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第79話 浮かれてもいいじゃない?浮かれすぎは怪我をしますよ


■その79 浮かれてもいいじゃない?浮かれすぎは怪我をしますよ ■


 お昼です! 校庭の周りはテントがぐるりと立ち並び、焼きそば、たこ焼き、あんず飴、お好み焼き、チョコバナナ… 香ばしいソースの匂いが空き始めたお腹を刺激します。色とりどりの手作りPOPが各テントを鮮やかに飾り立てて、当番の生徒さん達はクラスや部で用意したお揃いのTシャツで、焼いたり、作ったり、売ったり、呼びこんだりと、大忙しです。昇降口前のコンクリート広場には、数個のパラソルが広げられて、その下には四人席が設置されています。もちろん、パラソルのない席もあって、ちょっとしたフードコートです。

 僕の主の桜雨おうめちゃんと、桃華ももかちゃん、田中さん、大森さん、松橋さんは、昨日のファッションショーぶりに顔を合わせました。皆、部活やクラスのお当番で、バラバラだったんです。

 たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、焼きおにぎり、クレープと、美味しそうなご飯がテーブルに並んでいます。椅子が一人分足りなかったので、お隣から借りちゃいました。


「昨日はお疲れさまでしたー」


 大森さんの音頭で、皆お茶で乾杯です。


「ねぇねぇ、今まで何してた? どっか、行った? 私は田中ッチと一緒に、だいたい回ったかな?」


 アツアツのたこ焼きをハフハフしながら、大森さんが聞きます。


「わ、私は、手芸部で殆どクラス。DVD担当の子が、き、昨日、頑張ってくれて… ス素敵なDVDが出来て…。朝からクラスで流しているんだけれど、ひょう、評判がとってもいいの。年配のお客さんもなんだけれど、あの… 生徒からも、質問があったりして、興味持ってもらえて…」


 松橋さん、いつも以上にしどろもどろなのは、嬉しくて興奮気味だからみたいです。目が、とてもキラキラしています。


「ふーん。よく見れば、作りが甘いんだけどね。でも、皆で頑張ったの褒められるの、嬉しいね」


 大森さんの言葉に、松橋さんは無言で大きく、何度も頷きました。


「最後、結局、小暮先生のエスコートだったじゃない。あんなに嫌がっていたのに」


 田中さん、大きくお口を開けて、お好み焼きを食べてい  きます。


「委員長がね、あのドレスのエスコートに、笠原先生は似合わないって渋い顔するんだもん。せっかくのドレスもモデルも素晴らしい出来なのに、エスコート役がそれをぶち壊すって言うから…。私の完璧な美しさが壊されるのよ? 他の人はあのドレス、似合わないのよ?! だから、小暮先生で我慢したわよ」


 あー、そう言う事か。


 と、主と桃華ちゃんは納得しました。


「けれど、東条さんをエスコートした人、誰?

気が付いたらランウェイ歩いてて、気が付いたら消えてたけど?」


「私も聞きたいわ。そもそも、私も桜雨おうめも最後にエスコートが付くなんて、聞いてなかったんですもの。ドレス着て、袖幕に行ったら居たから、ビックリしたわ」


 まぁ、本人に確認を取っていませんもんね。今日も仕事が忙しいのか、あまり長い時間一か所にもいないし、パーカーのフードを目深に被っているし… なんでか分からないけれど、隠したがっていますからね。


「で、でも、水島先生、格好よか、良かったわ」


「ヒールが高すぎて歩けなかったから、助かっちゃった」


 食べながら、話が弾んでいます。田中さんを中心に、テーブルの上の食事も、どんどん無くなっていきます。


「ねぇねぇ、君たち、可愛いね」


「俺たちさ、他校なんだけど、この学校に友達がいてさ…」


「当番とかで構ってもらえないんだよ」


「校内、案内してくんない?」


「俺たちも、5人だしさ」


 楽しいお食事タイムが、同年代の5人の男の子にストップさせられました。主達のテーブルの周りがざわつきます。


 いかにも、女子が好む綺麗目系男子が2人。ちょっと、いかつい男子が1人。ヤンチャ系の男子が2人。ぐるっと、主達を囲む様に、後ろに立っています。


「案内ですか? そこの昇降口で、地図が貰えますよ」


 田中さん、気にする様子もなく、2枚目のお好み焼きを食べながら、昇降口を指さしました。


「んー、ちょっと、好みじゃないなぁ」


 大森さんはタピオカミルクティーを飲みながら、バイバイと手を振ります。


「うちの文化祭で、ナンパしない方が身の為ですよ」


 桃華ももかちゃんは、目を合わせることもしなで、主とたこ焼きを半分こして食べています。周囲からはヒソヒソと「ヤバいよ、あれ…」「まずくない?」なんて声が上がり始めました。


