■その103 転校生は問題児・彼の環境が変われば彼も変わるのです■
あまりにも素直な佐伯君に、
「肋骨と一緒に、頭の骨も欠けた?」
「そうかも。あの一打の後から、そんなにイライラしないんだ」
やっぱり、あの一打が運命の分かれ道なんですね。
「父親に捨てられて母親はろくでなしって言われるのは慣れてるし、その通りだからあんまり頭には来ないんだけどさ、そんな親だからお前もろくでなしなんだって、一緒にされるのは頭にくるんだ。まぁ、ろくでなしには変わりないんだけど。勉強できない、常識がない、それもよく言われたし笑われた。だけど、水島先生や東条先生、笠原先生は『分からなければ教わればいい』って、笑わなかった。皆もそうだ。こうやって、馬鹿にしないで教えてくれる。素直な気持ちは口にするけど、馬鹿にはしないし、笑わないだろ?
だから、イライラしない。こんなの初めてで… ありがとう」
佐伯君が頭を下げると、皆はビックリして顔を見合わせました。
「それは、先生たちがそう教えてくれたからだよ。僕は、笠原先生をリスペクト(尊敬)しているよ」
なるほど。だからですか?考え方とか言い方とか、笠原先生に似てますよね委員長。
「そうね、ムカつく先生も居るけどね。でも、そんなのは、どこの学校でも同じでしょう?」
「… もしかしたら、今まではそう言った声が、佐伯君には反対に煩かったのかもしれないわね。場所と人が変われば、同じことを言われていても捉え方も変わるものよ」
桃華ちゃんの後に続いて、田中さんが言いました。
「随分と、持ち上げてくれますね。教師冥利に尽きますし、さらに励まないとですね」
本棚の影から、笠原先生達3人が現れました。先生組、上着や鞄を持っている所を見ると、もう帰れるみたいですね。
「あら、意外と早かった」
主が寝ちゃったから、桃華ちゃんがLINEで呼んだんですね。
「頑張って、定時上がり… とはいかなかったけれど、予定より早めに上がれたよ。さ、皆も帰らないと」
梅吉さんが疲れ切った顔で、それでも笑いながら、腕時計をトントンとさしました。
「え? もうそんな時間? やだ、デートに遅れちゃう」
慌ててスマートホンで時間を確認する大森さんの顔を、桃華ちゃんと田中さんと松橋さんが、「ん?」と見ました。
「新しい彼氏、出来たの?」
「ん? あ、出来たよー。言わなかったっけ?」
桃華ちゃんの質問に、大森さんはLINEをチェックしながら答えます。
「聞いてない。まぁ、言う義務もないけれど、あんな宣言したんだから、報告は欲しかったわね」
田中さんの言葉に、桃華ちゃんと松橋さんは頷きます。
「だーって、やっぱりプラトニックな恋愛って、私には無理なんだもん。気を引こうと頑張ったけど、分かってるんだかどうだか、全部綺麗にスルーされるから、早めに諦めたわよ」
大森さん、チラッと笠原先生を見て、直ぐにLINEに視線を戻しました。
「あ、正門に迎えに来てくれてた。じゃあね、また明日… 東条さんちでいいわよね。バイバ~イ」
ダダダダーと、一気に言い切って、大森さんは嵐のように図書室から出て行きました。
「さ、帰ろっか」
大森さんの勢いにボー然としていた皆に、梅吉さんが声をかけました。
「み、水島先生、ずっと抱いて帰るんですか?」
「まさか。家族のグループLINEに連絡入れたから、修二叔父さんが迎えに来てるはずよ」
用意周到です。主を抱き上げた
「あ、テストに関係ないけれど、良いこと教えてあげる。人のモノに手を出さないようにね」
そんな4人を見ていた佐伯君に、田中さんがそっと教えてくれました。