■その112 リングにかけるのだ!2■
予定では、もう下校時間です。けれど、来年度の春にある修学旅行の行き先をかけて、イベントが行われることになりました。
今にも大きな雪が落ちて来そうな寒空の下、雪が降り積もっている大きな校庭のど真ん中に、大きな雪像のリングが鎮座しています。リングの周りには、防寒を確りした2学年の生徒達が囲んでいます。その前に、放送部3年の佐々木先輩がマイクを持って、こちらも防寒バッチリで立っていました。
『皆さん、あけましておめでとうございます。
新年早々、私、放送部3年・
では、これから『2学年・来年度修学旅行海外チケット強奪戦』を、始めたいと思います』
相変わらず、
『では、ルール説明します。この雪のリングで、各クラス代表1名づつ、計8名が一斉に『羽根つき』をします。
羽子板で羽を叩いた回数が一番多い人が勝ち。手前で落としたら、マイナス1点。それを、男子代表、女子代表、担任代表と、全部で3回戦行います。
試合時間は1試合、3分。あ、応援している人は、寒くない様にね。
風邪だけは引かないでね』
「羽根つき?!」
「羽根つき、って、あの?」
皆、何をやるのか初めて知ったようで、ざわめきが凄いです。
『思う所は色々あるかと思いますが、時間がかかればかかる程、風邪をひく率も上がりますので、スタートします。
では、各クラスの男子代表の皆さん、リングに上がってください』
よく見ると、リングに階段もついています。しかも、ちゃんと4か所。その階段を使って、各クラスの代表団氏がリングの上に上がりました。8人とも、防寒具を脱ぎ捨てて、制服です。
校庭もリングも制服も… 全部白色なので、寒々としてますね。
「うっし!うっし!!」
「さぁ、こいいいいっっっっ!!」
燃えているのは、筋肉質なE組とF組のスポーツ科と…
「怪我していいなら、来いよ!おらぁぁ!!」
我らが暴れん坊転校生の佐伯君です。
この3人だけは、学ランもシャツもインナーも脱いで、上半身裸で渡された羽子板をブンブンと素振りしています。ハッキリ言って、他の5人は思いっきり引いていますよ。観客の半分も引いています。
『やる気満々なのは結構ですが、出来るだけ、リングは赤く染めないでくださいね。では、東条先生お願いします』
佐々木先輩、物騒な事を言わないでくださいよぉぉ…
ジャージ姿の梅吉さんが、アナウンスに誘われてリングに上がりました。寒そうだな… と思ったら、結構、下に着こんでるようです。ホイッスルを口にくわえて、膝をぐっと曲げて、何やら下から投げる準備をします。周囲の視線が、梅吉さんに集中しました。
ピーーーーーーーーー!!
ホイッスルが綺麗に響きました。梅吉さんが、2個の羽を投げ上げると、サササっと逃げました。
「うおおおおりゃぁぁぁぁぁ!!」
「ふん!」
早くも、激しい応酬が始まりました。
『さあ、始まりました『修学旅行海外チケット強奪戦』。
ハッキリ言いまして、B組E組F組の肉弾戦です。筋肉の戦いです。筋肉が熱を発散させています!雪上で躍動感溢れる筋肉!滑らないのでしょうか? 足元はがっしりと重心が下がっています。湯気です! 滑って転んだら、その場の雪が解けています。さすがアスリートの卵、転んでも起き上がりが早いです。早くも3人の体から、湯気が立ち上っています。それに反比例するように、他の5クラスは腰が引けています! 3人に巻き込まれて怪我しないようにするのが、精一杯の様です。逃げるだけで、1回も突けていませんが、尻もちは幾度となくついています。それにしても、羽根つきなんて非日常の遊びですが、3人とも素晴らしいフォームです。空振りすら、美しい!!
そんなことを言っているうちに、遊びのスピードではなくなってきました。羽根に当たったら、『痛い』どころではないでしょう。きっと、額に当たったら、穴が開くこと必須でしょう!!』
羽子板が羽根を打つ音も、半端じゃないです。かぁ~ん、かぁ~ん、かぁ~ん… なんて、ノンビリしたものではなくて
カカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!!
と、音に伸びも、切れ目もありません。
ピピーーーーーーーーー!!
と、高浜先生のホイッスルが鳴りました。
「終わりだぁ!!」
佐伯君、勢いよく2個の羽根をリングに叩きつけました。… めり込んでいます。5人の尻もちで押し固められ、3人の素晴らしい足さばきで磨かれた雪のリンクに、羽根がめり込んでいます。
『はい、終了です。お疲れさまでした。
では、結果発表です。B組45回、E組43回、F組44回。他、5クラスは0回。
男子の部はこれで終了になります。風邪をひかないようにしてください』
佐々木先輩のアナウンスに、B組E組F組が湧きました。佐伯君、クラスのヒーローです。
『3クラスが湧いていますが、勝負はあと2回戦あります。まだまだ、逆転は可能です』
佐々木先輩の言う通りでした。勝負はあと2回あります!!