「いいじゃん、遊ぼうよ」


「それとも、先生が口うるさい?」


「俺らから、先生に言ってやるよ?」


 綺麗目系の1人が桃華ちゃんの手を、いかつい男子が主の手を掴んだ瞬間でした。


「「パン!!」」


 どこからか、小さな破裂音が2発しました。その音が耳に届くのと同時に、桃華ちゃんと主の手を掴んだ男子の手が、思いっきり弾かれました。


「「いってぇ!!」」


 2人の男子は、痛みを覚えた手を摩ろうとしましたが…


「「パン!パン!!」」


「いてぇ!」


「マジ、何なの?」


 間髪入れずに、頭や顔に何かが当たります。止りません。今や、主と桃華ちゃんに手を出した2人だけでなく、5人全員が撃たれています。


「狙撃手?!」


「どこから!?」


「コルク栓… 2階の射的ゲームからだ!」


「向かいの校舎じゃん!」


「ねぇ、さっき、2階から誰か飛び降り…」


ギャラリーが騒めきます。が、主たち5人はじっとしています。下手に動いたら、当たりますもんね。松橋さん、ちょっと震えています。


「おい、お前等。うちの学校はナンパお断りなんだよ。このまま大人しく帰るか、俺にボコボコにされるか、選ばせてやるよ」


 5人を撃っていたのは、コルク栓でした。お祭りの射撃のあれです。その攻撃が止ったかと思ったら、桃華ちゃんの手を握った綺麗目系男子の頭に、竹刀の先端が押し付けられました。ゴリ! っと。


「うめちゃん、2階から飛び降りて走ってきたの?」


「マジ、すごくない?」


「うん、いろんな意味で、凄いわ…」


「ってか、2階から狙撃してんの、水島先生と笠原先生じゃん」


「あそこから?!」


「普通、ここまで飛ぶ? しかも、ピンポイントで当てる?」


 いろんな意味で、ギャラリーはざわついています。


「おら、どっちだ?」


 梅吉さん、本気で怒っていますね。口調が汚いですよ。


「か… 帰ります」


「すみません…」


5人の男子は、手や顔やなどの肌が露出している所に、丸く赤い痣を幾つも付けて、すごすご帰り始めました。ギャラリーの輪に自然と道が出来て、5人はそこを進んでいきます。


「どこから、見てたの?」


 そんな5人を見送りながら、桃華ちゃんが、たこ焼きを梅吉さんの口に入れます。


「2階の射的ゲーム。見回り中よん」


 食べながら上手に答えて、2個目のたこ焼きを口に入れてもらいました。


「っざけんな! センコー!!」


 一番後ろにいたヤンチャ系男子が、急にふり向いて梅吉さんに殴りかかってきました。が、手前に居た主に、綺麗に飛ばされました。


スっパーン!!


 と、大きな体が宙にクルっと円をかいて、背中からコンクリートに落ちました。主が袖を引っ張ってあげたので、頭は打たずに済んだようです。僕の主、優しいです。


「な…」


 急に景色が反転してビックリな男子を、主がヒョッコリと覗き込みました。


「竹刀よりは、痛くないですよ」


 ニッコリ微笑んだ主はパッと手を放して、向かいの校舎の2階を指さしました。


「多分、次は目を狙ってくると思いますよ? 腕は確かですから」


 天使の笑顔で、怖い事言いますね、主。


「か、帰ります!」


 今度こそ、男子たちは駆け足で帰って行きました。それを見ながら、ギャラリーは拍手喝采です。


「お騒がせしました」


 主、ペコリとお辞儀をして、食事を再開しました。何事もなかったかのように。桃華ちゃん達も、それにならいます。すると、ギャラリーは口々に感想を言いながら、元の場所へと戻り始めました。


「桜雨ちゃん、怪我は? 今のは…」


「梅吉兄さん、ありがとー。あのね、水島先生が今の怒ってたらね…」


 梅吉さんが聞くと、主は梅吉さんのその口に、たこ焼きを2個、押し込みました。


「お昼の約束、忘れたじゃないですか。って、言っておいてね」


 ニッコリ笑う主に、梅吉さんは思わずたこ焼きを飲み込んで頷きました。


「お仕事だから、しょうがないんで、チョコレートで手を打ちます。って」


「OK」


 伝言の続きを聞いて、梅吉さんはニッコリ笑って、指で丸サインを出しました。


「あ、東条先生、ようやく見つけましたー!!」


「三島先生!!」


 そんなホッコリしていた梅吉さんを、後ろから三島先生が呼びました。


「もう、随分探したんですよ!第一体育館の3階の『真実の森』、二人で入りましょうよー」


「いや、あそこは… じゃ、皆、気を付けるんだぞ!」


飛びつこうとした三島先生から、梅吉さんはひらりと避けて、校舎の中に走って行きました。


「東条先生~、待って~」


 後を追う三島先生を見ながら、主達は楽しいお食事を再開しました。




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