■その72 浮かれてもいいじゃない?初ランウェイだもの ■
皆さん、おはようございます。
今日は、桜雨ちゃんの通う高校の文化祭初日です。この日のために、皆頑張ってきました。
文化祭は9時からスタートです。主達のクラスの出し物は10時からで、プログラム1番!学校で一番大きな体育館の舞台に、『舞台係』がランウェイを増設しました。ライト・BGMもスタンバイOKです。9時40分には観客も入り始めて…
パっ!と、会場内の明かりが消えました。
「皆さまお待たせいたしました。
放送部3年皆様にスーパーな実況をお届けする、
では、早速いきます…
今年の文化祭、舞台のスタートを華々しく切るのは、2年B組兼・手芸部と、3年有志による『ファッションショー』です!」
とっても聞き覚えのある声とリズムが、文化祭がスタートすることをお知らせです。佐々木先輩の声が聞こえただけで、会場は沸きました。
「3年B組普通科進学コース、赤井
さあ、モデルの皆さん、華々しくキャットウォークです!!」
定時に華々しいBGMと共に着飾った2年B組の生徒が、次々にランウェイを歩き始めました。どこかぎこちなく、恥ずかしそうに… かと思えば、胸を張ってどうどうと歩いている子もいます。
舞台袖では、準備の終わった『モデル』さんが、心臓ドキドキで待機していて、そのさらに奥では、まさしく準備中。常に、準備中。
ランウェイから戻ったモデルさんが、次の衣装に着替えて、メイクや髪を治します。着替えや、小物や、お化粧道具が飛び交っています。そんな中で僕の主の
「白川さんも東条さんも、意識ある!?」
「大丈夫だよ。ちゃんと、歩けてたからね」
早々に1回目のウォーキングを終えた主と桃華ちゃんは、次の衣装の準備です。魂が抜けたような主と桃華ちゃんに、メイク担当の子達が手をせっせと動かしながら、声をかけてくれています。
「覚えてない…」
「私も~」
二人とも、初めてのランウェイは、記憶が吹っ飛んだようです。
「DVD撮ってるから、打ち上げでみようね」
「私達、見れないからさ」
ヘアメイクも、ほぼ同時進行です。1人に2人がかりで、首から上が仕上がります。
「写真部も、そこいらで写真撮ってるよ」
「もうさ、音楽聞こえないのー」
桃華ちゃん、半べそです。
「うん、自分の心臓の音だけだった~」
主の心臓、まだドキドキです。
「ライトも明るいから、目の前、真っ白だったし。桜雨と手を繋いでて、ホント、正解」
「あれ? 昨日のリハーサルでは、歩けてたでしょ?」
「本番は、やっぱり違うよ~。私も、桃ちゃんの手だけが頼りだった~」
数10分前まで、本当に始まる前まで…
「桜雨、いつもより少し大人っぽいわ。髪もいつもよりフワフワしてて、可愛い」
「桃華ちゃんも、今日のヘアスタイル、かっこいい!」
「このヘアスタイル、ギブソンタックっていうらしいわ。ヘアメイクの係の子が、教えてくれたの。でね、桜雨… これ、付けて欲しいんだけど」
桃華ちゃんが主に差し出したのは、笠原先生が選んでくれた
「アジアン風だから、合わなくはないと思うの。無色だし… 似合わないかな?」
心配そうな桃華ちゃんに、主はほほ笑んで答えました。
「大丈夫、よく似合ってる」
そして、主は桃華ちゃんの手から簪を受け取って、正面から見えるように斜めに挿しました。恥ずかしそうにほっぺを赤くした桃華ちゃんの髪で、簪がキラキラしています。
「二人とも、ケープ付けたまま、出ないでよ」
クラスメートに言われて、苦笑いしながらケープを外しました。
ふんわりとした丸襟つきの、Aラインワンピース。袖は七分で、裾は
桃華ちゃんは、クリーム色のパフスリーブのボウタイレースワンピースです。背中は、太くて濃い緑のリボンで、サイズ調整が可能になっています。
肘から絡めるレース編みのショールは背中のリボンと同色で、これも桃華ちゃんが作りました。
主も桃華ちゃんも、お互いに可愛い可愛いと、キャッキャウフフしていたんですよ。緊張の『き』の字も無かったんですよ。それなのに、ランウェイに1歩足を出した途端、リハーサルも何もかも、全部飛んだみたいです。
「ほら、出番よ出番、はやく舞台袖まで進んでー」
「あー… うん、頑張る」
「うん… 頑張る」
進行係に急かされて、桃華ちゃんも主も、そっと… そーっと、歩き出しました。実は、さっきよりヒールが高いんです。大森さんに言わせると、
「こんな高さ、たいしたことないわよ。ランウェイあるくなら、もっと高い方が足のラインが綺麗に出るのに」
との事らしいです。けれど、スニーカーや、ちょっとした高さのヒールしか履いた事のない主や桃華ちゃんには、十分高いんです。1回目は、こんなに高くなかったんですけどね。しかも、何を履くか知らされたのは、今日でした。
「2回目でしょ! 大丈夫、大丈夫!!」
「舞台袖まで行けば、何とかなるから!」
皆に背中を押されて、主と桃華ちゃんは手を取り合って、支え合って歩き出しました。
舞台袖に上がる階段を上がると、ライトの瞬きと、BGMの音だけでなく振動まで、足元から体に伝わってきます。さっきみたいにお互いを見て、キャッキャウフフする余裕なんて皆無です。DVD撮影の係の子が、主と桃華ちゃんの化粧ケープを外してくれました。
「桃ちゃん、私、緊張…」
舞台袖に纏められた幕の影に、大きな人影が2人、立っていました。主と桃華ちゃんは、息を飲んでその人影を見つめました。舞台に降り注ぐライトが逆光になって、その人達は『影』でしたけど、まるで王子様のような動作で、主と桃華ちゃんに手を差し伸べました。