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第86話 遊園地と言えば… 絶叫!

■その86 遊園地と言えば… 絶叫!■ 


 三人乗りの椅子は、その左右を金属製の紐で天蓋と繋がれています。

動き出した瞬間、足元からフワリと浮遊感を感じて、直ぐにスピード感が突風と共に襲い掛かります。椅子に座っているのに、体はだんだんと斜めになっていきます。天蓋を支える中心の支柱の周りをクルクル回りながら、視界の横から放れていく地面を見て、口から悲鳴や奇声が飛び出して、流れているオルゴールの曲と混ざり合いました。


 桃華ももかちゃんを真ん中に、右は冬龍とうりゅう君、左は夏虎かこ君。三人は膝元の安全バーをギュッと握って、他の人達もしているように、笑顔で悲鳴か奇声か分からない声を上げています。

たった2分弱の空中遊泳で大興奮です。その様子を、笠原先生は確りとスマートフォンで動画を取っています。


「ヨシ兄ちゃん、お腹空いた!」


「桃ちゃん、喉乾いた!」


 元気よく降りて来た双子君達は、見守っていた笠原先生と、一緒に乗っていて足元がおぼつかない桃華ちゃんに、爽やかな笑顔でおねだりです。


「さっき、梅吉からLINEで、ポップコーンを買ってくるとありましたよ。飲み物も頼みますか?」


「あー、水島先生復活したわ。桜雨おうめと水島先生も、こっちに来るって」


 グループLINEをチェックです。スマートフォンを構えた桃華ちゃんと笠原先生に、冬龍君がパンフレットの地図を見せました。


「このジェットコースターなら僕たちも乗れるから、ここで合流はどう?」


「OK!じゃぁ、水島先生に飲み物を頼みましょう」


「梅吉にも伝えますね」


 冬龍君が合流場所に指定したジェットコースターは、1回転こそないけれど、暗闇の中で何回も左右に振る半回転がある物で、高低差も激しいです。双子君達みたいに大人用の絶叫マシーンには身長が足りないけれど、とっても元気で、アトラクションが大好きな子達に人気があるので、待ち時間はそこそこありました。


「お待たせー。とりあえずのポップコーン。次は、チェロスにしようか?」


 ジェットコースターの列にいる4人を見つけて、梅吉さんが小走りで駆け寄ってきました。列は一直線で、ロープで区切られているので、梅吉さんはロープの外側で止まります。

 梅吉さんは、この遊園地のキャラクターの入れ物に入ったポップコーンを、4人分買ってきてくれました。ケースは蓋つきで、肩掛け用のベルトが付いているので、一気に食べなくても良さそうです。


「キャラメル、イチゴ、バター醤油、塩… どれがいい?」


「「ありがとうー」」


 冬龍君はキャラメルを、夏虎君はバター醤油を取りました。まぁ、皆でつまむんですけどね。


「ほら、ちゃんと手を拭いて」


 桃華ちゃんが、サッとリュックから携帯用のウエットティッシュを出しました。すると、双子君達がシュッシュッと取った後に、梅吉さんと笠原先生もとりました。皆、ちゃんと手を綺麗にしてから、4種類のポップコーンを摘まみます。


「お待たせー」


 列に並んで、小動物みたいにポップコーンを頬張る双子君達を見つけて、主と三鷹みたかさんが7本のお茶のペットボトルを抱えて合流しました。列のロープの外側、梅吉さんの隣で止まりす。


「… 水島先生、私と交換しませんか?」


 ここと、そこ。と、桃華ちゃんが位置を指で示します。そんな桃華ちゃんに、三鷹さんは無言でお茶のペットボトルを差し出しました。ロープの外側から。


「兄さん…」


「ほら、桃華ちゃん、あーん」


 三鷹さんが駄目だと分かると、今度は梅吉さんを見ました。梅吉さんは、手にしていた塩味のポップコーンを、2つつまんで桃華ちゃんの口元に運びました。申し訳なさそうに、苦笑いしながら。そんな梅吉さんを、桃華ちゃんはジトーっと見つめました。


「桃ちゃんだって、怖いの好きじゃん」


「空中ブランコ、一緒に2回乗ったじゃん」


「今度は、ヨシ兄ちゃんも一緒だから、2人ずつで座ろうね」


「暗いの怖いなら、手を繋いであげるよ?」


 双子君達が交互に言います。桃華ちゃん、梅吉さんの差し出したポップコーンを、梅吉さんを見たまま、パクン!と食べました。


「じゃぁ、これに乗ったら今度は怖くないのね。私、皆で体を動かすのがいいな。シューティングゲームとかがいいかな? それと、ジェットコースターに乗ったら、ちゃんと手を繋いでよね」


 アムアムしながら、桃華ちゃんはニコッと笑って双子君達に言います。


「「OK」」


 双子君達が、ニコニコと右手の親指を立てて見せました。


 待ち時間はそんなに長くなかったけれど、双子君達の空腹が凄かったみたいです。短時間で、4つのポップコーンはほとんどなくなりました。主が持って来たお茶もほとんどなくなった頃、双子君達はぽっかり空いた黒い空間に、飲み込まれるように進んで行きました。心なし、笠原先生の顔色が良くなかったのは、気のせいでしょうね。



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