのよ」


 それまで、黙って聞いていた坂本先輩が口を開いた。同時に、優雅に手を上げて、グラスワインのお代わりの合図を送った。


「2日前、二人ともカットに来たでしょう? その時、聞いたの。お友達と恋愛の話は出来るだろうけれど、『相談』は難しいでしょう? 相手が貴方達『先生』なんだから。友達が、他の子に思わずポロ… な~んてことも無いとは限らないし、万が一、問題になった時、友達は何も聞いてなければ煩わしい事に巻き込まなくて済むでしょう? 信用できる友達が居る居ないの問題じゃなくて、あの子たちなりの配慮なのよ」


 まぁ、二人で話してても、堂々巡りだろうしな。


 竹ちゃんの代わりに、佐伯がお代わりのグラスワインと、ボトルを持って来た。ついでに、笠原の緑茶割りと、俺のウーロン割りも運んでくれた。三鷹の升には、竹ちゃんが冷酒を注いでくれた。坂本先輩は、そのグラスをゆるゆると回しながら、一口呑んだ。


「まぁ、聞いた感じだと、桃華ちゃんは大丈夫ね。そこの『先生』が、本当に必要最低限のスキンシップに抑えてるようだし、何より、桃華ちゃんの気持ちを最優先にしているみたいだから」


「抱きしめたら…」


 アウトですってば。


「まぁ、桃華ちゃんだって、いくら桜雨ちゃんが特別で一番優先と言っても、笠原に特別な気持ちがあるんだから触れ合いはしたいわよ。それに、彼女も告白されてるのを見て、焼きもちやいたらしいし。

 で、アンタ、いつまでそのフード被ってるつもりよ?」


 俺の呟きをちゃんと拾ってくれたのは良いけれど、肯定かぁ… お兄ちゃんとしては、複雑なんですが。


「あのファッションショーの舞台用にカットしたのは良いんですけれどね、あの時は生徒にちょっかい出されていたもので、カッコいいままだと面倒になると思ったんですよ。それに、東条も舞台の事を思い出して、勉強に差支えが出るかな、と思いまして。

 だいぶ元の長さに戻って来たんですがね、暖かいんですよ、これ被っていると」


 ああ、大森か。あの子は、桃華の友達の中で、一番経験豊富だろうな。でもまぁ… 恋愛相談は出来ない相手だな。


「ということで、笠原は置いといて…三鷹、アンタよアンタ。問題は、ア・ン・タ。桜雨ちゃんはね…

 まだ卒業していないから、恋人らしいことを望んじゃダメだって分かっているんだけれど、他の生徒と話しているのを見ると焼きもち焼いちゃうし、学校が忙しくて会える時間が少ないと不安になっちゃう…。今までは我慢できてたんだけれど… その…『特別』って言ってくれたり… 抱きしめてくれたりしたから… 私、欲張りだわ。三鷹さんにギュってしてもらうとドキドキして、どうしていいかわからなくなるのに… キスして欲しいなって、思っちゃって。

 って、可愛い可愛いお顔を真っ赤っかっにして、ポショポシュ言ってたわよ。初々しいわよね。キス一つであそこまで顔を赤くして、悩めるんだから」


 先輩、桜雨のモノマネ、上手いな。見た目が先輩のまんまだから、目を開けてるとキツイけど。


「帰る」


「「帰さない!!」」


 おもむろに立ち上がった三鷹を、俺と笠原が反射的に捕まえた。


「お前、この状態で帰ったら、キスどころじゃないだろう!!

それこそ、修二さんに殺されるぞ!」


 三鷹、酔いが顔に出ないから質が悪い。呑み始め1時間半程で、一升は空けてるんだから、そろそろ酔いがまわって来てるはず。ってか、ペース早すぎだ。今帰したら、本当に桜雨が危ない。


「あ、修二さんに連絡します?」


 カウンターで様子を見ていた佐伯が、ニコニコとスマートフォンを取り出して見せた。


 いやいや、お前さん、三鷹の味方じゃないの? 仮にも、命の恩人じゃん?


「まだいいわよ。

 三鷹はお座り。まだ、あるから」


 坂本先輩、佐伯に手を振ってスマートフォンを仕舞わせて、三鷹に椅子に座るように指さした。



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