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第87話 きてみろゾンビ!(前)

■その87 きてみろゾンビ!(前) ■


 ガタコトカタコト… 三両編成のトロッコ列車は、一両に4人まで。窓ガラスもはまってなくて、天井もない、鉄枠に車輪が付いただけのトロッコ列車。

 先頭に梅吉さんと双子君達、二両目に主と三鷹みたかさん、三両目に桃華ももかちゃんと笠原先生が乗っています。薄暗くて肌寒い空間の中、トロッコ列車は小さな振動とその音を響かせて進んでいきます。赤い光が発射される大きな銃を構えて、ヘッドギアの額部分と、胸当ての心臓部分、肘当てにセンサーが付いているのを付けています。


 カタコトカタコトガタンガタン…


 薄暗い中、荒野の岩肌らしきものや、そこから生えてる木や草が見えます。明かりは、岩の凹凸のところどころに、ポンポンと無造作に置かれているランプ。トロッコ電車に明かりはないから、岩に置かれてるランプだけが頼りです。


 双子君達と桃華ちゃんは、銃を確り抱え込んで体ごとキョロキョロしています。梅吉さん達、保護者3人は意識的に視界を広くして、落ち着いてはいますが警戒しています。僕の主の桜雨おうめちゃんは… 三鷹さんと背中あわせに立って銃を構えつつも、本心はこの皆の状況をクロッキーしたかったりします。


 ガッタン!!


 トロッコ列車が大きく揺れて止まりました。


「来るかな?」


 梅吉さんが銃を構えます。その背中で、双子君達もドキドキしながら銃を構え直しました。


「ヴヴヴヴヴヴ…」


「おおおおおおお…」


 荒野の岩影から、不気味な声と共にゾンビがうようよと出て来ました。


「狙うのは、頭だよ! 心臓みたいに赤いの、ついてるでしょ? それ、狙うんだよー」


「「はーい!!」」


 入り口でスタッフに説明されていましたが、双子君達は雰囲気に飲み込まれて忘れていました。梅吉さんに言われて、元気よくお返事をして…

 シューティング開始です!!


「いやー! 来ないで来ないで来ないで!!」


 桃華ちゃん、絶叫と共に乱射です。けれど、発射できるのは8発。玉切れになったら、銃の本体にパスワード番号を入れなきゃダメなんです。このパスワードを打ち込む回数が少ない程、ポイントが上がります。


「スピードはだいぶ遅いですから、落ち着いて狙ってください」


「お、落ち着いて… 狙う…」


「深呼吸」


 横で笠原先生に言われて、玉をチャージした桃華ちゃんは、大きく深呼して構え直しました。


「息を吐き切ったところで止まって、撃つ」


 赤いレーザーが吸い込まれるように、ゾンビの額につけられたセンサーに届きました。瞬間、血の様な赤い光がパっと小さく飛んで、ゾンビは動かなくなりました。


「… できた」


「上出来ですよ。さ、得点を稼ぎましょうか」


 笠原先生、一発一発が確実です。それは、梅吉さんも三鷹さんも同じでした。


「きたきたきた!!!」


 冬龍とうりゅう君は3発に1発ぐらいの命中率です。


「来い来い来い来い!!」


「乗り出すの、無しー」


 夏虎かこ君の命中率も冬龍君と同じぐらいですが、今にも列車から出ちゃいそうです。そんな夏虎君のウエストを抱え込みながら、梅吉さんは得点を重ねていきます。

 意外と命中率が良いのは、主です。焦ることなく、ゾンビの額のセンサーを見つめて、引き金を引きます。けれど、本当によく狙うので、遅いです。たまに、三鷹さんが振り返って主に向かってくるゾンビを倒したりします。 


 ガッタン!


 5分もすると、トロッコ列車が動き出しました。興奮状態の夏虎君以外は、右腕にはめた時計のようなものをチェックしました。今のステージで獲った、ポイントが表示されています。


「桜雨、何ポイント… きたたたたた!!!!!」


 ホッとする隙も無く、今度はトロッコ列車が動いたまま、ゾンビが襲い掛かってきました。しかも、さっきよりスピーディです。しかも、列車は相変わらずガタゴト前進しています。


「自分のセンサーに触られちゃったら、ポイント0になるし、1分は銃が撃てないからね」


 気を付けて~って、梅吉さんが忠告してくれてますけど、聞こえてるのは三鷹さんと笠原先生ぐらいですね。要は、『死亡』になるんですね。


 今回は、主も必死です。


「やー、来ないでー」


 主の命中率も3発撃って1発命中と言ったところです。桃華ちゃんや双子君達は、まるっきり駄目です。たまに、思い出したように当たるぐらいです。それでも、やっぱり夏虎君は飛び出しそうで、梅吉さんに抱きかかえられています。

 梅吉さん、三鷹さん、笠原先生の腕はブレません。どんどん、ゾンビを倒してポイントを稼ぎます。




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