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第113話 リングにかけるのだ!3

■その113 リングにかけるのだ!3■


 2回戦は女子の戦いになります。男子の戦いを見ていたクラス代表の女子達は、なかなかリングに上がりませんでした。まぁ、コート脱ぐのも嫌ですよね。寒いですもん。


『コート、着たままでいいよー。手袋も、マフラーもしたままでいいよー』


 梅吉さん、リングの上からマイクで言いました。


「梅ちゃん、あんなレベルの羽根つき、出来ないって!」


 代表の一人が、リンク下で声を上げました。


「せんせー、私もムリムリー」


「あれ、格闘じゃん」


「ってか、寒くて体動かないよ~」


 すると、他の代表の子も口を開きました。


『いや、あのレベルの戦いを望んでないからね。むしろ、普通の羽根つきをして欲しいのよね。あんな汗だくの肉弾戦より、キャッキャウフフの微笑ましい姿の方が見たいに決まってんじゃん?』


 梅吉さん、しゃがみ込んでロープの隙間から女の子達に答えます。


「ってか、なんで羽根つき?」


「古いって」


「バレーとかでいいじゃん」


 不満、爆発です。


『年末の大掃除で、体育倉庫に眠ってたの、発掘しちゃったのよ。しかも、校長に見つかっちゃっての、この雪。イベント、やりたくなっちゃったみたいよ。ほら、うちの校長、こういうの好きでしょ?』


 梅吉さん、その校長先生、佐々木先輩の横で見てますけど? 後で怒られません?


「海外旅行で釣られたー」


「それな!」


『でも、行きたいでしょ?』


「「「「「「「「行きたい!!」」」」」」」」


 8人の息がぴったりと合いましたね。


『コート邪魔なら、俺のジャージ貸すよ?』


 って、梅吉さん、今着てるジャージを指さしました。


「貸して!」


「着る!」


「「「私も!」」」


「私もー!!」


 瞬間、5人の女の子と三島先生がコートを勢いよく脱ぎ捨てました。6人分もないですよねぇ…


『ほいほい、寒いから、早く上がっておいで~。あ、三島先生の分はないです。すみません、俺が寒くなっちゃうんで』


 って、5人分はあるんですね? 梅吉さん、コートを脱ぎ捨てた5人の女の子がリングに上がってくると、順番に脱ぎたてのジャージをズボッ! ズボッ! っと、頭から着せて行きました。それでも、まだジャージ姿な梅吉さん。何枚着こんでいるんですか?


「ズルーい!」


「私も、ウメちゃんのジャージ着たーい!」


「私もー」


『またのチャンスをお待ちください』


 あっちこっちから、女の子の声が上がりました。その中に混ざって、三島先生も声を上げています。梅吉さん、ブーブー言う声に、ヒラヒラ手を振って答えました。そのタイミングで、三鷹みたかさんがリング下からベンチコートを投げ入れました。梅吉さん、ありがたく着ます。他の3人の女子は、コートのままリングに上がってきました。主のクラスの代表は、バトミントン部の小酒井さんだったんですが・・・


「あらら? 桃華ももかちゃんが代表?」


リングに上がってきたのは、しっかりコート着た桃華ちゃんでした。

梅吉さん、マイクを切って聞きます。


「運動部の子達、怪我したら大変でしょう? 来週、試合ある子もいるみたいだし。運動神経いい桜雨だって、腕を怪我したら描けなくなっちゃう。私なら、そこそこ運動神経は良いつもりだし、万が一手足を骨折しても歌えるから」


 桃華ちゃん、言いながら下ろしていた髪を、手早くかんざしでお団子に纏めました。

 梅吉さんは納得しつつも、チラッとリング下を見ると、主が心配そうに見上げていました。


「無理して怪我したら、お兄ちゃん、泣いちゃうから」


 大きくため息をつきながら、梅吉さんはマイクのスイッチを入れました。


『じゃぁ、女子代表の皆さんが出そろったところで、始めまーす』


 ピーーーーーーーーー!!


 ホイッスルが響いて、羽根が投げられました。女子代表の試合が始まりました。


『2回戦、女子の試合が始まりました。

 先程の肉弾戦の印象が強いせいか、この試合はとても穏やかに感じられます。動きもアタフタしていて、とても微笑ましいです。ああ、あまり上を見上げると、足元がツルンと… 行きましたねぇ。可愛いお尻が4つに割れてしまっていないか心配です。やはりスポーツ科、足元もフォームも安定していますね』


 佐々木先輩の実況通り、女子もスポーツ科のE組とF組が強いです。ただ、男子と違って、パワーで押し切る感じではなく、羽根つきを皆で楽しんでいます。そうなんです、梅吉さんが望んでいた『キャッキャウフフ』って感じで、とっても楽しそうなんです。

 羽子板の音も、カァン… カァン… カァン… と、遅くなく早くなく、いいリズムです。


 ピーーーーーーーーー!!


『女子の皆さん、お疲れさまでした。先程とは変わって、ゆったりとしたお正月遊戯でした』


 3分間でしたが、体はほんのりですが温まったようで、皆の顔はほんのりピンク色になっていました。


「ウメちゃん、ジャージありがとー。洗って返すねー」


「私もー」


 梅吉さんは、この場で返して欲しかったんですが、借りた子は皆『洗ってからー』と、着たままリングを下りて、上からコートを着てしまいました。


 桃華ちゃんがリングを下りると、直ぐに主が駆け寄って声をかけていました。


『さて、結果です…。A組5回、B組7回、C組2回、D組4回、E組15回、F組10回、G組7回、H組6回。大差はついてないですね。

 では、最終試合、担任対決となります。選手の先生方、よろしくお願いします』


 佐々木先輩のアナウンスで、生徒達はキョロキョロ辺りを見渡しました。

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