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第75話 浮かれてもいいじゃない?綺麗って言ってもらえたんだもん

■その75 浮かれてもいいじゃない?綺麗って言ってもらえたんだもん ■


 皆さん、こんばんは。ワンコの秋君です。

 今日は、ご主人様のミタカさんのお仕事場に行きました。ボクを拾ってくれた双子君達が、連れて行ってくれました。

 『文化祭』っていう、お祭りらしいです。お祭り、少し前に皆で行きました。皆で夜に浴衣着て、いっぱいのお店やゲームがありました。最後は、綺麗な花火も見ましたね。

 今日のお祭りは学校で、オウメちゃんやモモカちゃんがお店屋さんになってました。綺麗なお洋服や、バックとかが、いっぱい並んでました。オウメちゃんの描いた、綺麗な絵も見ました。


 学校、ボクは2回目ですね。前は、ご主人様のバックに入って行ったんですけど、今日は皆で、み~んなで行きました。お花屋さんも喫茶店も、今日はお休みです。オウメちゃんのお父さんが、車に乗せてくれたんです。

 オウメちゃんのお父さんも、モモカちゃんのお父さんも、学校ついたまでは元気だったんですけど… 綺麗なお洋服着たオウメちゃんとモモカちゃん見たら、元気なくなっちゃったんですよね。

 ボクはウメヨシさんに抱っこしてもらって、双子君達とお母さん達と、お祭りを楽しみましたよ。お父さん達は、畳のお部屋に、ほっとかれてましたけど。


 今は皆、晩御飯を食べ終わって、リビングでくつろいでいます。カサハラ先生は、まだお仕事で帰って来てません。

 ボクはご主人様とオウメちゃんと、夜のお散歩です。涼しくて、歩きやすくて、嬉しいです。ルートはいつも通りの、商店街1周です。


「今日はエスコートしてくれて、ありがとうございます。聞いてなかったから、ビックリしちゃった」


「委員長が、ヒールの高さを心配していた。昨日の帰り、副委員長にフォーマルスーツを持って来いと言われた」


「さすが、委員長と副委員長だねー」


 ボクのリードを持ってくれているのは、オウメちゃんです。両手で確りと、持ってくれています。ご主人様が持っているのは、お散歩バックです。


「ライトが眩しくて熱くて… 自分でもビックリするぐらい、何にも分からなくなっちゃった。

 本物のモデルさんて、凄いね。あんなに堂々と、綺麗に歩けるんだもん。

ハイヒールもね」


 オウメちゃん、えへへって笑って、ご主人様を見上げました。


「綺麗だった」


「ドレス素敵だったし、メイクもしてもらったから」


 ご主人様と目が合って、オウメちゃんアタフタしてます。


 これは、歩いてていいんですかね? 止った方がいいのかな? ご主人様、どうします?


「綺麗だった。今は、可愛い」


 あ、これ、止まった方がいいやつですね。ボク、空気が読めるワンコですから、止まりますよ。


三鷹みたかさんに褒めてもらえるのが、一番うれしい」


 せっかく止まったのに、オウメちゃんが「歩いて~」って、リードとチョンチョン引っ張るんです。


 ご主人様、歩いちゃって、いいんですか? あ、オウメちゃん、ほっぺが真っ赤っか。街灯の明かりでも分かるくらい、真っ赤っか。恥ずかしいんですね。恥ずかしいから、歩いた方がいいんですね? じゃぁ、歩きます。


「綺麗な桜雨おうめを、他の人には見せたくなかった。《》皆、桜雨に魅了される」


「それは、ほめ過ぎ。他の子達も、いつもより可愛くって、綺麗だったでしょ?」


「桜雨以外、見ていない」


 ご主人様、正直ですね。


「そ、そんなこと言うなら、私だって…。女子は三鷹さん見て、キャーキャー言ってた。カッコいい! 素敵! って…。それは、聞こえたんだから。

だから、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ…」


 オウメちゃん、ボクのリードを持つ右手を放して、ご主人様の左手をツンツンってしました。


「もし、声の方を向いたら… 私以外の女の子を見たら、イヤだなって… ちょっとだけ、思ったの」


 オウメちゃん、ボクのお尻じゃなくて、ご主人様のお顔を見てくださいよ。何だかボク、お尻がムズムズしてきちゃいましたよ。


「要らない心配だな。桜雨…」


 ご主人様、オウメちゃんの右手をギュッと握って、足を止めました。オウメちゃんもご主人様の顔を見上げたので… ボク、止まりますね。お座りして、待ってますから。


「他に目移りすることはない。俺からは、手を離さない。離すつもりは、微塵もない」


 ご主人様、ここ、商店街ですからね。夜でどこのお店も閉まっていますけど、人は歩いてますからね。手を繋ぐぐらいで、我慢してください。じゃないと、またカサハラ先生に言われちゃいますよ。


 って、ボクがご主人様の足元を前足でカリカリしていたら、オウメちゃんが抱っこしてくれました。


「桜雨が俺の『特別』だと、印をつけたい」


「… 印?」


「卒業まではこれを。今はオモチャだが、卒業したらお揃いのを買おう」


 ご主人様、ズボンのポケットから小さな白い箱を出して、オウメちゃんの左の手のひらに置きました。大丈夫、ボク、ちゃんとオウメちゃんにくっついてますから。


 ポクッ… って、小さな小さな音をたてて、ご主人様がその箱を開けると、小さな白い箱に入っていたのは、何の飾りもない緑色のガラスのリングです。それが、街灯を反射して、キラキラしていて綺麗です。


 ご主人様、これ、お祭りの景品ですよね? ボク、覚えてます。型ぬきの景品。だから、あんなに一生懸命だったんですね。


「やっぱり、オモチャじゃ…」


「うううん… 嬉しくって。本当に、私が貰ってもいいの?」


「桜雨を思ってとったものだ。それに、他に贈る相手なんかいない」


 オウメちゃん、下がり気味のお目目に、涙が溜まってますよ? ペロペロします?


「三鷹さん、ありがとう。私、凄く嬉しい」


 オウメちゃん、凄く可愛いです。いつも可愛いんですけど、今は、いつも以上に可愛いです。ちょっと零れた涙が光ったから? ほっぺがポッポッって、ピンクだから?


「俺も、嬉しいよ」


 ご主人様も、優しく笑ってます。… ああ、そうか、二人とも優しく微笑み合ってるから、二人の気持ちが幸せだから、そう見えるんですね。ボク、双子君達と視ているTVで、お勉強してるんですから。


「… つけて欲しいな」


 オウメちゃんが恥ずかしそうに言うと、ご主人様は頷いて、左手の薬指にそのガラスの指輪をはめました。オウメちゃん、街灯に向けて左手を伸ばしました。小さくて白い手、薬指の付け根で、指輪がキラキラしてます。それを見るオウメちゃんの顔が、さらに輝いて… 急に、ボクをぎゅって抱きしめて、背中に顔を埋めました。これやられるの、今日は2回目ですね。


桜雨おうめ?」


「嬉しくて嬉しくて… でも、恥ずかしくて… 多分、みっともない顔してるから… どうしよう…」


「そうか。じゃぁ、こうしよう」


 ご主人様、声がすっごく嬉しそうです。オウメちゃんの小さな手を、ご主人様の大きな手がギュって握りしめて、ゆっくり歩き始めました。

お家に向かって…。お散歩、4分の1で終わりですね。まぁ、いいですけど。



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