■その109 雪とワンコとハイヒールと乙女心2■
「ちょっと待った、この状態はまずい。非常に、まずい。俺が出るから…」
ウメヨシさん、なんで止めるんですか?
ピンポーン!
ほら、呼んでますよ? ボクが一番にお出迎えしちゃいますよ。ボクがカリカリと玄関のドアを前足でかくと、外から開きました。
「秋君、兄さん達、生きてる?」
「秋君、お散歩の時間ですよ~」
「アン!」
わーい! ご主人様、モモカちゃんとオウメちゃんですよー。
「… ハイヒール?」
オウメちゃん、ボクを抱っこしようとしゃがんでくれた瞬間、固まっちゃいました。
「誰の? これ?」
モモカちゃんは、片方のハイヒールを摘まみ上げます。
「あ、二人とも、あのな…」
「このサイズ、三人が履くには無理よね? 完全に、女性ものよね」
奥から慌てて出てきたウメヨシさんに、モモカちゃんが摘まんだハイヒールをプラプラさせながら、冷たく言います。… 美人さんの冷たい視線て、本当に怖いんですね。
「それはだね…」
「秋君、お散歩、行こう」
しどろもどろのウメヨシさんです。オウメちゃんはボクを抱っこして、うつむいていた顔を上げました。
「オイ、
「信じられない! 兄さん達、サイテー!!」
「いや、桃華ちゃん、あのね…」
モモカちゃんの勢いに、ウメヨシさんは押されっぱなしです。
「ワウワウワウ… ウフゥゥ」
オウメちゃん、ご主人様とお話ししてくださいよ。ボクはペロペロと、オウメちゃんの手を舐めました。
「… 秋君、ありがとう。大丈夫よ」
オウメちゃん、ボクに笑いかけてくれました。
「ごめんなさい、三鷹さん。ちょっと、悔しかっただけなの」
オウメちゃんが顔を上げた時、ご主人様がウメヨシさんの後ろに立っていました。遅いですよ、ご主人様!
「おいで、桜雨」
ご主人様、ブーツを履いてオウメちゃんの右手を握りました。
「あら、白川さんと東条さん。こんにちは、お邪魔してまーす。開けっぱなしはお部屋が冷えちゃうから、貴方達も入れば? 皆で
ご主人様とオウメちゃんが歩き出そうとしたら、奥からミシマ先生が出て来ました。あ、モモカちゃんの顔から表情が消えましたよ。
「結構です」
モモカちゃん、メチャクチャ冷たいです。
「えー、皆で楽しくお話ししましょうよ。そうそう、水島先生ね、可愛いウサギのぬいぐるみを抱っこしながら、お仕事してて…」
それに負けないミシマ先生は、強いです。
「はい、三島先生、お荷物です」
「え?」
そんなミシマ先生に、カサハラ先生は奥から持って来た大きな紙袋を押し付けました。
「先程も言いましたが、ここは女人禁制です。即刻、お引き取り下さい」
「えー、白川さんも東条さんも、上がっているんですよね? なんで私だけ、ダメなんですか?」
不満げなミシマ先生は、紙袋を受け取って唇を尖がらせて抗議です。
「三島先生、私達、お邪魔したことはありませんよ」
オウメちゃんが言います。
「え? 一度も?」
「はい、一度も。それは、私がまだ子どもだからです」
ビックリするミシマ先生を、オウメちゃんは真っすぐ見つめて言いました。右手は、ギュッとご主人様と繋いでます。
「良識ある女性なら、一人暮らしの独身男性の部屋に、一人で上がろうなんて思いませんよ。良識ある女性でしたらね。大家の娘と店子でも、教師と生徒であることに変わりはありませんし。そもそも、年頃の娘さんですよ?未成年ですよ?想いが通じ合っていたとしても、けじめある行動は取るべきです。それぐらい、教師ではなくても大人でしたら、分かっていて当然ですよね?」
「うっ… は、はい」
ミシマ先生、カサハラ先生に言われて、うぐぐぐぐぐ… と、唸っていました。
「でもでもぉ、こんなにご近所なんだから、ちょっとぐらい…」
「ありません」
オウメちゃん、ニコニコしながらキッパリと言います。ミシマ先生、ご主人様とオウメちゃんのが繋いでいる手を見ながら、聞きました。
「不安じゃないの?」
「気持ちに気が付いたら、不安でした。でも、三鷹さん、ちゃんと私に伝えてくれました。今でも、そうですよ。一番欲しい言葉は、まだまだ貰えないけれど、私を守ってくれているんです」
オウメちゃんはそう言うと、ニコッと微笑んで左手をご主人様に見せました。お姉さん指に、緑の輪っかがキラキラしてます。
「ただ、大人だからって言うだけで、三島先生がこのお部屋に入れるのが悔しいなって思っています。大人だから、すんなり入れちゃうんだって。年齢だけは、どんなに頑張っても待つしかないので」
「… 大人しい顔して、結構、しっかり言うのね」
ミシマ先生は、以外そうな顔をして言いました。
「だって先生、ちゃんと言わないと分からない人ですよね?」
あ、オウメちゃん、お顔はニコニコですけど、怒ってますね。
「あら、キツイ」
「言わせたの、先生でしょう?」
ニコッと笑ったミシマ先生に、モモカちゃんが言いました。
「そうね。ごめんね、白川さん。私が悪かったわ」
大きな溜息をついて、ミシマ先生がハイヒールを履くと、オウメちゃん達が左右にどきました。
「帰りまーす。でも、これだけは置いていきます。じゃないと、怒られに来ただけになっちゃうもの。
はい、東条先生。私も、本気ですよ」
ミシマ先生は、紙袋からラッピングされた袋を出して、ウメヨシさんに押し付けて行きました。
「本気ですって、兄さん」
「本気だそうですよ、梅吉」
思わず受け取っちゃったウメヨシさんは、モモカちゃんとカサハラ先生に肩をポンポンと叩かれました。
「じゃぁ、私達はお散歩行ってきます」
オウメちゃんはそう言うと、ご主人様の手を引いて、ボクのお散歩に出てくれました。まだ、抱っこのまんまですけど…。
ご主人様が嬉しそうだから、今夜はオヤツ多く貰えそうで、ボクも嬉しいです。